正義を捕まえた正義

朝香 龍太郎

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ストーカーの焦り

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警察官は困惑した。
「は?何を言ってるんだ?たった今ストーカーから解放された彼女が自殺する訳ないだろう。」
「アイツは自殺したかったんだ。それを俺が止めていたんだよ!ストーカーになる覚悟で!」
警察官は驚いた。長年刑事をやっているためか,嘘をついている人はなんとなくわかる。
勘?と言うやつだろうか。
警察官の経験を著しく溜め込んだ頭脳が,細胞の一つ一つがはっきりと否定する。
「この男は嘘を言ってない」と。
「さっき聞いた住所に今すぐ向かえ!」
警察官は叫んだ。周りにいた他の刑事も驚いている。こんなストーカーの言うことなんて聞かないと思っていたのだろう。
「俺も連れて行ってくれ!」
急いで部屋から出ようとする警察官の後ろで男は叫んだ。その場にいた警察官全員が男の方に振り向いた。
「俺ならあいつを生かせる。て言うか,アイツは俺の目の前では死ねないんだ。」
ますます意味がわからなかった。
「それは出来ない。あんたは今容疑者として逮捕されている。容疑者を連れ歩くことなど出来ん」
他の警察官が言った。そして警察官は,後ろで必死に懇願する男を連れることなく,部屋から出た。そしてパトカーに乗り込み,彼女の家を目指した。
「何故,あの男は一緒に連れていけなんて行ったんでしょうか?」
一緒にパトカーに乗っている後輩の警察官が言った。
「さぁ,それは俺にも分からん。でもあの男の,さっきの女性が自殺する話は本当かもしれない。急ぐぞ!」


 15分ほどたっただろうか。セーターの女性の部屋があると思しきアパートに来た。エレベーターは改装中で,止まっている。
「クソッ!こんな時に・・!」
「階段で行きましょう!確か10階のはずです。」
「急げー!」
階段を過去最速のスピードで駆け上がって行く。ハァハァと息が切れる。
やっとの思いで10階までたどり着いた。
「部屋の番号は?!」
「1003号室です。」
「よし,ここか。」
インターホンを鳴らしてみる。しかし反応はない。いくら連打しても,ドアを叩いても反応はない。
「クソッ!あの男の嘘だったってのかよ?!」
すると,ある1人の住民とすれ違った。
「すいません。ここに住んでる女性は,今どちらに行っているかわかりますか?」
住民は不思議そうな顔をして答えた。
「え?○○さんいらしてないんですか?ちょっと前に帰ってくるのを見たのに。私,隣の部屋だから,出て行く時の音なら聞こえるけど,帰ってきたきりどこにも行ってないと思うんだけど。」
やはりこの部屋にいる!そう警察官は確信した。無理矢理ドアを開けるためにノブに手をかけた瞬間。あることに気がついた。
「あれ?このドア,開いている!」
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