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断絶の航悔(スーパー・カリフォルジリスティック・エクスピアリ・ドーシャス)④鉄道連絡船姫プリンセス・リカート
しおりを挟む■ TWX1369戦闘指揮車両(承前)
「RWS(範囲捜索)からVCTR(針路索敵モード)へ!」
ハーベルトは対空レーダー波を可能な限り絞り込んだ。ステルス戦闘機や真正面を向いている機体などレーダー反射率の低い目標を遠距離まであぶり出す。揚陸艦は巨大な鉄の塊だ。そんな重量物が羽の生えた巻物のように軽々と動ける筈がない。ステルス戦闘機か何かを用いて珪酸ガラスを散布したのだろうと考えた。
「待ってください。分光光度計に珪素の輝線スペクトルは見当たりません」
量子オペラグラスを覗いていた望萌がハーベルトの憶測を否定した。
「じゃあ、望萌。あれはどういう……」
激しい横揺れと閃光がハーベルトを圧倒した。すぐ後ろの空間防護車両でエリコンKDG砲が吼えている。250発の即応弾を撃ち尽くすと、ベルト式の給弾装置が回り予備弾を装填する。パッと車窓は白熱した。
巡洋艦マンセンがTWXに探照波を浴びせている。ロックオンされたら終わりだ。旅人の外套効果は万能楯ではない。設計段階から耐久力に制限を設けてあるのだ。飼い犬が主人の手を嚙み千切る可能性を国立研究所は想定していた。
「どうします? 次はありませんよ。とても避けきれない」
ハウゼル列車長が真剣な表情で即効性ある打開策を求めている。
「いったんセリュックに退きますか?」
望萌が最寄りの隧道を探している。警報音のオクターブがあがった。鮮明にとらえようと探照波の周波数が高まっている。
「いいえ。望萌。随伴世界に逃れたら敵の思う壺よ。封鎖されてしまうわ!」
熟考している時間はない。さりとて、コロンブスの卵のような妙案もない。所詮は水平線をたゆとう列車と艦船の差か。
「艦……列車……――?!! そうだわ!」
ハーベルトは虹色の脳細胞を振り絞って、また良から天啓を得たらしく、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
「ギクッ!」
望萌が蛇に睨まれた蛙のように啼いた。どうやらまた貧乏くじを引き当ててしまったらしい。
「こ、こんな土壇場で何を融通しろっていうんですか?」
あとずさりする彼女に閣下はにじり寄る。
「決まってるじゃない♪ ドイッチェラントのぞ~船技術は世界一~~♪♪」
■ 異世界バンクミケルセン
フェーマルン島プットガルテン港。
日独伊芬枢軸基幹同盟領コペンハーゲンに向かう列車が桟橋を渡って停泊中の船に吸い込まれていく。床には軌道が敷いてあり、デンマーク行きの四トン車の列と客車が隣り合わせている。ビリビリと船体を震わせるディーゼルエンジンに負けじと声を張り上げているのは、ご存知ハバロフスクの蒸気魔。
「そんな……困りますわ」
難色を示す船長に徴発令状が突きつけられ、有無を言わさず「命令だ」の一言。
「はぁ……エルフリーデ大総統じきじきのご要望とあらば、身に余る光栄! と、言いたいところですがね!! 私どもはお客様第一です」
バンクミケルセンのデンマーク人は頑固だ。個人主義が蔓延していて、利己的だ。おまけに空気が読めない。この鉄道連絡船の船長にとって、運航ダイヤと乗客は命を賭してでも護るべき対象である。そして、極めつけは全体思考が苦手だ。すべてを自分に結びつけたがる。
そんな頑固女をどうやって口説き落とすか。ソーニャ・ファイストは攻略法をちゃんと心得ていた。
「周知のとおり、連合国本土の内紛を偉大なる枢軸が平定できるかどうか、君の首振り一つに掛かっているのだよ。ヤンキーどもにデンマーク人の底力を見せつけてやろうとは思わないか?」
連合国にはデンマーク系移民が多い。彼らの寄与なくして経済成長は成し得なかった。船長は自尊心に火が付いたようだ。内心、憎々しく思いながらも、喜ん(だフリをして)船を差し出した。
「トロイメライ中佐。これでいいかね?」
蒸気魔が疲れたように言うとヘッドセットの向こうから嬌声が聞こえてきた。
■ カルフォルニア湾
かわって、TWX1369戦闘指揮車内。接近警報が絶頂を迎える直前に朗報が届いた。
「前方、二浬。ワールドノイズの擾乱を検知」
望萌が機関車の前方に量子蒸気掘削機の兆候を捉えた。
「一発勝負、これっきりよ。マンティス空間防護システム、再チェック。ありったけのAHEAD弾をぶっ放して」
ハーベルトは肉薄してくるミサイルを迎撃すべく、対空士官たちに弾幕を張れと命じた。銃身の後ろでリボルバーカノンの薬室が高速回転する。
海面がずいっと盛り上がり、流麗なシルエットが姿を現した。
「プリンセス・リカート号を捉えました」
望萌のサブコンソールに鉄道連絡船があらわれた。TWXは弾幕を隠れ蓑にして、リカート号に着艦する。甲板では蒸気魔がミサイルランチャーの仮設工事を監督していた。
ハーベルトは挨拶もそこそこに、指揮権を譲受した。
「そんな泥船で何が出来るというのか?」
ノートン七世の声が丸腰の鉄道連絡船を冷ややかに笑いのめした。
「ワールドクラスの継承よ。列車と艦船は相性がいい。今回、あらたに鉄道連絡船というクラスを確立したの」
ハーベルトがTWXの外套効果を最大限に発動した。
「ちょ……交通手段の重ね着?!」
祥子をようやく気付いた時には蒸気魔が作業を終えていた。巡洋艦マンセンは超音速対艦ミサイルの迎撃手段を持たない。Бастион(バスチオン)は城塞の二つ名を持つ嚆矢だ。弾体に電波吸収体がこれでもかと塗りたくってあり、レーダー波を寄せ付けない。ランチャーから垂直に発射され、固体燃料ロケットに点火。マンセンのスタンダードミサイルを振り切って、虚空へ駆けあがる。
超音速まで加速したあと、ラムスクープ・ジェットエンジンに切り替える。固体燃料推進剤が燃え尽きた後のスペースに空気を凝縮し、爆発的な瞬発力を得る。命中まで数秒とかからない。
その短い余生を少しでも永らえようと、マンセンは射撃統制装置をフル回転させる。しかし、バスチオンの弾頭周辺は大気摩擦でプラズマ化し、レーダー波を吸収してしまう。
「……――ッ!」
電子装置に芽生えた機械知性は死という概念を学習する間もなく、カルフォルニア湾に没した。
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