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世界文明瀑布(グレートスタジアンアビス)② ヒトラーの召喚門(ポータル)前編
しおりを挟むリチャード・バード少将の機体は制御を失い、真っ白な大陸に接吻しようとしていた。彼の残留思念は肉体を持たないが、それをシミュレーションしたアストラル体をもっている。霊魂が纏う五体と言えばわかりやすいだろう。だから、肉体的な痛みも精神的苦痛も感じることができる。そして、リチャードの霊的大脳には走馬灯現象が起きていた。
彼は1947年2月15日の事をはっきりと覚えている。アメリカ海軍パイロットとして北極を飛行していた時、突如として開いた異世界の穴に落ち込んだ。それは後の研究によれば地磁気が引き起こした宇宙放射線プラズマの渦で、地球の中心核まで続いている。
リチャードは地底人ネフィリムによって地球内部の空洞へ招かれたのだ。彼らはそこに地球内天体と呼んでいる。少将の機体は北極圏を飛んでいたにも関わらず熱帯雨林気候を見下ろすことが出来た。バードと僚機はそれを16ミリフィルムに収めることが出来た。
後にこの模様はニュース映画としてアメリカ各地で上映されたが、翌年に起きた宇宙的大事件によって状況が一転した。
かの有名なロズウェルのUFO墜落事件である。容赦ない尋問により乗員がアルザル出身であることを暴露した。驚愕したアメリカ海軍はただちにバード少将の撮影した記録映画を封印し、徹底的な証拠隠滅と緘口令を敷いた。
「あの時と同じだ。ピラミッドだ。常識外れのピラミッドがここにある」
彼は薄れていく視界の隅に正四角錘型のピラミッドを見た。それだけでなく正五角形や正六角形の面を持つ構造物がいくつも認められる。
「アルザルです。少将、アルザルに帰ってきたんです」
辛うじて右斜め後ろについていた副官が通信してきた。
「フォレスタル閣下とはまだリンクが繋がっているな? 今回はあの時と違う。咆哮/熱病通信網が異世界を貫いているのだ。迷いはせん!」
「はい。オーマイゴッド粒子の濃度は申し分なく、出力も良好です」
副官がチューナーをコード2047に合わせるとすぐにフォレスタルとつながった。
「正五角形と六角形のピラミッドを数えろ。少将。組み合わせが肝心だ。わかっておろうが」
輸送機のコクピットに青白いサッカーボールの骨組みが浮かび上がった。バードは部下たちに命じて肉眼で観測させた。
アルザルは物理学でなく形而上学が支配的な世界なので、観測機器が頼りにならない。彼は同僚の主観を信じた。
「五角形が一ダース。六角形が二ダースに四つ足りません。これでよろしいでしょうか?」
バード少将が結果をまとめ、フォレスタルに報告した。すると、サッカーボールの欠けた部分が一つずつ埋まり、球面が完成した。
「そうだ。全部で32。これはドイツ人どもに倒された生命の樹と同質のものだ。枝葉部分が10本、基幹部分が22本。カバラ奥義の生命樹と合致する。ネフィリムたちは地球自体を祭壇に仕立てたのだ」
フォレスタルは軍人にあるまじき戯言をほざいている。まるで、オカルト信者か黒魔術師のようだ。しかし、彼はステイツの奥院に棲息する魔女たちの洗脳を受けていることを忘れてはいけない。カルフォレクジットを経てもL5協会は健在で、消失した合衆国首脳の代役を務めている。
「それでは、いよいよ召喚門を開くのですね?」
バードは死してなお持続する軍人魂を再燃させた。まるで形而上的地底世界の底に魔方陣でもあるような言い草だ。
「魔導士は床にルーン文字を描き、天使や魔王を呼び出す。しかし、それは地球的ポータルの簡略版に過ぎない。人は奥義の本質を、真の恐怖を知らんのだ」
フォレスタルがそこまで言うと通信がぷっつりと切れた。ピラミッドの集落がぐわっと歪み、手札を切るように動き回ると、閃光がきらめいた。飛び散ったピラミッドはサッカーボール型ワイヤーフレームの頂点にならび、正三十二面体を完成させた。
そこに南極大陸と六つの大陸が青白い輪郭で描かれる。次に、物凄い速さでサッカーボールが自転し始めた。最後に北極と南極を結ぶ地軸部分に空洞が発生して、バード少将の編隊があっという間に吸い込まれた。
機体は相変わらずきりもみ飛行を続けているが、パイロットたちはまったく遠心力を感じられない。そればかりか、風呂上がりのような温もりと爽快感を味わった。あのパフが吐き出したホウ素の唾など、まるでなかったかのように機体は軽やかに地軸内を飛び回る。
「バード少将、窓の外を見てください!」
パイロットの一人が周囲の異変に気付いた。編隊はいつのまにかサッカーボールの中心部に移動しており、そこから反転した地表が垣間見える。
「世界地図だ。まるで鏡に映った世界地図のようだ」
バード少将が感嘆していると、副官の震え声が聞こえてきた。
「
日本製の世界地図をひっくり返してみたことがあるだろうか。地図の南北をさかさまにしてみると、燃え盛るユーラシア大陸が見える。まるで、勢いづいた地獄の業火そのものだ。
「我々はどこへェー」
副官の茶色い声が裏返ってしわがれる。
バード少将が何か言いかけると、フォレスタルとの通信が回復した。
「喋るな。舌を噛みちぎるぞ。戻ってこい。ポータルを開く儀式は完了した。まったく歴史の皮肉といおうか。我々はかつての仇敵、ナチス政権の野望を完遂させたんだ。南極の召喚門、これこそがヒトラーの探し求めるものだ。とにかく、お前らはよくやった。異世界の瀬戸際を訪問したんだ。それ以上進むと喪失してしまうぞ」
フォレスタルが、帰還を命じた。
その時、編隊の真正面からTWX1369が突っ込んできた。
磁気測定器が性懲りもなく、またがなり立てる。
「あなたたち、何という事をしてくれたの? 裏地球の扉をこじ開けて、どういうつもり?」
声の主はそうとうお冠だ。ハーベルトはTWXを編隊の進路に割り込ませた。
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