Soyez les bienvenus露の都の慈姑姫

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げぇっ? BBA(だつえば)だらけの艦船これくしょん

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 ■げぇっ? BBAだつえばだらけの艦船これくしょん?

「要するに、わたしの偽物がわたしの半身を乗っ取ったわけ?」

 シアは総毛だった。
 土砂降りの中を傘をささずに歩く。または、真冬の早朝に生乾きの服を着る。そんな最悪の着心地を百倍に増幅した不快感が全身を駆け巡った。
 強襲揚陸艦シアフレイアスター断末魔エラーメッセージを文字通り肌で感じているのだ。生体端末メイドサーバントライブシップふねは一体化しており、感覚の遮断は容易ではない。

 死ぬしかない。いったん、この肉体を捨てて新品のクローンボディーに転生するしかないとシアは最悪の事態を覚悟した。

 死か。
 これで何度目だろうか。一度は経験しているとはいえ、恐怖に慣れ親しむことはない。

「そういえば、デスシップとか言ってなかった?」
 シアは気分を紛らわせようと話題を変えた。
「ええ、確かに。ライブシップの反語か意趣返しなのでしょうけど」
 その様な艦種は識別符号にない、とハッシェは明言した。

 おそらくカミュのしわざだろう。航空戦艦ライブシップによる冥界侵攻を人類に提言し、あの世の偉人賢人たちの英知とこの世の科学を融合した人物だ。彼ならライブシップの建造過程を熟知しているだろう。ユズハの建造過程に介入ハッキングした犯人も彼に違いない。

「どうせ、不死腐敗系アンデッドどもが操るからデスシップなんでしょ。サラセニアの甲板にも居たわ」
 シアは苦虫を噛み潰したような顔で次の一手を考えた。
「どうするんですか? ウニモグでジュデッカ駅まで行く予定だったでしょう」
「ここが攻撃されるのも時間の問題ですよ」
 八方手づまりの状態に奪衣婆達は顔を曇らせる。
 しかし、シアは生き生きとした表情で不安を解消した。
「艦には艦よ☆」


 ◇ ◇ ◇ ◇

 地獄の闇に電気火花が輝き、槌音が響いている。車庫の壁をユンボが突き崩し、重機がコンクリートを突き固めている。

 シアは車両基地の拡張工事プログラムを改変し、待避線の用地に造船工廠を作らせていた。
 航空戦艦ライブシップの生命力は、あの害虫Gを三桁も四桁も凌駕すると言われる。確実に倒すには、|生体端末メイドサーバントと航空戦艦の両方を同時に殺さねばならない。艦が生き残れば、データベースの遺伝情報と記憶をもとに端末をクローン培養し、端末が生き残ればライブシップを再建する。

 無人工作機械は賽の河原に沈む資材を活用して四隻分の造船ドックを整備している。

「一つでじゅうぶんですよ」
 ハッシェが指摘するように、乗っ取られた強襲揚陸艦の代替え以外に何を作ろうというのか。
「いいえ、あとメイドサーバントが三人足りないの」
 シアはハッシェの不安を裏付けるようにはっきりと告げた。
「ちょ、奪衣婆は人間じゃありませんよ。か、改造なんて……」
 ドン引くハッシェをシアは追い詰めていく。
「いいえ。この分子機械液ナノメイカーはね。とぉっても簡単なの。ガールスカウトの女の子でも使えるように出来てるのよぉ~~」
 わざとらしい猫なで声がかえって不気味さを増す。
 シアの振りかざす小瓶には「強力!ふなもと 航空戦艦生体端末人体改造分子機械液 人間/女児用 ※用法を守って正しく服用しましょう♪」と書いてある。

 裏にはかわいいイラストで服用法が簡略化してある。最初のコマでは二頭身の少女が顔を「×」の字にして接種を受けている。次のシーンでは漫画チックな爆風の中から玩具みたいな船と羽の生えた天使が飛び出している。

 どんな内服薬だよ!。

「が、がーるスカウトのジョシが、なんで航空戦艦になるんですかああああああ」
「特権者戦争の末期には女の戦闘純文学者を補うために、こういう自暴自棄的な薬品も作られたのよ」
 国際児童権利条約さえもぶっ壊すとは、想像を絶する大戦争だったに違いない。
「え~~人権とかリンリとか」
「非常時に道徳もへったくれもないわ」
 シアは強引に奪衣婆の袖をまくる。
「うギャ! まってください」
 ハッシェは下駄を鳴らして河原へ駆け下りていく。
 小石につまずいて、着物の裾が乱れ、赤い腰巻が丸見えになる。
「今までさんざん脱がしてきたんでしょ」
 シアは奪衣婆をふん捕まえると躊躇することなく鎮静剤アンプル発射銃の引き金を引いた。
「いや~~~……クタッ」

 すーすーと寝息を立てるハッシェにシアは呟いた。

「本当はこんなことはしたくなかったんだけど、説得する時間もないしね……あなたたちの強力なパワーが必要なのよ」

 奪衣婆の頭上にはシアの術式がステータス表示を描いている。
【観測力】の項目が振り切れている。死してなお亡者を辱めるという奪衣婆の視線は、熟達した戦闘純文学者に比肩する。

「認識を実体化」させる戦闘純文学者が、その力を初めて行使する前には衆目を浴びなくてはならない。奪衣婆たちは何万何億という亡者たちを観測してきたのであり、超強力な認識力の具現者であるといえる。

 航空戦艦の動力源はうってつけだ。

「仕事とはいえ、大勢を脱がしてきたんだから、あなたの神経は相当なものよ。その図太さでカミュを殺っちゃってほしいの」

 仲間の異変に気付いたあかつき柊真とうまが土手から降りてきた。

「ごめんね」

 シアは狙いすまして順番に倒した。



 ◇ ◇ ◇

「はにゃ?」

 ボブカットから垂れたエルフ耳がのぞいている。
「これが、わたし?」
 ハッシェはアーモンド型の瞳を大きく見開いた。鼻筋の通った顔に色白の肌。お世辞にも美人とは言い難いが、顔面偏差値は中より上だと言い切る自信はある。
「えるふっ娘も満更じゃないでしょ?」
 シアが勝ち誇ったようにニッと微笑む。
 元奪衣婆は姿見をもう一度みなおして、顔を赤らめた。

「でも~。この格好はどうにかなりませんかぁ~~」

 首から下は濃紺のスクール水着が太腿の付け根までぴったりと覆っており、背中にうっすらと水着のラインと翼が透けている。

「はづかしいでしょ? はい、たいそー着とぶるま」

 同じ格好をしたシアがクールネックのシャツを被り、ゴム裾のショーツを腰の高さまで引っ張り上げてお手本を見せる。
 だぶついた体操服は折り畳んだ翼と、それを締め上げる水着の線を隠してくれる。

「ひ~~服の上に服を重ねるなんて、はづかしすぎますぅ~」
 ハッシェは今にも泣きそうな顔をしている。
「お洋服を着るのがどうしてはずかしいの?」
 理由はおおかたわかっているのだが、シアはあえて意地悪な質問をした。

「だ~~。あたしの口から言わせるんですかぁあああ。ひゃ☆ はずかしぃくぁwせdrftgyhj……」
 羞恥のあまり、語尾が口ごもってしまうハッシェ。

「ぷっ」

 シアはたまらず噴き出してしまう。奪衣婆の倫理観は人間とは真逆で着衣の方が裸より恥ずかしいという。

「だって、脱がされるかもしれないし~」

 身もだえするハッシェに情欲を感じたシアは、思わず肩を抱き寄せる。
「かわいい!」
 エルフ耳につい舌を這わせてしまった。
「はぅ! にゃ、にゃにをするんですかぁ」
 メイドサーバントと元奪衣婆が百合の花を咲かせている間に、自動機械が姉妹の適合化を進めていた。


 暁と柊真の姉妹はきょとんしたまま座椅子ごと湯煙の中へ消えていく。分子機械液の作用で首から下は麻痺している。扉の向こうからベリベリと生地が裂ける音がして、ざぁっと瀑布のごとく水飛沫が散る。
「ひぁ!」
「きゃ☆」
「「つめたぅい!」」
 若い奪衣婆達はキャッキャウフフしていたが、次第に様子が様変わりする。
「なになになに~。これ」
「おね~ちゃん。耳が尖ってるし」
「つか、何、これアタシの毛?」
「なぜ、こんなに抜けるし?」

 排水口に長い毛が詰まり、たちまち大量の泡があふれる。
 全自動シャワーは姉妹の汚れをすっかり洗い流した。
 髪も。

 どうやらシャンプーに毛根を枯らす成分が含まれているようだ。

「「うそ~~っ」」

 ロボットハンドが子猫をつまみ上げるようにツルツルお肌の女子を運ぶ。頭のてっぺんからつま先まで玉のお肌だ。背中にはしっぽりと濡れそぼった天使の羽がはえている。

 暁はうなじに舐めるような視線を感じた。

「だ、誰っ?」
 ぞっとして首をすくめると、目の前をドローンがよぎった。
『えへへ。強力術式むすめ見っけ☆』

 うわずった声が残響する。

「ちょ、シ、シアちゃんなの?」
「覗かないでください~」

 身体をよじらせる姉妹の真横にステータス表示が重なる。それぞれの桁が0から9までループしている。


『うわ。すごいわね。キミたち、カンストどころか、三十周くらいしてるし~』

 シアが感心していると姉妹は泣き出してしまった。

『しまった。やりすぎたか。自動機械マシーン、この子たちに着替えを出して』



 ◇ ◇ ◇ ◇

「馬子にも衣裳というか、奪衣婆にセーラー服というか」
「まんざらでもないわね」

 ハッシェと暁は互いにスカーフを結びあっている。
 あまりにも強引なやり方に奪衣婆たちは抗議したものの、すっかりシアのペースに乗せられてしまった。

 分子機械ナノマシンはシア・フレイアスター級強襲揚陸艦四隻を一時間とかからずに建造してしまった。それだけの資材をどこから調達したのかとハッシェが聞く。
 シアが言うには三途の河には有史以来、人間が水辺に沈めてきた物の分霊ゴーストが溜まっているという。例えば鋼鉄の沈没船だ。残骸は現世で錆びついてるが、その霊ともいうべき存在はレーテ―で眠っている。
 もとをただせば、物質も霊質も唯心論によれば同じ幽子情報系で出来ていて、粒子間に運動法則が成り立つため、加工が可能だ。

「……と、いうわけで脳と艦を量子リンクするコツは、接続つないで覚えろってコト」
 シアが頭をツルリと撫でて、ウイッグを被りなおした。
 ふわりとウエーブがエルフ耳にかかる。

「出家する理由ってそういうことだったんですか!」
 ハッシェはぎこちない手つきで鬘の位置を調整する。
「出家とはちょっと違うのよね。まぁ、フネとつながれば世界が広がることは確か」
 シアの大脳から毛根へ無数のプローブが伸びて、毛穴に透明なフェーズドアレイアンテナを発生させた。そこから距離と時間を越えて、脳波が艦の制御中枢へ届く。


 暁たちもシアにならい、括目した。
 瞼の裏にデスシップの予想進路図が表示された。

 造船ドックに警報が鳴り響く。

『シア・フレイアスター級強襲揚陸艦 暁 緊急進水!』
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