枢軸特急トルマリン=ソジャーナー 異世界逗留者のインクライン

YHQ337IC

文字の大きさ
138 / 156

疾風の到達不能極(インレット)~ラーセン・マグナコア)⑩ パフ(前編)

しおりを挟む
 ■ TWX1369(承前)
「終末期異論人があなたを欺いたという根拠を聞かせてくれないかしら」
 邨埜純色はオメガバーズと宇宙人の関連性について頭の整理をしたかった。確かに前者と間接的な接触を果たしている。だが、それは一方的で意思疎通とは言えないものだ。彼らは自己紹介もそこそこに殺戮を命じてきた。邨埜純色が望郷する【マランツ】の埋蔵資源を独占させてやろう。それが契約内容だった。
 一も二もなく純色は飛びついた。ハーベルトに従属していたのも枢軸特急が欲しいからであって、ホウ素の発掘運搬手段を得た今となっては障害でしかない。だが、雇い主がヨーゼフの信義を反故にしたとあっては話が違ってくる。
「エルフリーデ・ハートレーはヤンガードライアス彗星の起源を特定して報復を決意したんだ。リンドバーグの壁はあからさまな侵略兵器だと。だが応酬の連鎖は根本解決につながらない。それに言っちゃなんだが敵視政策なんて女の浅知恵だ。俺は問題の昇華を画策した。そしてもっと穏便で順当な解決策を地球平面説にみつけた」
 彼はラーセン・マグナコアの地球――厳密にいえば地盤だ――を見据えて熱弁を振るった。地球平面説を人類の共通認識にして異星人の概念そのものを駆逐する。強い人間原理が支配する宇宙なら可能だ。言い換えれば、宇宙観を刷新して外来文明を根こそぎ消去しようと主張した。手段は簡単だ。南極で観測気球をあげれるだけでいい。ラーセン・マグナコアを発祥地としてやがて異世界に変革が波及するという。
「なよなよしたエーデルヴァイス海賊団の男にしちゃ骨があるわね」
 望萌がヨーゼフに好感を純色が「話を遮らないで」と叱った。そしてヨーゼフの発言をつないだ。
「終末期異論人は高次知能集団を厄介者と見做しているの。文明残滓をかき集めて宇宙の熱的死をやり過ごそうとしている。言うなれば、宇宙の粉飾決算だ。絶対零度近くまで冷やせば、記憶媒体の効率は100%になる。要するに高次知能集団ってのは、意識のメモリーだ。コンピューターだ。温度が下がれば、当然ながら動作速度クロックも下がる。それでも完全停止するわけじゃない。どこまでも冷えていく宇宙で緩慢に生き長らえるんだ」
 コチコチに凍結した小惑星。どの表面には回路や配管がのたうつ。赤いクレーターが数万年に一度、いや数億年にほんの一瞬だけ光る。そんな天文学的規模の巨大コンピューター。
 想像するだに恐ろしい。望萌は祥子が取り込まれた世界に身震いした。
「待って! 熱力学第二法則は越境不可能な壁じゃなかったの?」
 臆せず、望萌が疑問を挟んだ。
「克服困難な問題じゃない。温度に下限は無いんだ。絶対零度の底を幾らでも下げればいいんだからな。摂氏零下二百七十三度を千度にでも二千度にでも物理法則を弄って好きなだけ落とせばいい。そうすれば熱的に死ぬことはない」
 とんでもないことをヨーゼフがいう。それは彼の独創かと純色が問えば、終末期異論人の見解だと即答した。
 それでも彼女はできっこないと反論した
「絶対零度って宇宙の基本原則よ。これ以上は冷やしようがないという大前提。仮にリセットするとなればもう一度ビッグバンを起こさないといけない。枠組みを壊さなきゃいけないんだから。末期の高次知能集団にそんな余裕はない」
「オメガバーズもそう考えていたのさ。最初のうちはな……宇宙人は無力で無害だと」
 真っ向から対立する意見に望萌が肩入れした。
「そうでもないみたい。エリスはあんたの彼女とやりあってる!」
 戦闘指揮車両の超長距離光学モニターに激戦が展開されている。ヨーゼフは望萌から席を譲ってもらい、その目で確認した。マリオン島で518発のエネルギー衝突があり、495個のクレーターが発生している。
「ミルドラースの覚醒は予想外だった。異論人が憑依しただけであのザマだ。本気を出したらどうなるか」
「彼らを焦らせる存在は彼女とエリスとメタンハイドレート生命体の他にいるの?」
 邨埜純色は機関車を枢軸特急南極線に乗り入れさせながらたずねた。
「ごまんといるだろう。俺。いや俺たちを欺いてエイリアンどもと共倒れさせたいと願うほどにだ。今、そういう新興勢力が雨後の筍の如く勃興してるんだろう」
 その時、TWX1369が汽笛を鳴らした。
 寒空を一編成の列車がゆっくりとよぎる。その進路を旧式の米軍機が塞いだ。戦闘指揮車両の敵味方識別装置が瞬時に戦力評価を下す双発の軍用輸送機だ。双発のプロペラを轟かせている
「ダグラスC47 スカイトレイン。コード1940年代に開発された海軍輸送機です」
「いや、あれはR4D。陸軍航空隊じゃなくて海軍に納入された型だ。厳密にいえばそれとも少し違う。貸せ」
 興奮したヨーゼフは戦術コンソールの望萌を突き飛ばした。
 指がもつれるほどにキーを乱打し、詳細ステータスを立体表示させる。R4Dの青写真がくるくると回転し、黄色い輪郭が書き加えられる。
 そこには輸送機に無いはずの武装が羅列してあった。30口径の単銃身銃機関砲。十丁がすべて機体片側に装備されている。
「こいつはAC47攻撃機だ。北ベトナムを悩ませた。他にも湾岸戦争、アフガン、とソースコード各地で猛威を振るった。望萌、南氷洋を量子スキャンしてみろ。面白い物が見つかるはずだ」
 ヨーゼフは憑かれたようにコンソールを叩く。
「えっ? 見慣れない艦船がいるわね。空母かしら? CV47 フィリピンシー。また47なの?」
 望萌は半信半疑ながらXバンドレーダーを走査して、ヨーゼフの予言を確かめた。
「そうだ。俺のかけておいた保険が満額支給されたのさ。余談だがAC47には”パフ”という俗名がついている。わかるか? パフだ!」
「魔法の龍? グリーバスで貴方が聞いたという不老不死の龍と関係があるの?」
「そうだ。望萌。パフだ。パフ、不死身の魔法龍が俺たちを助けに来てくれた」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

182年の人生

山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。 人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。 二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。 『月のトカゲを探す者』第一部(全三部)。 (表紙絵/山碕田鶴)  

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...