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シア・フレイアスター号を撃沈せよ!
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「もうチャットは終わったのかね?」
「ぎょえっ!」
冷や水を浴びせられたバレルはその場で短銃自決したい気分だった。
「大佐。女子高生と親交を深めるのもいいが、勤務時間中は謹んで欲しい」
父祖樹は軽くたしなめ、提督にも叱責以上の処分を求めなかった。
「お前が量子タグを密告に使う事は予測できた。実に単純な性格だ」
ガロンは最初から腹心など信用していないどころか、積極的に利用してやろうという態度だ。
「殺したりはせん。まぁ、そこに座ってお茶でも飲まんかね。ああ、毒ではない」
父祖樹は切り株の上によく冷えたグラスを二つ現出させた。
「な? じゅ、術式をお使いになられるんですか?」
バレルは度肝を抜かれたようすで後ずさる。
「戦闘純文学ではない。ビートラクティブだよ」
「ビートラクティブ?」
首をかしげる大佐に提督がグラスをすすめた。
「まぁ、一杯やってみろ。ヴァンパイアの口にあう」
「わ、私は人間ですが……」
バレルは上司の強い目線にあらがえず、おそるおそる手を伸ばした。
決死の覚悟で鼻をつまんで飲み下すと、全身の緊張がほぐれていくような温もりを感じた。
「その死んだ目は芝居だろう? 生き返った気分になったはずだ」
「ヤポネは肉体喪失者の蘇生に関する権利条約を批准していませんが」
「そうだったな。それはともかく、例の姉妹の件だが――」
三人はオーランティアカ姉妹の対策を相談し始めた。
まず父祖樹が慈姑王朝に起きたこれまでのいきさつとビートラクティブについておさらいしたした。
「あの娘たちは今ごろ叢書世紀でせっせと暴れているだろうが、ご苦労なことだ。これを見るがいい」
父祖樹は一枚の大きな葉を垂らした。
葉脈が輝いて進化の系統樹を示している。枝分かれした先に瘤状の分岐があり、これが人類史に移植されるべき植民地だという。
「ウニベルシタスを天災地変で苛み、鍛え抜かれたわが子孫が生存競争を勝ち抜くのだ」
父祖樹が示す枝葉は二十七世紀の世界にも根を張っており、これは周辺の時空構造に食い込んで脆くしているという。オーランティアカ姉妹はバーサーカーの転移に巻き込まれる形で異世界ウニベルシタスに転移してしまった。
「案ずるな。ウニベルシタスは黄金時代と呼ばれるだろう」
「で、なぜ慈姑姫に魔紅茶を与えたのです? 反目者に」
バレルの疑問はもっともだ。慈姑の反主流派の敵を利する意図がわからない。
「テチファーミェンだよ。兵器開発に試作競争はつきものだろう」
提督が横から口を挟んだ。なるほど、ウルトラファイトにぶつけて性能を試そうというのだ。
「もし鐵華曼が勝ては?」
「分捕るまでよ」
大佐の問いにガロンは即答した。
「では、人類の跡目はウルトラファイトか鐵華曼という解釈でよろしいので?」
「そうだ。われらが不滅のヴァンパイアをどちらが継ぐか見ものだ」
大樹の声が遠ざかり、艦内の喧騒が戻ってきた。
「ホ、立体映像室?」
デモンストレーションを見学したことはあるが、このような現実そっくりな3Dは体験したことがない。ましてや、実用化されているとは。
その精巧さにバレルは驚愕した。
「つなぎに過ぎんよ。魔紅茶量産化までの」
たいしたことはないという風にガロンはかぶりを振った。
まだショックが冷めやらぬバレルに彼は次の任務を与えた。
「さて、お前にはもうひと働きしてもらわねばならん」
提督はニヤッと笑うと壁際のクローゼットから折り畳んだ洋服を取り出した。細かいひだのついた紺色の生地がヒラヒラと揺れている。
「こ、くぉれは?」
じりじりとにじり寄るガロンにバレルは青ざめる。
「どこか具合が悪いのかね? リットール・バレル大佐。いや、シア・フレイアスター大佐と呼ばせてもらおうか?」
「ぐあああっ!」
アルミ缶を踏み潰したような音とともに提督の懐から硝煙が立ち上った。
どさりと男の体がくずおれ、首筋にアンプルが突き刺さっている。封入された分子機械は大佐の肉体を改変し始めた。
■ ジュデッカ駅跡
確かに南極大陸は融解し、各大陸に津波が押し寄せた。だが、地球全土が水没するほどの規模ではない。山岳地帯や内陸部の国家は緊急即応マニュアルに従って国連の各機能を継承し、早急に人類圏の立て直しを図った。
事務総長に就任したばかりのボリビア元大統領は山岳有力先進諸国を招集し、ヤポネ・サジタリアに対し敵国条項の発動を宣言。第二次特権者戦争を布告した。
「ヴァンパイアどもめ。いい気になるなよ」
メディア・クラインはまだ暖かい亡骸を棺に納めた。涙はない。ただ明日の勝利に微笑むだけだ。なぜならば、アンジェラの魂はふわりと虚空に浮かび、還るべき場所に旅立っていく。
その先に、現在の転生をつかさどるものがいるのだから。
ジュデッカ駅前に続々と航空戦艦が集結しつつある。
サラマンドラの証言によれば往生特急高速度交通営団のダイアグラムを管理している者は、文豪カミュその人であるという。
「恩を仇で返すという格言があるが、まさか恩人を討つとはな」
作戦局長は失笑を禁じ得ない。が、顎が外れる前に声はかすれ、咽びに変わった。
「今の君に指揮は無理だろう。あたしが執ろう」
「コヨーテ・フランチェスカ・枕崎軍神に敬礼ッ」
メイドサーバントたちはハンターギルド最高権力者の前に整列した。
■ 鐵華蔓と鋼鉄処女
保線区武装司令部車両基地。泥だらけの天使がウニモグからシャワー室に転がり込んだ。査察機構権限で管理機能を徴発し、頭から熱いシャワーを浴びる。翼から粘土状の汚れが排水口に流れ落ちていく。至福の一時である。
一方、鐵華蔓の装甲を施されている慈姑姫は地獄の恥辱を味わっていた。
まさに、天国と地獄、外道ここに極まれり。
「いや~~っ」
慈姑姫の頭蓋骨が震わせなつつ、バリカンが頭頂部に推し進んでいく。バラバラと黒髪がカットクロスを滑り落ち、美少女の頭に青白いあぜ道が広がる。
「るんるん♪ る~ん♪」
シアは翼にしみ込んだリンスをすっかり洗い流し、背中を乾燥機に向ける。
「うぇぇ~~ん」
慈姑姫の後ろ髪がバリバリと容赦なくそり落とされていく。
「よし、フィニッシュ☆」
シアは慣れた手つきで安全剃刀をスキンヘッドに這わせる。シェービングクリームを洗い流し、ニカっと鏡の前で悪魔的な笑みを浮かべる。
「えっ? ちょ、ちょ。破くの?」
慈姑姫の胸元にメスが突き立てられ、真一文字にドレスが裂かれる。パンツとブラだけのあられもない姿にグルグルと蔦が巻き付いてく。SM女王様のごとく、太腿や二の腕が雁字搦めされていく。
「ひゃん☆」
蔦の先端が豊満な胸の谷間を通過し、純白のブラを切り落としてしまう。はらり、両腰紐が姫の身体から外れたが、肝心な部分にはすでに分厚い葉が張り付いていた。
鎖帷子の隙間を埋めるように葉が茂っていく。
慈姑姫のつま先から頭のてっぺんまで鐵華曼の装甲が緑色の鱗のごとく覆いつくていく。
「やめて~こんなのマジで装甲になるの~~?」
振り絞るような叫びに小町は耳を貸さない。
「ぶっつけ本番は新兵器につきものですよ~。耐久性テスト行きま~す」
そして、長い蔦が姫を何度もしばき倒した。
「次、絶縁テスト~~」
「うぎゃーーーっ」
百万ボルトの電撃が鐵華萬に降りかかる。
その一方で、シアは糊の効いたセーラー服にを包み、ロングヘアのヅラを被る。
姿見の前でニヨニヨ微笑んでいると、いきなり正面に嫁が現れた。
「貴女ねぇ! いつまでやってんの? ファッションショー」
鏡の中のフランチェスカはそうとうお冠である。
「うっさいわね。あんたこそ駅前で油売ってるヒマがあったら迎えにぐらい来なさいよ。ほんっとうに気が利かない女」
ヒステリーが臨界に達する前にハッシェが仲裁に入った。
「婦妻ゲンカしている時間はありませんよ。娘さんたちの行方は気にならないんですか?」
「何? この子」
コヨーテは奪衣婆たちを牽制するように睨む。
「賽の河原で知り合ったの。わたしを助けてくれた」
シアは鬼との死闘をかいつまんで語った。
共同交戦システムは機能しているのか、と嫁に聞かれてシアはユズハの一件を慌てて補足した。
「量子暗号を盗聴するなんて予知能力でも使わない限り不可能なことよ」
コヨーテが腕組みする。
「じゃあ、誰が……まって……おかしいわね」
シアは額に脂汗を浮かべて意識を集中している。
「あれ? 揚陸艦とリンクできないのよ。『接続に失敗しました。不明なエラー』って何なのよ。も~~!!」
彼女が試行錯誤している間に鏡の向こうが騒がしくなってきた。
「敵味方識別装置の故障ではないのか」「友軍信号を確かにとらえています」「対地ミサイル接近。どういうことだってばよ!」
怒号が飛び交うなか、メイドサーバントたちがめいめいの船に戻っていく。
「識別子が書き換わっている? デスシップ? そんな艦種聞いたことも……」
ライブシップの近接対艦防空システムが12.7ミリ弾をせわしなくばら撒いている。
コヨーテは断腸の思いで決断を下した。
「シア・フレイアスター号を撃沈せよ!」
鏡の前でシアはのけぞった。
「貴女、気でも狂ったの?」
「狂ったのはお前でしょうが! よくも騙したわね!」
コヨーテは一気に態度を硬化させた。いったい、この騒ぎは何事だろう。
背後に無線がざわめいている。
「なになに、何のこと?」
「バックレんじゃねーよ。糞ババー」
「糞とは何よ。 わたしが何をしたというのよ!」
シアの抗議が爆発音にかき消された。すぐ近くに着弾したらしい。
「身内を騙し討ちするなんて、最ッ低!」
コヨーテが画面に唾を吐きかける。
シアはあやうく鏡を割りそうになった。
「何が起きたかぐらい話してくれてもいいじゃない!」
返事の代わりに画面がクモの巣状に割れた。回線がダウンする直前に信じがたい映像が飛び込んできた。
コヨーテの額にシアそっくりなメイドサーバントが銃を突き付けていた。
「ぎょえっ!」
冷や水を浴びせられたバレルはその場で短銃自決したい気分だった。
「大佐。女子高生と親交を深めるのもいいが、勤務時間中は謹んで欲しい」
父祖樹は軽くたしなめ、提督にも叱責以上の処分を求めなかった。
「お前が量子タグを密告に使う事は予測できた。実に単純な性格だ」
ガロンは最初から腹心など信用していないどころか、積極的に利用してやろうという態度だ。
「殺したりはせん。まぁ、そこに座ってお茶でも飲まんかね。ああ、毒ではない」
父祖樹は切り株の上によく冷えたグラスを二つ現出させた。
「な? じゅ、術式をお使いになられるんですか?」
バレルは度肝を抜かれたようすで後ずさる。
「戦闘純文学ではない。ビートラクティブだよ」
「ビートラクティブ?」
首をかしげる大佐に提督がグラスをすすめた。
「まぁ、一杯やってみろ。ヴァンパイアの口にあう」
「わ、私は人間ですが……」
バレルは上司の強い目線にあらがえず、おそるおそる手を伸ばした。
決死の覚悟で鼻をつまんで飲み下すと、全身の緊張がほぐれていくような温もりを感じた。
「その死んだ目は芝居だろう? 生き返った気分になったはずだ」
「ヤポネは肉体喪失者の蘇生に関する権利条約を批准していませんが」
「そうだったな。それはともかく、例の姉妹の件だが――」
三人はオーランティアカ姉妹の対策を相談し始めた。
まず父祖樹が慈姑王朝に起きたこれまでのいきさつとビートラクティブについておさらいしたした。
「あの娘たちは今ごろ叢書世紀でせっせと暴れているだろうが、ご苦労なことだ。これを見るがいい」
父祖樹は一枚の大きな葉を垂らした。
葉脈が輝いて進化の系統樹を示している。枝分かれした先に瘤状の分岐があり、これが人類史に移植されるべき植民地だという。
「ウニベルシタスを天災地変で苛み、鍛え抜かれたわが子孫が生存競争を勝ち抜くのだ」
父祖樹が示す枝葉は二十七世紀の世界にも根を張っており、これは周辺の時空構造に食い込んで脆くしているという。オーランティアカ姉妹はバーサーカーの転移に巻き込まれる形で異世界ウニベルシタスに転移してしまった。
「案ずるな。ウニベルシタスは黄金時代と呼ばれるだろう」
「で、なぜ慈姑姫に魔紅茶を与えたのです? 反目者に」
バレルの疑問はもっともだ。慈姑の反主流派の敵を利する意図がわからない。
「テチファーミェンだよ。兵器開発に試作競争はつきものだろう」
提督が横から口を挟んだ。なるほど、ウルトラファイトにぶつけて性能を試そうというのだ。
「もし鐵華曼が勝ては?」
「分捕るまでよ」
大佐の問いにガロンは即答した。
「では、人類の跡目はウルトラファイトか鐵華曼という解釈でよろしいので?」
「そうだ。われらが不滅のヴァンパイアをどちらが継ぐか見ものだ」
大樹の声が遠ざかり、艦内の喧騒が戻ってきた。
「ホ、立体映像室?」
デモンストレーションを見学したことはあるが、このような現実そっくりな3Dは体験したことがない。ましてや、実用化されているとは。
その精巧さにバレルは驚愕した。
「つなぎに過ぎんよ。魔紅茶量産化までの」
たいしたことはないという風にガロンはかぶりを振った。
まだショックが冷めやらぬバレルに彼は次の任務を与えた。
「さて、お前にはもうひと働きしてもらわねばならん」
提督はニヤッと笑うと壁際のクローゼットから折り畳んだ洋服を取り出した。細かいひだのついた紺色の生地がヒラヒラと揺れている。
「こ、くぉれは?」
じりじりとにじり寄るガロンにバレルは青ざめる。
「どこか具合が悪いのかね? リットール・バレル大佐。いや、シア・フレイアスター大佐と呼ばせてもらおうか?」
「ぐあああっ!」
アルミ缶を踏み潰したような音とともに提督の懐から硝煙が立ち上った。
どさりと男の体がくずおれ、首筋にアンプルが突き刺さっている。封入された分子機械は大佐の肉体を改変し始めた。
■ ジュデッカ駅跡
確かに南極大陸は融解し、各大陸に津波が押し寄せた。だが、地球全土が水没するほどの規模ではない。山岳地帯や内陸部の国家は緊急即応マニュアルに従って国連の各機能を継承し、早急に人類圏の立て直しを図った。
事務総長に就任したばかりのボリビア元大統領は山岳有力先進諸国を招集し、ヤポネ・サジタリアに対し敵国条項の発動を宣言。第二次特権者戦争を布告した。
「ヴァンパイアどもめ。いい気になるなよ」
メディア・クラインはまだ暖かい亡骸を棺に納めた。涙はない。ただ明日の勝利に微笑むだけだ。なぜならば、アンジェラの魂はふわりと虚空に浮かび、還るべき場所に旅立っていく。
その先に、現在の転生をつかさどるものがいるのだから。
ジュデッカ駅前に続々と航空戦艦が集結しつつある。
サラマンドラの証言によれば往生特急高速度交通営団のダイアグラムを管理している者は、文豪カミュその人であるという。
「恩を仇で返すという格言があるが、まさか恩人を討つとはな」
作戦局長は失笑を禁じ得ない。が、顎が外れる前に声はかすれ、咽びに変わった。
「今の君に指揮は無理だろう。あたしが執ろう」
「コヨーテ・フランチェスカ・枕崎軍神に敬礼ッ」
メイドサーバントたちはハンターギルド最高権力者の前に整列した。
■ 鐵華蔓と鋼鉄処女
保線区武装司令部車両基地。泥だらけの天使がウニモグからシャワー室に転がり込んだ。査察機構権限で管理機能を徴発し、頭から熱いシャワーを浴びる。翼から粘土状の汚れが排水口に流れ落ちていく。至福の一時である。
一方、鐵華蔓の装甲を施されている慈姑姫は地獄の恥辱を味わっていた。
まさに、天国と地獄、外道ここに極まれり。
「いや~~っ」
慈姑姫の頭蓋骨が震わせなつつ、バリカンが頭頂部に推し進んでいく。バラバラと黒髪がカットクロスを滑り落ち、美少女の頭に青白いあぜ道が広がる。
「るんるん♪ る~ん♪」
シアは翼にしみ込んだリンスをすっかり洗い流し、背中を乾燥機に向ける。
「うぇぇ~~ん」
慈姑姫の後ろ髪がバリバリと容赦なくそり落とされていく。
「よし、フィニッシュ☆」
シアは慣れた手つきで安全剃刀をスキンヘッドに這わせる。シェービングクリームを洗い流し、ニカっと鏡の前で悪魔的な笑みを浮かべる。
「えっ? ちょ、ちょ。破くの?」
慈姑姫の胸元にメスが突き立てられ、真一文字にドレスが裂かれる。パンツとブラだけのあられもない姿にグルグルと蔦が巻き付いてく。SM女王様のごとく、太腿や二の腕が雁字搦めされていく。
「ひゃん☆」
蔦の先端が豊満な胸の谷間を通過し、純白のブラを切り落としてしまう。はらり、両腰紐が姫の身体から外れたが、肝心な部分にはすでに分厚い葉が張り付いていた。
鎖帷子の隙間を埋めるように葉が茂っていく。
慈姑姫のつま先から頭のてっぺんまで鐵華曼の装甲が緑色の鱗のごとく覆いつくていく。
「やめて~こんなのマジで装甲になるの~~?」
振り絞るような叫びに小町は耳を貸さない。
「ぶっつけ本番は新兵器につきものですよ~。耐久性テスト行きま~す」
そして、長い蔦が姫を何度もしばき倒した。
「次、絶縁テスト~~」
「うぎゃーーーっ」
百万ボルトの電撃が鐵華萬に降りかかる。
その一方で、シアは糊の効いたセーラー服にを包み、ロングヘアのヅラを被る。
姿見の前でニヨニヨ微笑んでいると、いきなり正面に嫁が現れた。
「貴女ねぇ! いつまでやってんの? ファッションショー」
鏡の中のフランチェスカはそうとうお冠である。
「うっさいわね。あんたこそ駅前で油売ってるヒマがあったら迎えにぐらい来なさいよ。ほんっとうに気が利かない女」
ヒステリーが臨界に達する前にハッシェが仲裁に入った。
「婦妻ゲンカしている時間はありませんよ。娘さんたちの行方は気にならないんですか?」
「何? この子」
コヨーテは奪衣婆たちを牽制するように睨む。
「賽の河原で知り合ったの。わたしを助けてくれた」
シアは鬼との死闘をかいつまんで語った。
共同交戦システムは機能しているのか、と嫁に聞かれてシアはユズハの一件を慌てて補足した。
「量子暗号を盗聴するなんて予知能力でも使わない限り不可能なことよ」
コヨーテが腕組みする。
「じゃあ、誰が……まって……おかしいわね」
シアは額に脂汗を浮かべて意識を集中している。
「あれ? 揚陸艦とリンクできないのよ。『接続に失敗しました。不明なエラー』って何なのよ。も~~!!」
彼女が試行錯誤している間に鏡の向こうが騒がしくなってきた。
「敵味方識別装置の故障ではないのか」「友軍信号を確かにとらえています」「対地ミサイル接近。どういうことだってばよ!」
怒号が飛び交うなか、メイドサーバントたちがめいめいの船に戻っていく。
「識別子が書き換わっている? デスシップ? そんな艦種聞いたことも……」
ライブシップの近接対艦防空システムが12.7ミリ弾をせわしなくばら撒いている。
コヨーテは断腸の思いで決断を下した。
「シア・フレイアスター号を撃沈せよ!」
鏡の前でシアはのけぞった。
「貴女、気でも狂ったの?」
「狂ったのはお前でしょうが! よくも騙したわね!」
コヨーテは一気に態度を硬化させた。いったい、この騒ぎは何事だろう。
背後に無線がざわめいている。
「なになに、何のこと?」
「バックレんじゃねーよ。糞ババー」
「糞とは何よ。 わたしが何をしたというのよ!」
シアの抗議が爆発音にかき消された。すぐ近くに着弾したらしい。
「身内を騙し討ちするなんて、最ッ低!」
コヨーテが画面に唾を吐きかける。
シアはあやうく鏡を割りそうになった。
「何が起きたかぐらい話してくれてもいいじゃない!」
返事の代わりに画面がクモの巣状に割れた。回線がダウンする直前に信じがたい映像が飛び込んできた。
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