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より良い世界
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「......」
彼は森の中にいた。それも、見た目がどこの誰かも知らない青年になっていた。年は高校生ぐらいだろうか。
しかもなぜか、動物の皮をなめして、青い糸で縫われた服を着ていた。
「なんだ......これ」
突然の出来事にあ然としていると、後ろから声をかけられた。
「おい、ゼニア。ちゃんと収穫できたか? 」
振り向くと、オレンジと茶色の中間のような髪色をした男がいた。そいつは、彼と同じような服を着ていた。
「え? 収穫? ゼニアって俺のこと? 」
「あ? 頭でも打ったのか? 」
おそらく、自分の名前はゼニアなんだろうと察した彼。
「でもその袋を見ると、アジンの実の収穫はできたみたいだな」
言われてみると、彼もといゼニアは右手に皮製の袋を持っていた。その中には、小さめのじゃがいものような木の実がいくつも入っていた。
「あ、あぁ、収穫できた、っぽい......」
「うし、じゃあ帰るか。みんな心配してるぞ」
ついてこいと言うと、その男は森を歩き始めた。道が分かっているようだ。やがて、ひらけた草原にでた。遠くを見ると、丸太を削ってたくさん並べた、弥生時代のような木の柵があった。そこに村があるのを象徴していた。
「よし、こっからはいつも通りだぞ」
「え? いつも通りって? 」
「ほら、いっつもやってんだろ。競争だ! 」
するとその男は、村に向かって走り始めた。ゼニアもそれに乗じて慌てて走った。
木の柵のように丸太を並べてできた木の門の前まで来た。競争の結果は、男の勝利だった。
「はあ、はあ......お前いっつも俺に負けるよなぁ」
「はあ、はあ......だっておま、先に走り始めただろ......」
「ハッハ! 細かいことは気にすんな」
そう言うと男は、門を叩きながら大声で言った。
「おーい! 俺だ! ガルタとゼニアだ! 開けてくれ! 」
男改めガルタがそう言うと、門はゴゴゴと音をたてて両開きの形で開いた。
すると、開いた門の目の前で待っていた少女がいた。ガルタのような髪色に、ツインテールで身長の低い少女だった。ガルタとゼニアに、笑顔で大きく手を振っている。
「おかえり! ゼニアお兄ちゃんガルタお兄ちゃん! 」
「ただいまパネ。今日も競争は俺が勝ったぞ」
ガルタのその言葉に、パネはジト目で疑った。
「どうせ、ゼニアお兄ちゃんが優しいからってズルして勝ったんでしょ」
「ギク......」
「ほら図星。私はお兄ちゃんたちのことならなんでも知ってるんだから......」
パネはゼニアの方に近づいていき、優しく抱きついて背中を撫でた。
「大丈夫だよゼニアお兄ちゃん。悪いガルタお兄ちゃんは私が懲らしめてあげるからね」
ゼニアはこんな美少女に優しくされたことはない。むしろ、触られたこともないし喋ったこともない。そんなゼニアが今、自分をお兄ちゃんと慕うカワイイ妹に抱きつかれている。
あまりの出来事に混乱して、そのままぶっ倒れてしまった。
最後に聞こえたのは、ゼニアを心配するパネとガルタの声であった。
もう日も落ちた頃、ゼニアは賑やかな談笑の声で目を覚ました。
天井を見る限りでは、ここは大きいテントのようなものの中なのだろう。
「ん......」
「あ、お兄ちゃん! 」
ワラが敷かれたベッドに横たわっていたゼニア。そのすぐそばでは、心配そうな顔をしたパネがゼニアの手を握っていた。
「お、目ェ覚ましたか」
奥の方で談笑を楽しんでいたガルタも、様子を見にやってきた。
「いきなりぶっ倒れるからよ、お兄ちゃんは心配したぜ? パネは心配しすぎてずっとお前に付きっきりだったけどよ」
「ちょ、ちょっと! ガルタお兄ちゃん余計なこと言わないで。向こうでおじさん達と喋っててよ」
「へいへい」
ガルタは言われた通り、楽しそうに酒を飲むガタイのいい中年の男たちの輪の中に入っていった。
「大丈夫? やっぱりまだ早かったんだよ。自分たちだけでお祭り用の食材を取ってくるなんて」
「あ、ああ、そうかもな......もう大丈夫だから。ちょっと外の空気でも吸ってくる」
「あ、うん。気をつけてね」
ゆっくりと立ち上がりテントの出入り口まで行く。途中には、大きなランタンを中心に酒を飲むおじさん達がおり、ゼニアに話しかけてきた。
「おうゼニア! 俺たちみたいに一人で狩りに出られるぐらい鍛えねぇとな! ハハハッ! 」
「でもなゼニア。おじさん達、お前の度胸は認めてるぜ。あの迷い森はかなり厄介な魔物が住んでるからな。よく無事に帰ってきた!! 」
「ああ、ありがと......」
酔っぱらい達を軽くいなして、テントの外に出た。夜空には大きな月が浮かんでおり、優しい明かりが降り注いでいた。
「ゼニア......ッ! 」
声のする方を向いてみると、そこには料理の乗ったトレーを持った女性がいた。その女性はトレーをテントに入ってすぐのところに置いておいて、ゼニアの元に駆け寄った。
「だからお母さん反対したのよ? 二人だけで迷い森まで行くなんて」
母親と思われるその女性は、ゼニアのおでこを触って熱がないか確かめたり、怪我をしてないか確かめたりした。
「どこも悪くないみたいね。よかったわ」
「あ、うん......」
すると母親はニッコリして言った。
「......じゃあお母さん、お料理作らないといけないから。もう行くわね。お祭りが楽しいからって、おじさん達とあんまり夜ふかししちゃダメよ」
そう言って自身の口に人差し指を当てた。そうすると母親は、遠くの煙があがっている小屋に小走りで行った。
母親が見えなくなると、ゼニアは月を見上げた。
(これってもしかして......異世界転生ってやつなんじゃ......)
この手の死にゲーをやったことがあるので理解は早かった。しかし、ゼニアにはいまいち納得できないことがあった。
(あの母親は見た目が若すぎんか!? あとあの、パネ? 妹なのかな? 可愛すぎんか!? キュン死するわッ!! )
ずっと言いたかった心の叫びを頭の中で叫んだことで、少しスッキリしたゼニア。そして改めて考える。
(前の世界と比べたら発展してないかもだけど、この村の人達はみんな優しいし、兄貴、ガルタはちょっとウザいけどいいやつだし、妹は可愛いし)
そこまで考えたゼニアの目は、光を宿した。
(なんか、この世界の方がいいかもな)
月明かりがゼニアの頬を照らす。ひゅう、と風が吹くとまだ肌寒い季節だということが分かる。ゼニアは身震いしながらテントの中に戻っていった。
するといきなり、泥酔したガルタが抱きついてきた。
「うお! なんだよ! 」
相当な量の酒を飲んだらしく、呂律も回らないほどベロベロに酔っ払っていた。
「ヌオオ弟よ。俺はお前の夢をオーエンする。してやる! 絶対に叶えろ! 」
その発言におじさん達は反応し、興味津々な顔をし始めた。
「お? 夢なんてあったのか? 話してみろよ! 」
「おじさん達でよければ、力になるぜ? 」
ゼニアにはさっぱりなんのことかわからなかった。すると、ガルタがその続きを喋った。
「独り立ちして王国に行って、魔族討伐隊に入るんだろぉ? すんげぇよなぁ」
ガルタがそう言った瞬間、おじさん達は言葉をつまらせた。酔いも覚めるほどのことだったのだ。
「......な、なあゼニア、本当なのか? 」
「え? 」
スキンヘッドのハゲ頭のおじさんがゼニアと真摯に向き合い、話している。
「本当に、討伐隊に入りたいのか? 」
「え、えっと......」
なぜか、違うと言えなかった。体がそれを拒否しているかのようだった。
「ううむ......あのな、親父さんに憧れるのは分かるが、な? お前の親父さんは、その......」
ハゲ頭のおじさんは再び言葉をつまらせた。言いにくいことがあるようだ。
すると、酔っぱらいのおじさんたちとは声色の違う人物が喋り始めた。
「討伐隊に入りたいのか。ゼニア」
テントの隅。ランタンの光があまり当たらないようなところであぐらをかき、漆塗りの盃を持って酒を飲み進めている男。おじさん達よりも白髪が多く、年を取っているようにみえるが、傷だらけの顔面に閉じた左目、体に立てかけている刀がその強さを表していた。
ハゲ頭のおじさんはその男に向かって正座をし、頼んだ。
「ジガルさん。ゼニアの相談に乗ってやってくれないか」
少し沈黙すると、ジガルと呼ばれたその男は口を開いた。
「......ゼニア」
「は、はい......」
「明日、人喰いの森へ来い。一人でだ」
その言葉を聞いたおじさん達は、驚きを隠せないでいた。
ハゲ頭のおじさんもそうだった。
「ほ、本気ですかいジガルさん!? ゼニアはまだスライムすら倒したことねぇのに」
「......手を出すな。これは儂からの試練だ」
するとジガルは盃を置いて、刀を腰に差してテントから出ていった。
「止めてくれるかと思ったのに。これじゃあ討伐隊に入るのを勧めてるようなもんだ」
ハゲ頭のおじさんはその特徴的な頭をポリポリと搔き、肩を落とした。
ゼニアは、さっきからのおじさん達の反応を見て不思議に思うことがあった。
「......なんで、討伐隊に入ったらダメなんだ? 」
ハゲ頭のおじさんは、驚いた顔でゼニアを見た。
「お前......まさか忘れたわけじゃないよな」
「あ、いや......」
ハゲ頭のおじさんはゼニアの方に向き直り、話し始めた。
「お前の親父さんは、討伐隊に入ってただろ? 国の英雄であり、この村の英雄だった。だが、ある日討伐対象の魔族から攻撃をもろに食らって、記憶を無くしちまった。そんで体も衰弱して、見るに堪えない姿になっちまったのを、今でも思い出すぜ......で、今日はその英雄の命日ってわけだ」
思い出を一つ一つ縫い合わせていくように話した。過去を思い出し、苦しんでいるようにも見えた。
「だから俺たちは、本当のことを言うと、お前を討伐隊に入れさせたくない。親父さんと同じ運命をたどることになるぞ」
「......」
この時、ゼニアは何も喋れなかった。
「......まあ、今日はもうゆっくり休め。明日はジガルさんに呼び出されてるだろ」
「......うん」
ゼニアは立ち上がって、テントから出た。すると、いつの間にかテントから出ていたパネと鉢合わせた。
「あ、ゼニアお兄ちゃん。もう帰る? 」
「ああ、うん」
「じゃあ一緒に帰ろ? 」
「おう......」
少しの不安を胸に、今日はパネと一緒に家に帰って休んだ。明日はジガルの試練を受けなければならない。それが、ゼニアの安眠を妨げることになった。
しかしゼニアはまだ知らない。自分がその試練で、《力》を手にすることを。
彼は森の中にいた。それも、見た目がどこの誰かも知らない青年になっていた。年は高校生ぐらいだろうか。
しかもなぜか、動物の皮をなめして、青い糸で縫われた服を着ていた。
「なんだ......これ」
突然の出来事にあ然としていると、後ろから声をかけられた。
「おい、ゼニア。ちゃんと収穫できたか? 」
振り向くと、オレンジと茶色の中間のような髪色をした男がいた。そいつは、彼と同じような服を着ていた。
「え? 収穫? ゼニアって俺のこと? 」
「あ? 頭でも打ったのか? 」
おそらく、自分の名前はゼニアなんだろうと察した彼。
「でもその袋を見ると、アジンの実の収穫はできたみたいだな」
言われてみると、彼もといゼニアは右手に皮製の袋を持っていた。その中には、小さめのじゃがいものような木の実がいくつも入っていた。
「あ、あぁ、収穫できた、っぽい......」
「うし、じゃあ帰るか。みんな心配してるぞ」
ついてこいと言うと、その男は森を歩き始めた。道が分かっているようだ。やがて、ひらけた草原にでた。遠くを見ると、丸太を削ってたくさん並べた、弥生時代のような木の柵があった。そこに村があるのを象徴していた。
「よし、こっからはいつも通りだぞ」
「え? いつも通りって? 」
「ほら、いっつもやってんだろ。競争だ! 」
するとその男は、村に向かって走り始めた。ゼニアもそれに乗じて慌てて走った。
木の柵のように丸太を並べてできた木の門の前まで来た。競争の結果は、男の勝利だった。
「はあ、はあ......お前いっつも俺に負けるよなぁ」
「はあ、はあ......だっておま、先に走り始めただろ......」
「ハッハ! 細かいことは気にすんな」
そう言うと男は、門を叩きながら大声で言った。
「おーい! 俺だ! ガルタとゼニアだ! 開けてくれ! 」
男改めガルタがそう言うと、門はゴゴゴと音をたてて両開きの形で開いた。
すると、開いた門の目の前で待っていた少女がいた。ガルタのような髪色に、ツインテールで身長の低い少女だった。ガルタとゼニアに、笑顔で大きく手を振っている。
「おかえり! ゼニアお兄ちゃんガルタお兄ちゃん! 」
「ただいまパネ。今日も競争は俺が勝ったぞ」
ガルタのその言葉に、パネはジト目で疑った。
「どうせ、ゼニアお兄ちゃんが優しいからってズルして勝ったんでしょ」
「ギク......」
「ほら図星。私はお兄ちゃんたちのことならなんでも知ってるんだから......」
パネはゼニアの方に近づいていき、優しく抱きついて背中を撫でた。
「大丈夫だよゼニアお兄ちゃん。悪いガルタお兄ちゃんは私が懲らしめてあげるからね」
ゼニアはこんな美少女に優しくされたことはない。むしろ、触られたこともないし喋ったこともない。そんなゼニアが今、自分をお兄ちゃんと慕うカワイイ妹に抱きつかれている。
あまりの出来事に混乱して、そのままぶっ倒れてしまった。
最後に聞こえたのは、ゼニアを心配するパネとガルタの声であった。
もう日も落ちた頃、ゼニアは賑やかな談笑の声で目を覚ました。
天井を見る限りでは、ここは大きいテントのようなものの中なのだろう。
「ん......」
「あ、お兄ちゃん! 」
ワラが敷かれたベッドに横たわっていたゼニア。そのすぐそばでは、心配そうな顔をしたパネがゼニアの手を握っていた。
「お、目ェ覚ましたか」
奥の方で談笑を楽しんでいたガルタも、様子を見にやってきた。
「いきなりぶっ倒れるからよ、お兄ちゃんは心配したぜ? パネは心配しすぎてずっとお前に付きっきりだったけどよ」
「ちょ、ちょっと! ガルタお兄ちゃん余計なこと言わないで。向こうでおじさん達と喋っててよ」
「へいへい」
ガルタは言われた通り、楽しそうに酒を飲むガタイのいい中年の男たちの輪の中に入っていった。
「大丈夫? やっぱりまだ早かったんだよ。自分たちだけでお祭り用の食材を取ってくるなんて」
「あ、ああ、そうかもな......もう大丈夫だから。ちょっと外の空気でも吸ってくる」
「あ、うん。気をつけてね」
ゆっくりと立ち上がりテントの出入り口まで行く。途中には、大きなランタンを中心に酒を飲むおじさん達がおり、ゼニアに話しかけてきた。
「おうゼニア! 俺たちみたいに一人で狩りに出られるぐらい鍛えねぇとな! ハハハッ! 」
「でもなゼニア。おじさん達、お前の度胸は認めてるぜ。あの迷い森はかなり厄介な魔物が住んでるからな。よく無事に帰ってきた!! 」
「ああ、ありがと......」
酔っぱらい達を軽くいなして、テントの外に出た。夜空には大きな月が浮かんでおり、優しい明かりが降り注いでいた。
「ゼニア......ッ! 」
声のする方を向いてみると、そこには料理の乗ったトレーを持った女性がいた。その女性はトレーをテントに入ってすぐのところに置いておいて、ゼニアの元に駆け寄った。
「だからお母さん反対したのよ? 二人だけで迷い森まで行くなんて」
母親と思われるその女性は、ゼニアのおでこを触って熱がないか確かめたり、怪我をしてないか確かめたりした。
「どこも悪くないみたいね。よかったわ」
「あ、うん......」
すると母親はニッコリして言った。
「......じゃあお母さん、お料理作らないといけないから。もう行くわね。お祭りが楽しいからって、おじさん達とあんまり夜ふかししちゃダメよ」
そう言って自身の口に人差し指を当てた。そうすると母親は、遠くの煙があがっている小屋に小走りで行った。
母親が見えなくなると、ゼニアは月を見上げた。
(これってもしかして......異世界転生ってやつなんじゃ......)
この手の死にゲーをやったことがあるので理解は早かった。しかし、ゼニアにはいまいち納得できないことがあった。
(あの母親は見た目が若すぎんか!? あとあの、パネ? 妹なのかな? 可愛すぎんか!? キュン死するわッ!! )
ずっと言いたかった心の叫びを頭の中で叫んだことで、少しスッキリしたゼニア。そして改めて考える。
(前の世界と比べたら発展してないかもだけど、この村の人達はみんな優しいし、兄貴、ガルタはちょっとウザいけどいいやつだし、妹は可愛いし)
そこまで考えたゼニアの目は、光を宿した。
(なんか、この世界の方がいいかもな)
月明かりがゼニアの頬を照らす。ひゅう、と風が吹くとまだ肌寒い季節だということが分かる。ゼニアは身震いしながらテントの中に戻っていった。
するといきなり、泥酔したガルタが抱きついてきた。
「うお! なんだよ! 」
相当な量の酒を飲んだらしく、呂律も回らないほどベロベロに酔っ払っていた。
「ヌオオ弟よ。俺はお前の夢をオーエンする。してやる! 絶対に叶えろ! 」
その発言におじさん達は反応し、興味津々な顔をし始めた。
「お? 夢なんてあったのか? 話してみろよ! 」
「おじさん達でよければ、力になるぜ? 」
ゼニアにはさっぱりなんのことかわからなかった。すると、ガルタがその続きを喋った。
「独り立ちして王国に行って、魔族討伐隊に入るんだろぉ? すんげぇよなぁ」
ガルタがそう言った瞬間、おじさん達は言葉をつまらせた。酔いも覚めるほどのことだったのだ。
「......な、なあゼニア、本当なのか? 」
「え? 」
スキンヘッドのハゲ頭のおじさんがゼニアと真摯に向き合い、話している。
「本当に、討伐隊に入りたいのか? 」
「え、えっと......」
なぜか、違うと言えなかった。体がそれを拒否しているかのようだった。
「ううむ......あのな、親父さんに憧れるのは分かるが、な? お前の親父さんは、その......」
ハゲ頭のおじさんは再び言葉をつまらせた。言いにくいことがあるようだ。
すると、酔っぱらいのおじさんたちとは声色の違う人物が喋り始めた。
「討伐隊に入りたいのか。ゼニア」
テントの隅。ランタンの光があまり当たらないようなところであぐらをかき、漆塗りの盃を持って酒を飲み進めている男。おじさん達よりも白髪が多く、年を取っているようにみえるが、傷だらけの顔面に閉じた左目、体に立てかけている刀がその強さを表していた。
ハゲ頭のおじさんはその男に向かって正座をし、頼んだ。
「ジガルさん。ゼニアの相談に乗ってやってくれないか」
少し沈黙すると、ジガルと呼ばれたその男は口を開いた。
「......ゼニア」
「は、はい......」
「明日、人喰いの森へ来い。一人でだ」
その言葉を聞いたおじさん達は、驚きを隠せないでいた。
ハゲ頭のおじさんもそうだった。
「ほ、本気ですかいジガルさん!? ゼニアはまだスライムすら倒したことねぇのに」
「......手を出すな。これは儂からの試練だ」
するとジガルは盃を置いて、刀を腰に差してテントから出ていった。
「止めてくれるかと思ったのに。これじゃあ討伐隊に入るのを勧めてるようなもんだ」
ハゲ頭のおじさんはその特徴的な頭をポリポリと搔き、肩を落とした。
ゼニアは、さっきからのおじさん達の反応を見て不思議に思うことがあった。
「......なんで、討伐隊に入ったらダメなんだ? 」
ハゲ頭のおじさんは、驚いた顔でゼニアを見た。
「お前......まさか忘れたわけじゃないよな」
「あ、いや......」
ハゲ頭のおじさんはゼニアの方に向き直り、話し始めた。
「お前の親父さんは、討伐隊に入ってただろ? 国の英雄であり、この村の英雄だった。だが、ある日討伐対象の魔族から攻撃をもろに食らって、記憶を無くしちまった。そんで体も衰弱して、見るに堪えない姿になっちまったのを、今でも思い出すぜ......で、今日はその英雄の命日ってわけだ」
思い出を一つ一つ縫い合わせていくように話した。過去を思い出し、苦しんでいるようにも見えた。
「だから俺たちは、本当のことを言うと、お前を討伐隊に入れさせたくない。親父さんと同じ運命をたどることになるぞ」
「......」
この時、ゼニアは何も喋れなかった。
「......まあ、今日はもうゆっくり休め。明日はジガルさんに呼び出されてるだろ」
「......うん」
ゼニアは立ち上がって、テントから出た。すると、いつの間にかテントから出ていたパネと鉢合わせた。
「あ、ゼニアお兄ちゃん。もう帰る? 」
「ああ、うん」
「じゃあ一緒に帰ろ? 」
「おう......」
少しの不安を胸に、今日はパネと一緒に家に帰って休んだ。明日はジガルの試練を受けなければならない。それが、ゼニアの安眠を妨げることになった。
しかしゼニアはまだ知らない。自分がその試練で、《力》を手にすることを。
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ちょっとオネェだったり、
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すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
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