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断絶の航悔(スーパー・カリフォルジリスティック・エクスピアリ・ドーシャス⑤ 邪悪の樹
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■ 原子力巡洋艦ロングビーチ
図らずも非武装の民間船舶に第三艦隊の一角を切り崩された。反乱部隊は事態を把握できずにいる。千載一遇のチャンスだ。
「五百蔵艦隊を援護せよ」
ハーベルトはこの混乱に拍車をかけるべく、さらなる攻勢に出た。後部車両の豊穣角式万物工作機械に急ピッチで対潜魚雷を製造させる。
「サンディエゴ海軍基地所属のロサンジェルス級原潜は四隻。USSヘレナ以外は第三世代の艦です。同じロサンジェルス級でも全くの別物ですよ」
望萌がスペックシートを一瞥して、相手を侮るなと警告する。
「潜水艦発射型対艦誘導弾を積んでいるのね。確かに厄介だわ」
ハーベルトは気を引き締めた。鉄道連絡船プリンセス・リカートに音響ソナーの類はない。しかしながら、代用手段は用意されている。
「爆撃誘導員を対潜哨戒に? 無謀ですよ。だいいち、戦闘経験はおろか、運用ノウハウもない」
望萌はハーベルトの思い付きを即座に否定した。
「誰が彼女たちに索敵させるといいました。高密度の重水素は音波を減衰させるの。わかるかしら?」
閣下の提案は全く逆のものだ。重水素二量体能力を用いて水中のありとあらゆる雑音を消し去ってしまうというのだ。これは超音波キャビテーションと呼ばれている。さらに伊四百をそれで囲ってしまえば、水中でステルスが実現する。
「TWX1369は上空援護に回ります」
ハウゼル列車長が汽笛を鳴らすとヘッドマークに陽光がきらめいた。グンと列車が反りあがる。その直後、機関車から水蒸気が噴き出した。さぁっと最後尾までうろこ雲に包まれる。超音波キャビテーションが周辺の水分を攪拌し、枢軸特急を電磁気的に透明化した。
すると、たちまちのうちに巡洋艦ロングビーチと交信が回復した。邨埜純色は警告をガン無視された事にたいそうお冠の様子だったが、それどころじゃないとハーベルトに諭された。
ロングビーチは建造コストが破格なだけあって個艦防空能力が抜きん出ている。
「上空のうるさい小蠅は任せて」
純色は機嫌を直すとカロリーメーターを揮って対空迎撃システムを全開した。建築途中の鉄筋コンクリート造りに似た構造物のうえで10メートル四方の鉄板が半径200キロ圏内に電磁波を浴びせ倒す。三次元レーダー「スキャンファー」がピースメーカーをひとつ残らず捕捉し、ロックオンする。
「その兵器は『ミサイル全部乗せ』でしょ。『わたしが考えたさいきょうのじゅんよ~かん』を地で行くっていうじゃない♪」
ハーベルトは通信コンソールに両肘をつき、羨ましそうに純色を見つめる
「うるさいわね。私が引き揚げたの。オヤジみたいに鼻の下を伸ばしたってあげないわよ。だいたい、貴女ねぇ……」
純色は遠回しの要求をピシャリとはねつけた。
XB-58Gはロングビーチに睨まれたまま臨終を迎えるつもりはないらしく、電子妨害装置で攪乱したり、電波欺瞞紙をバラまいたり、ありとあらゆる悪あがきを試みる。
「――?!」
純色は手元の翡翠タブレットに微かな異変を感じ取った。ピースメーカーの数は全部で23機。索敵結果に変わりはない。敵影は数々の妨害をかいくぐって鮮明に捉えられている。ところが、それが一つ一つ失われていった。
スキャンファーレーダーは鉛筆のように細長い電磁波を蛇のようにくねらせる。そして、遠近さまざまな奥行きのある縦波を照射して敵機の姿をつかみ取ろうと躍起になっている。
「純色さん。お困りのよ~ですねぇ」
ハーベルトはここぞとばかりに助け舟を出した。敵はQCDでチャフを補強している。
「チャフの本質は誘惑と飽和よ。敵弾を引き付けるために囮は本体を模倣するか、より魅力的に、より大胆に……」
猪突猛進するミサイルを回避するためには自分と同規模のレーダー断面積を持つ囮を放たねばならない。それだけでなく、囮はオリジナルに勝る属性を帯びる必要がある。さもなくばミサイルに見向きもされない。
「――ユーレカ! 運命量子色力学の出番ね。ありがと」
純色は誰かさんの決め台詞を横取りした。そしてハーベルトはちゃっかりとロングビーチの区分所有権を要求した。
「逃がさないわよ。ミサイルを誘惑したいという色欲には純潔を、一発でも多くを引き付けたいという強欲には救恤を、敵を欺いてやるという傲慢には謙譲を!」
純色のカロリーメーターを介してロングビーチが反QCD粒子を散布する。化けの皮を剥がれた爆撃機はもはや巡洋艦の敵ではなかった。
「TWX1369は対潜哨戒に回ります」
ハウゼル列車長は五百蔵艦隊が潜航している海域にTWXを飛ばした。風を切って波しぶきをあげる枢軸特急は伝説の海龍シーサーペントを彷彿させる。祥子は車窓を全開にして風で黒髪を梳かす。濃紺のプリーツスカートが腰までまくれあがり、バタバタと靡いている。うんっと背筋を伸ばして、潮の香りを深呼吸する。
「わぁ。気持ちいいね……って、ひゃん☆」
ハーベルトが後ろから襲い掛かって、祥子をビキニ姿に剥いた。
「爆撃誘導員を引率してちょうだい。わたしはこっちを……」
伝書鳩を一斉に放つように列車から無数の天使が飛び立った。
■ マーサズ・ヴィニャード
「馬鹿が鯨に喰いついた」
ノートン七世からの勅滋がマストに字幕表示された。
木の葉のように揺れるヨットの上で少年たちは不安げに身を寄せ合い、それをみあげている。彼らはヴィニャードで生まれ育った人々の複製だ。そこにヒトラー・ユーゲントの遺伝子が組み込まれた。ヴァイアーン幻想教団――陰謀論者はイルミナティとかフリーメーソンと呼んでいる――の最終奥義。邪悪の樹をこの世の現出させる役割分担をしている。
それは何かというと生命の根本をつかさどる三本の宇宙樹だ。世間一般には残りの二本がよく知られている。
アダムとイブが蛇にそそのかされて食べたという禁断の林檎――知恵の樹。有名なカバラ密教に登場するセフィロト(生命の樹)
そして、無名な邪悪の樹。
これらが揃ってはじめて生命誕生から死に至るサイクルが完成する。アメリカの奥の院は大分裂の二百年以上前から邪悪の樹立を最終目的地として歴史の表裏で暗躍してきた。自由・平等・博愛の三大精神はどれも純粋な死に収束する。人間を含む万物はエントロピー増大法則から逃れることは原理的に不可能である。今ここに自分が存在できるのは、他者の否定が前提としてある。また、物事が循環するメカニズムは「ひとつ前の状態」が消滅することによって進展する。これらの背景には容赦ない滅びを運搬する機構が欠かせない。
死は誰にでも平等に訪れて、魂に自由にあたえ、末期の苦痛を消してくれる博愛によって担われる。
エフゲニー・ローズバード大統領はリンドバーグの壁を第一国是として辣腕を揮ってきた。それは奥の院が綿密に描いた未来像を反映したに過ぎなかった。
リンドバーグの壁際に生える邪悪の樹はイギリスを追い出された清教徒の深層心理が熱望したものだ。それは大分裂したアメリカの先にあるものだ。ノートン七世の「み言葉」はそのように帆を駆け抜けた。
邪悪の樹を完全掌握した先にあるもの。それはすなわち、……――。
「――?! ねぇ、ハーベルト!! あの子たち」
音響ブイ投下作業を見守っていた祥子は小さなヨットを発見した。そして「彼ら」と目が合ってしまった。ダイマー視覚を通じてハーベルトも驚くべき光景を目の当たりにしている。
「祥子?」
ずらりと並ぶ顔はどれも違和感たっぷりだ。
「思い出したわ。祥子、深入りしないで。すぐにその場を離れなさい!!」
警告もむなしく、彼らは祥子から何かを奪った。
ナナチ青年ハンス・シュティールが武鳥明菜に植え付けた遺伝情報。その意味するところを理解する前に祥子の意識は白濁した。
「こうなるはずじゃなかった! こうなるはずとわかっていたからこそ、わたしはあの子を殺しておくべきだった!!」
ハーベルトは鉄の規律を遂行する前に、無駄な抵抗を試みた。ダイマー聴覚で祥子に怒鳴る。
「祥子?! 起きているの? さもなくば、さっさと起きなさい! 瞳の奥にあるモノを出しちゃだめよ」
恥も外聞もなく、大声で繰り返し呼びかける。
そして、祥子の光彩に、ベルリンで第二次大戦末期に焼却された筈の男が浮かんできた。連合国軍が包囲網を狭める中、夫婦二人で最後の晩餐と祈りを捧げ、ピストル自殺したその男。
鉤十字を背負った指導者の名前は――。
図らずも非武装の民間船舶に第三艦隊の一角を切り崩された。反乱部隊は事態を把握できずにいる。千載一遇のチャンスだ。
「五百蔵艦隊を援護せよ」
ハーベルトはこの混乱に拍車をかけるべく、さらなる攻勢に出た。後部車両の豊穣角式万物工作機械に急ピッチで対潜魚雷を製造させる。
「サンディエゴ海軍基地所属のロサンジェルス級原潜は四隻。USSヘレナ以外は第三世代の艦です。同じロサンジェルス級でも全くの別物ですよ」
望萌がスペックシートを一瞥して、相手を侮るなと警告する。
「潜水艦発射型対艦誘導弾を積んでいるのね。確かに厄介だわ」
ハーベルトは気を引き締めた。鉄道連絡船プリンセス・リカートに音響ソナーの類はない。しかしながら、代用手段は用意されている。
「爆撃誘導員を対潜哨戒に? 無謀ですよ。だいいち、戦闘経験はおろか、運用ノウハウもない」
望萌はハーベルトの思い付きを即座に否定した。
「誰が彼女たちに索敵させるといいました。高密度の重水素は音波を減衰させるの。わかるかしら?」
閣下の提案は全く逆のものだ。重水素二量体能力を用いて水中のありとあらゆる雑音を消し去ってしまうというのだ。これは超音波キャビテーションと呼ばれている。さらに伊四百をそれで囲ってしまえば、水中でステルスが実現する。
「TWX1369は上空援護に回ります」
ハウゼル列車長が汽笛を鳴らすとヘッドマークに陽光がきらめいた。グンと列車が反りあがる。その直後、機関車から水蒸気が噴き出した。さぁっと最後尾までうろこ雲に包まれる。超音波キャビテーションが周辺の水分を攪拌し、枢軸特急を電磁気的に透明化した。
すると、たちまちのうちに巡洋艦ロングビーチと交信が回復した。邨埜純色は警告をガン無視された事にたいそうお冠の様子だったが、それどころじゃないとハーベルトに諭された。
ロングビーチは建造コストが破格なだけあって個艦防空能力が抜きん出ている。
「上空のうるさい小蠅は任せて」
純色は機嫌を直すとカロリーメーターを揮って対空迎撃システムを全開した。建築途中の鉄筋コンクリート造りに似た構造物のうえで10メートル四方の鉄板が半径200キロ圏内に電磁波を浴びせ倒す。三次元レーダー「スキャンファー」がピースメーカーをひとつ残らず捕捉し、ロックオンする。
「その兵器は『ミサイル全部乗せ』でしょ。『わたしが考えたさいきょうのじゅんよ~かん』を地で行くっていうじゃない♪」
ハーベルトは通信コンソールに両肘をつき、羨ましそうに純色を見つめる
「うるさいわね。私が引き揚げたの。オヤジみたいに鼻の下を伸ばしたってあげないわよ。だいたい、貴女ねぇ……」
純色は遠回しの要求をピシャリとはねつけた。
XB-58Gはロングビーチに睨まれたまま臨終を迎えるつもりはないらしく、電子妨害装置で攪乱したり、電波欺瞞紙をバラまいたり、ありとあらゆる悪あがきを試みる。
「――?!」
純色は手元の翡翠タブレットに微かな異変を感じ取った。ピースメーカーの数は全部で23機。索敵結果に変わりはない。敵影は数々の妨害をかいくぐって鮮明に捉えられている。ところが、それが一つ一つ失われていった。
スキャンファーレーダーは鉛筆のように細長い電磁波を蛇のようにくねらせる。そして、遠近さまざまな奥行きのある縦波を照射して敵機の姿をつかみ取ろうと躍起になっている。
「純色さん。お困りのよ~ですねぇ」
ハーベルトはここぞとばかりに助け舟を出した。敵はQCDでチャフを補強している。
「チャフの本質は誘惑と飽和よ。敵弾を引き付けるために囮は本体を模倣するか、より魅力的に、より大胆に……」
猪突猛進するミサイルを回避するためには自分と同規模のレーダー断面積を持つ囮を放たねばならない。それだけでなく、囮はオリジナルに勝る属性を帯びる必要がある。さもなくばミサイルに見向きもされない。
「――ユーレカ! 運命量子色力学の出番ね。ありがと」
純色は誰かさんの決め台詞を横取りした。そしてハーベルトはちゃっかりとロングビーチの区分所有権を要求した。
「逃がさないわよ。ミサイルを誘惑したいという色欲には純潔を、一発でも多くを引き付けたいという強欲には救恤を、敵を欺いてやるという傲慢には謙譲を!」
純色のカロリーメーターを介してロングビーチが反QCD粒子を散布する。化けの皮を剥がれた爆撃機はもはや巡洋艦の敵ではなかった。
「TWX1369は対潜哨戒に回ります」
ハウゼル列車長は五百蔵艦隊が潜航している海域にTWXを飛ばした。風を切って波しぶきをあげる枢軸特急は伝説の海龍シーサーペントを彷彿させる。祥子は車窓を全開にして風で黒髪を梳かす。濃紺のプリーツスカートが腰までまくれあがり、バタバタと靡いている。うんっと背筋を伸ばして、潮の香りを深呼吸する。
「わぁ。気持ちいいね……って、ひゃん☆」
ハーベルトが後ろから襲い掛かって、祥子をビキニ姿に剥いた。
「爆撃誘導員を引率してちょうだい。わたしはこっちを……」
伝書鳩を一斉に放つように列車から無数の天使が飛び立った。
■ マーサズ・ヴィニャード
「馬鹿が鯨に喰いついた」
ノートン七世からの勅滋がマストに字幕表示された。
木の葉のように揺れるヨットの上で少年たちは不安げに身を寄せ合い、それをみあげている。彼らはヴィニャードで生まれ育った人々の複製だ。そこにヒトラー・ユーゲントの遺伝子が組み込まれた。ヴァイアーン幻想教団――陰謀論者はイルミナティとかフリーメーソンと呼んでいる――の最終奥義。邪悪の樹をこの世の現出させる役割分担をしている。
それは何かというと生命の根本をつかさどる三本の宇宙樹だ。世間一般には残りの二本がよく知られている。
アダムとイブが蛇にそそのかされて食べたという禁断の林檎――知恵の樹。有名なカバラ密教に登場するセフィロト(生命の樹)
そして、無名な邪悪の樹。
これらが揃ってはじめて生命誕生から死に至るサイクルが完成する。アメリカの奥の院は大分裂の二百年以上前から邪悪の樹立を最終目的地として歴史の表裏で暗躍してきた。自由・平等・博愛の三大精神はどれも純粋な死に収束する。人間を含む万物はエントロピー増大法則から逃れることは原理的に不可能である。今ここに自分が存在できるのは、他者の否定が前提としてある。また、物事が循環するメカニズムは「ひとつ前の状態」が消滅することによって進展する。これらの背景には容赦ない滅びを運搬する機構が欠かせない。
死は誰にでも平等に訪れて、魂に自由にあたえ、末期の苦痛を消してくれる博愛によって担われる。
エフゲニー・ローズバード大統領はリンドバーグの壁を第一国是として辣腕を揮ってきた。それは奥の院が綿密に描いた未来像を反映したに過ぎなかった。
リンドバーグの壁際に生える邪悪の樹はイギリスを追い出された清教徒の深層心理が熱望したものだ。それは大分裂したアメリカの先にあるものだ。ノートン七世の「み言葉」はそのように帆を駆け抜けた。
邪悪の樹を完全掌握した先にあるもの。それはすなわち、……――。
「――?! ねぇ、ハーベルト!! あの子たち」
音響ブイ投下作業を見守っていた祥子は小さなヨットを発見した。そして「彼ら」と目が合ってしまった。ダイマー視覚を通じてハーベルトも驚くべき光景を目の当たりにしている。
「祥子?」
ずらりと並ぶ顔はどれも違和感たっぷりだ。
「思い出したわ。祥子、深入りしないで。すぐにその場を離れなさい!!」
警告もむなしく、彼らは祥子から何かを奪った。
ナナチ青年ハンス・シュティールが武鳥明菜に植え付けた遺伝情報。その意味するところを理解する前に祥子の意識は白濁した。
「こうなるはずじゃなかった! こうなるはずとわかっていたからこそ、わたしはあの子を殺しておくべきだった!!」
ハーベルトは鉄の規律を遂行する前に、無駄な抵抗を試みた。ダイマー聴覚で祥子に怒鳴る。
「祥子?! 起きているの? さもなくば、さっさと起きなさい! 瞳の奥にあるモノを出しちゃだめよ」
恥も外聞もなく、大声で繰り返し呼びかける。
そして、祥子の光彩に、ベルリンで第二次大戦末期に焼却された筈の男が浮かんできた。連合国軍が包囲網を狭める中、夫婦二人で最後の晩餐と祈りを捧げ、ピストル自殺したその男。
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