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五十万人のビーナス
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■ 五十万人のビーナス
焦げた大木の下にボロ服を纏った女子高生たちがうずくまっている。
ジーザスは思わず少女たちの下半身に目を奪われた。
ワカメ状に破りとられたスカート姿。
そのひ弱な太ももにかろうじて張り付いている白いショーツ。くびれた腰に思わず視線がいく。
この薄い布地と皮下脂肪の内側には子供を宿す袋がある。ジーザスはそんな想像をして、身体を火照らせた。
女の子の卵巣は、生後八週間で形成される。
母親の胎内で既にその孫の卵が育っているのだ。
約五十万個の卵細胞は性徴期まで永い眠りにつく。
目の前にいる女を撃つことは、その次の世代の未来まで奪うに等しい。
特権者戦争に人類が勝利した結果、死者の復活が可能になった。しかし、さすがの蘇生術でも、まだこの世に生を受けていない者の魂は救えない。
一人の女学生の腹が突然に膨張し始めた。スカートのホックがはじけ飛び、ストンと地面に脱げ落ちた。
ドスンと腰をおろしM字開脚する少女。両脚の間から次々と幼女が沸いて出た。
愛らしい栗色の瞳。みな、母親に甘える表情で見上げている。
特権者が卵子を朗読しているのだ。
幼女たちはみるみる成長してプロポーション豊かな少女になる。
まるで長い髪で腰を隠すビーナスのようだ。
「安らかに逝け!」
ジーザスの銃口が吼える。瞬時に、母娘たちは赤い霞と化した。
ジーザスの後ろについてきた生存者はごく僅かだった。
地面には首や焦げた四肢が転がっており、まだ湯気を立てている。破り捨てらえたセーラー服が痛々しい。
「うっ」と太り気味の少女がしゃがみ込んだ。ジーザスの脚を支えにして立とうとした。
両手をしっかりシアの左足にまきつける。
頭を撫でようとするジーザス。
その顔に苦悶が走った。
少女の二の腕がガバっと開いた。鋭い牙がジーザスの太腿に食い込み、付け根ごと噛み千切った。
「ギャアア」
灼熱の様な痛みが走る。
ようやく到着した援軍が少女の頭を吹き飛ばした。
憑依された生存者をすべて対物ライフルでなぎ倒していく
軌道上の船が医療物資を大気圏突入カプセルで投下した。パラシュートが開き、焼け焦げた耐熱コンテナから自走式の救急カプセルが走り出てきた。
シアは緊急カプセルに入れられ搬送を待つ。
他のカプセルが、廃墟に呆然と抱き合って立ち尽くす女子高生を捕らえようとしていた。
「い、いえ、結構です。歩いて帰れますから」
二人は丁重に断って逃げようとした。
「感染予防のために消毒します」
カプセルは触手をのばして追いかける。
「消毒、消毒」
袋小路に追い詰められ強制捕獲される二人。
「きゃ~出して~」
閉じこめられ、ドンドンとガラスを叩く娘。
「汚れた着物は脱いでください」
ジタバタする間にも、制服のあちこちに穴や裂け目が出来て広がっていく。
シアは胸が張り裂けそうになりながら自問した。
惨めな死を迎えた後に復活するのと、生きて辱めを受け続けるのと、どちらが心の傷が浅いだろうかと。
医療用レーザーが治療にじゃまな要素を手際よく片付けていく。
ぼっ! と青白い炎を上げてシアの襟章が燃えていく。
悲しみと苦労の成果が灰になる。
焦げる勲章に激戦で失った戦友たちの顔がダブる。
傷口からそのままシアのズボンが裂ける。
少女の白い太腿を覆うトンネル状の裾がレーザーで断ち割られる。
男物のトランクス姿から色っぽい女性へ変身する儀式が始まる。
自分を性別を隠そうとしたシアであったが、トランクスの裾からチラ見されない様に女子用のピッタリとした黒ビキニ水着を仕方なく履いていた。その両腰部分には人類が三途の川を二度渡った印―特権者戦争の参戦証として、白のラインが入っている。
拉致られた女生徒たちも同じ恥辱を受けていた。
片方の少女は医療レーザーにセーラー服の縫い目が焼かれた。紺色の長そでが肩から外れて体操服の半そでが見える。濃紺の上着が前後に真っ二つに裂けた。青いラインの丸首半袖シャツとプリーツスカート姿になる。体操服のゼッケンに四組川田ノゾミと書いてある。
もう一方の娘はプリーツスカートの車ひだを縦に焼かれた。スカートが暖簾のようになって裂ける。
セーラー服のブラウスと青いブルマ姿になる。サイズが小さいのかぴっちりしたヒップ。腰のタグに須川ユメミと記名してある。
それが緑の炎を上げて消えていく。
思い出深い制服が名札ごと燃え尽きる。どうすることもできない無力さにシアは泣いた。自分の無力さを責めた。
セーラーが焼き払われ、女子高生という属性を奪われる彼女らにシアは、士官学校を卒業寸前に中退させられた自分を重ねた。
儚く消える「望」と「夢」
ノゾミのはだけたスカートからブルマが見えている。ファスナーから真下へレーザーが走る。するりと落ちるスカート。
体操服姿になったノゾミは裾を伸ばして太腿を隠そうとした。服を引き裂こうとしているのだろうと勘違いしたシステムが気を利かせて裂け目を入れた。
シャツがあっさりと破れる。濃紺生地の白ラインが縦に裂かれる。ゴムが切れてブルマが剥がれ落ちた。
彼女はたちまち白いブラとパンツだけになった。
ユメミのセーラー服の胸当てから青い縁取りの体操服が見えている。赤いリボンが焼け胸元が裂けた。
「ひぁ」
少女は上着とスカーフの残骸を腰に巻いた。それもたちまち焼却されてしまう。
「も~いや~」
ユメミは体操服の裾に両膝を入れて後ろ向きに座った。
レーザーが縦横無尽に駆け巡る。風呂場のタイルの様に一センチ角の切れ目が白い体操服を刻んでいく。
濃紺のブルマがジグソーパズルのように崩れていく。服が上も下も紙ふぶきの様に散った。
彼女は抵抗むなしく、淡いブルーのパンツとブラだけの姿をさらした。
「もう、やめてあげて。学歴を脱がすのは!」
シアの叫びは届かない。
ノゾミとユメミの肩紐やショーツの腰から白煙が上がっている。
はらり。しわの入った浅履きのパンツがふくよかなヒップから外れた。
遂に一糸まとわぬ姿になるかと思いきや、シアと同じ黒ビキニを履いていた。
三人の少女が下着パンツ一枚の姿になった。互いに複雑な気持ちで見つめ合う。
「それって査察機構のビキニじゃん。あなたたちって、ハンターだったの?」
「大佐こそ、女だったんですか?」
ノゾミは平らな乳房を見て驚く。
「凄い女の人が、戦闘純文学者が来るって言うから私たち、憧れて志願したんです!」
ユメミが怒ったような口ぶりで言う。
「それなのに、来たのは笑顔しか取り柄のない無力なハゲオヤジだった」
「つか、ハゲババアだった。どうして男になろうとしたんですか?」
「胸にしまうには多すぎる。信じすぎた報いと……与えられ過ぎた罰だ」
自嘲するシア。
「男になろうとしたって、ダメな女はダメなんですよ! 戦闘純文学の女のままでいた方が良かったのに!」
ユメミが責め立てる。
「中途半端なヘタレ女のせいでこの星は全滅するわ。女に生まれたんなら、堂々とオンナをやってりゃいいじゃない。馬鹿」
シアの自信の拠り所であった査察機構の証がレーザーで焼かれると、白いアンダーショーツがしか残らなった。
それも腰ひもが切れて、白い旗のように翻る。
「アハハ、「白旗をあげるんだよ。わたしたち」
ユメミが自嘲しながら涙をこぼす。
ちりちりと溶けていく最後の羞恥心。
スイムショーツが、クシャクシャの焦げた塊になり散る。
むなしかった。
ヘタレな自分はこの子達に辱めを与えたばかりでなく、自分が打ち殺した娘達と五十万個ずつの卵子も救えなかった。
ここにいる虚弱な女子。セーラー服も軍服も焼かれ、立場の違いを表わすアイテムは何一つ身に着けていない。第二次性徴を迎えていない未熟な身体。三人の違いはヘアスタイルだけだ。
スキンヘッド、腰までのお下げとストレート。
運命を他者に握られて手も足も出ない。
医療カプセルは次の処置に移ろうとしていた。
焦げた大木の下にボロ服を纏った女子高生たちがうずくまっている。
ジーザスは思わず少女たちの下半身に目を奪われた。
ワカメ状に破りとられたスカート姿。
そのひ弱な太ももにかろうじて張り付いている白いショーツ。くびれた腰に思わず視線がいく。
この薄い布地と皮下脂肪の内側には子供を宿す袋がある。ジーザスはそんな想像をして、身体を火照らせた。
女の子の卵巣は、生後八週間で形成される。
母親の胎内で既にその孫の卵が育っているのだ。
約五十万個の卵細胞は性徴期まで永い眠りにつく。
目の前にいる女を撃つことは、その次の世代の未来まで奪うに等しい。
特権者戦争に人類が勝利した結果、死者の復活が可能になった。しかし、さすがの蘇生術でも、まだこの世に生を受けていない者の魂は救えない。
一人の女学生の腹が突然に膨張し始めた。スカートのホックがはじけ飛び、ストンと地面に脱げ落ちた。
ドスンと腰をおろしM字開脚する少女。両脚の間から次々と幼女が沸いて出た。
愛らしい栗色の瞳。みな、母親に甘える表情で見上げている。
特権者が卵子を朗読しているのだ。
幼女たちはみるみる成長してプロポーション豊かな少女になる。
まるで長い髪で腰を隠すビーナスのようだ。
「安らかに逝け!」
ジーザスの銃口が吼える。瞬時に、母娘たちは赤い霞と化した。
ジーザスの後ろについてきた生存者はごく僅かだった。
地面には首や焦げた四肢が転がっており、まだ湯気を立てている。破り捨てらえたセーラー服が痛々しい。
「うっ」と太り気味の少女がしゃがみ込んだ。ジーザスの脚を支えにして立とうとした。
両手をしっかりシアの左足にまきつける。
頭を撫でようとするジーザス。
その顔に苦悶が走った。
少女の二の腕がガバっと開いた。鋭い牙がジーザスの太腿に食い込み、付け根ごと噛み千切った。
「ギャアア」
灼熱の様な痛みが走る。
ようやく到着した援軍が少女の頭を吹き飛ばした。
憑依された生存者をすべて対物ライフルでなぎ倒していく
軌道上の船が医療物資を大気圏突入カプセルで投下した。パラシュートが開き、焼け焦げた耐熱コンテナから自走式の救急カプセルが走り出てきた。
シアは緊急カプセルに入れられ搬送を待つ。
他のカプセルが、廃墟に呆然と抱き合って立ち尽くす女子高生を捕らえようとしていた。
「い、いえ、結構です。歩いて帰れますから」
二人は丁重に断って逃げようとした。
「感染予防のために消毒します」
カプセルは触手をのばして追いかける。
「消毒、消毒」
袋小路に追い詰められ強制捕獲される二人。
「きゃ~出して~」
閉じこめられ、ドンドンとガラスを叩く娘。
「汚れた着物は脱いでください」
ジタバタする間にも、制服のあちこちに穴や裂け目が出来て広がっていく。
シアは胸が張り裂けそうになりながら自問した。
惨めな死を迎えた後に復活するのと、生きて辱めを受け続けるのと、どちらが心の傷が浅いだろうかと。
医療用レーザーが治療にじゃまな要素を手際よく片付けていく。
ぼっ! と青白い炎を上げてシアの襟章が燃えていく。
悲しみと苦労の成果が灰になる。
焦げる勲章に激戦で失った戦友たちの顔がダブる。
傷口からそのままシアのズボンが裂ける。
少女の白い太腿を覆うトンネル状の裾がレーザーで断ち割られる。
男物のトランクス姿から色っぽい女性へ変身する儀式が始まる。
自分を性別を隠そうとしたシアであったが、トランクスの裾からチラ見されない様に女子用のピッタリとした黒ビキニ水着を仕方なく履いていた。その両腰部分には人類が三途の川を二度渡った印―特権者戦争の参戦証として、白のラインが入っている。
拉致られた女生徒たちも同じ恥辱を受けていた。
片方の少女は医療レーザーにセーラー服の縫い目が焼かれた。紺色の長そでが肩から外れて体操服の半そでが見える。濃紺の上着が前後に真っ二つに裂けた。青いラインの丸首半袖シャツとプリーツスカート姿になる。体操服のゼッケンに四組川田ノゾミと書いてある。
もう一方の娘はプリーツスカートの車ひだを縦に焼かれた。スカートが暖簾のようになって裂ける。
セーラー服のブラウスと青いブルマ姿になる。サイズが小さいのかぴっちりしたヒップ。腰のタグに須川ユメミと記名してある。
それが緑の炎を上げて消えていく。
思い出深い制服が名札ごと燃え尽きる。どうすることもできない無力さにシアは泣いた。自分の無力さを責めた。
セーラーが焼き払われ、女子高生という属性を奪われる彼女らにシアは、士官学校を卒業寸前に中退させられた自分を重ねた。
儚く消える「望」と「夢」
ノゾミのはだけたスカートからブルマが見えている。ファスナーから真下へレーザーが走る。するりと落ちるスカート。
体操服姿になったノゾミは裾を伸ばして太腿を隠そうとした。服を引き裂こうとしているのだろうと勘違いしたシステムが気を利かせて裂け目を入れた。
シャツがあっさりと破れる。濃紺生地の白ラインが縦に裂かれる。ゴムが切れてブルマが剥がれ落ちた。
彼女はたちまち白いブラとパンツだけになった。
ユメミのセーラー服の胸当てから青い縁取りの体操服が見えている。赤いリボンが焼け胸元が裂けた。
「ひぁ」
少女は上着とスカーフの残骸を腰に巻いた。それもたちまち焼却されてしまう。
「も~いや~」
ユメミは体操服の裾に両膝を入れて後ろ向きに座った。
レーザーが縦横無尽に駆け巡る。風呂場のタイルの様に一センチ角の切れ目が白い体操服を刻んでいく。
濃紺のブルマがジグソーパズルのように崩れていく。服が上も下も紙ふぶきの様に散った。
彼女は抵抗むなしく、淡いブルーのパンツとブラだけの姿をさらした。
「もう、やめてあげて。学歴を脱がすのは!」
シアの叫びは届かない。
ノゾミとユメミの肩紐やショーツの腰から白煙が上がっている。
はらり。しわの入った浅履きのパンツがふくよかなヒップから外れた。
遂に一糸まとわぬ姿になるかと思いきや、シアと同じ黒ビキニを履いていた。
三人の少女が下着パンツ一枚の姿になった。互いに複雑な気持ちで見つめ合う。
「それって査察機構のビキニじゃん。あなたたちって、ハンターだったの?」
「大佐こそ、女だったんですか?」
ノゾミは平らな乳房を見て驚く。
「凄い女の人が、戦闘純文学者が来るって言うから私たち、憧れて志願したんです!」
ユメミが怒ったような口ぶりで言う。
「それなのに、来たのは笑顔しか取り柄のない無力なハゲオヤジだった」
「つか、ハゲババアだった。どうして男になろうとしたんですか?」
「胸にしまうには多すぎる。信じすぎた報いと……与えられ過ぎた罰だ」
自嘲するシア。
「男になろうとしたって、ダメな女はダメなんですよ! 戦闘純文学の女のままでいた方が良かったのに!」
ユメミが責め立てる。
「中途半端なヘタレ女のせいでこの星は全滅するわ。女に生まれたんなら、堂々とオンナをやってりゃいいじゃない。馬鹿」
シアの自信の拠り所であった査察機構の証がレーザーで焼かれると、白いアンダーショーツがしか残らなった。
それも腰ひもが切れて、白い旗のように翻る。
「アハハ、「白旗をあげるんだよ。わたしたち」
ユメミが自嘲しながら涙をこぼす。
ちりちりと溶けていく最後の羞恥心。
スイムショーツが、クシャクシャの焦げた塊になり散る。
むなしかった。
ヘタレな自分はこの子達に辱めを与えたばかりでなく、自分が打ち殺した娘達と五十万個ずつの卵子も救えなかった。
ここにいる虚弱な女子。セーラー服も軍服も焼かれ、立場の違いを表わすアイテムは何一つ身に着けていない。第二次性徴を迎えていない未熟な身体。三人の違いはヘアスタイルだけだ。
スキンヘッド、腰までのお下げとストレート。
運命を他者に握られて手も足も出ない。
医療カプセルは次の処置に移ろうとしていた。
応援ありがとうございます!
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