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しおりを挟むその日、アマーリエは母アレクシアと日当たりのいいサロンでお茶をしていた。
「今ごろお父様は騎士団でしょうか」
「ええ。王子の不正について、調査を依頼するそうよ」
「不正というと、公金横領についてですか?」
「そちらもだけれど、主には貴女が捕縛されそうになった件についてね」
卒業パーティの日、婚約破棄された後アマーリエは冤罪で近衛騎士に捕縛されそうになった。公爵家の騎士見習いが間にはいり事なきを得たが、アマーリエ一人だったら捕らえられてしまっただろう。
そしてそうなったら、公爵もいまのような温い手段を選んでいない。
なにもせず放置するというのは、イソベルにとっては生きた心地がせず肝を冷やす事だろうが、公爵家からの制裁としては弱すぎる。
アマーリエとしてはもうイソベルと関わり合いになりたくなかったから提案したことだが、やはりそれだけでは済まないという事だろう。
「ノエル達には助けられました」
「今回の手柄で彼らは正式な騎士になることが決まったわ。彼らは引き続き貴女の下で働きたいといっているけれど、どうかしら」
「その事ですが、わたくし、隣国に魔法を習いに行きたいと思っております」
「あら、王宮魔導士になりたいの?」
「そこまでは」
王宮魔導士というのはエリート中のエリートだ。
「ですがせっかく魔力もちなのです。魔法を使ってみたいではありませんか」
魔力があると分かった時から、魔法を使ってみたかった。王子の婚約者となり王子妃教育を受けるために一度は諦めたが、いま、アマーリエの未来は婚約と同じく白紙となっている。
十数年我慢したのだ。いまなら、好きな事ができる。
「子どもっぽいでしょうか」
「あら」
アレクシアは優しく微笑み、人差し指を小さくクルっとと回した。
するとアレクシアの指先の動きをなぞるように小さな炎があらわれる。
「わたくしも、魔法を習っていたのよ。お父様に嫁ぐことになって魔法の研鑽をする道は諦めたけれど、娘が魔法を習いたいと言ってくれるのは嬉しいわ」
「お母様」
「いままで貴女には我慢ばかりさせてしまっていたわね。お父様に聞いてみないと分からないけれど、わたくしはいいと思うわよ」
アマーリエの胸はジンとして暖かくなった。
一方そのころ、王宮を抜け出して前触れなしにメルルーナ公爵家へやってきた第一王子は門前払いをくらっていた。
「ご歓談中、失礼いたします」
母娘のお茶会が一段落ついた頃、家令が公爵夫人に声をかけた。
「第一王子が当家をご訪問されております」
「あら。門前払いはしたかしら」
「当然でございます。ですがお嬢様とお会いするまではここを動かない、と門の前に陣取っておりまして。騎士に取り押さえさせる訳にもまいりませんし」
困っております、とまったく困った様子のない笑顔で告げてきた。
「そろそろ三時間になりましょうか」
駄々っ子でもあるまいに、成人した紳士の振る舞いではない。
だが良くも悪くも長い付き合いなのでそういう人間だというのは知っている。あれはいくら言っても帰らないだろう。下手をしたら明日の朝まで居座るかもしれない。こうなってなお、メルルーナ公爵家に甘えているのだ。
だが三時間も待たせたなら意趣返しとしてはちょうどいいだろう。もっと待たせて王宮の騎士が回収に来るのをまってもいいが。
アレクシアがアマーリエに視線を投げると、娘は頷いた。
「そう。旦那様がお戻りになる邪魔をされても嫌だし、いい頃合いね。応接室にお通しして頂戴」
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