双子の兄に全てを持って行かれ、家を追い出された俺を待っていたのは……

灰狼〜皐月〜

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109話〜贅沢な悩み〜

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「お腹、減った……」
「後二人だ。頑張れ」

 昼過ぎ、俺は王城にて空腹と戦っていた。

「この後パルメチズ王国とモフランティカ獣国が控えているな」
「王族でもねぇのになんでだよ~」
「まぁ、勇者だしなぁ……」
「いやぁ……」
「それに魔族と人が共に笑える国を作りたいって話をどこで聞いたのやら……それを手伝いと言う奴もいるからな」
「……はぁ。疲れた」
「まぁそう言うな。飯を用意してくれるって言ってんだ。タダ飯食えると思えば頑張れるだろ?」
「……うぃ~」

 ロウエンの言葉に頷きつつ、椅子に背中を預ける。
 いくらフカフカの椅子でも長時間座り続けると尻が痛くなる。

「ま、頑張れや」
「……おう」

 その時、部屋のドアがノックされる。

「パルメチズ王国です。失礼致します」

 ドアが開き、女性が六名入ってくる、

「お初にお目にかかります。パルメチズ王妃。マスカルピネア・パルメチズでございます」
「パルメチズ王国第一王女。モッツァリナ・パルメチズです」

 挨拶し、席に着く王妃と王女様。

 マスカルピネア王妃は落ち着いた様子の女性だ。
 母性の塊といえる程におっとりとした雰囲気を纏っており、本人自身も同じ物を醸し出している。
 その手はとても綺麗だ。
 手荒れした事が無いと言われても違和感がないぐらい綺麗だ。

 その隣に座るモッツァリナ王女。
 マスカルピネア王妃に似ている。
 ただこちらはおっとりというより、おとなしいといった感じだ。
 こちらも綺麗な手をしている。

「此度は突然の訪問にも関わらず応じていただき、誠にありがとうございます」

 まずマスカルピネア王妃が頭を下げ、続くようにモッツァリナ王女と従者が頭を下げる。

「いえいえ。遠路はるばるよくおいで下さいました。こちらこそ感謝いたします」

 それに対してロウエンが返す。

「いえ、我々としても貴方方と仲を深めたいと思いまして」
「我々としてはハヤテ様が抱いております、人類と魔族が共に笑顔で暮らせる国作りに協力したい所存であります」

 パルメチズ王国は位置としてはレイェスさん達のいる皇国、フリジシア皇国の西にある国だ。
 俺達のいるクラング王国からはだいぶ距離がある国。
 主な交易相手国はクラング王国、パルメチズ王国の北にあるオーブ王国、フリジシア皇国。
 王国を通り越してウィザルド帝国、その東にあるハクガネ皇国。
 他にもローライズ教国とマインスチル王国とも交易を行なっている。

 その最大の理由としては肥沃な土地にて育った穀物。
 それを食べて育った家畜達。
 乳牛から取れたミルクを使って作られた乳製品。
 これがメチャクチャ人気なのだ。

 主に一番人気のミルクに至っては、一口飲めばどんな病も治ると言われるほど栄養満点なのだ。

 その国の王妃様が俺の願いを応援すると言ってくれたのだ。

「あ、ありがとうございます」

 まぁ、まだその土地すらないんだけどな。

「いえいえ。シンローラ様からお話は聞いておりましたので」
「シンローラ……あぁ、ミラージュさん?」
「はい。彼女はよく面白い物を持って来てくれますよ」
「そ、そうなんですか」
「モッツァリナ。その話をしに来たのではありませんよ」
「あ、申し訳ありません。母上」
「こらモッツァリナ。公の場では王妃ですよ」
「あっ、申し訳ありません。王妃」
「話が逸れてしまいまして申し訳ありません。我々としては先程も言いましたが、ハヤテ様の理想を応援しております。つきましては、その国が出来ましたら我が国と通商を行って欲しいのです」
「え……良いんですか?」
「はい。その時にはどうか、よしなにお願いいたしますね」

 ニコリ、と大人の女性の微笑みを見せる王妃。

 それから互いに他愛のない話をし、彼女達は帰って行った。

「……疲れた」
「お疲れさん。まだ領地も持っていねぇガキに、えらく下に来たもんだな」
「あぁ……だから余計に疲れるよ」
「……やはり、聖装と勇者の祝福の価値は相当だって事だな」
「本当は普通の村出身の男の子なんだけどね」
「まぁ良いじゃないか。まだ絵に描いた餅でしかないが、その国を作るまでは頑張らないとな」
「あぁ、そうだな……」
「まぁその前に領地運用とか勉強しないとな」
「勉強か~……うげぇ」
「……頑張れよ、ハヤテ。俺も応援しているからよ」
「んー……ありがとうな」
「おう。というわけで、ラスト頑張ろうぜ」
「うげ~い……」

 その後部屋に入って来たモフランティカ獣国国王のレオン・モフランティカ獣王と話した。
 モフランティカ獣国はクラング王国の南にある島国で、小さな島が集まってできている。
 獣国というだけあってそこの住人は人狼や猫人といった獣人が暮らしている。

 主な産物としては海産物、ベーコンやハムといった家畜の肉の加工品。
 更には色鮮やかな染物を使って作られた織物。
 特に織物だが、肌触りがとても柔らかいため、女性や赤ん坊にとても人気なのだ。

 そこの王であるレオンは俺を見るや俺を友と呼んでくれた。
 彼が言うには、獣人達の地位の向上を手伝って欲しいのだと言う。
 確かに、今現在彼等の扱いは決して良いものとはいえない。

 ただ、俺が理想とする魔族と人が共に笑える国が実現すれば、それも変わるかもしれないのだ。

 その為にも協力をさせて欲しいと向こうは言ってくれたのだ。

 ただ何度も言うが、まだ領土すら俺は持っていない。
 その事を伝えると、彼は驚きつつもそのくらい待つと言ってくれた。

 帰り際に彼は俺に、期待していると言ってくれた。

「……頑張らないとな」
「そうだなぁ。ハヤテの理想は、一部ではあるが救いになるかもしれない現実になる。頑張れよ」
「分かってるよ」

 俺の目指す国を作る為にはまずは領土を得ねばならない。
 その領土を得る為には手柄を立てねばならない。

 そしてその手柄を立てるチャンス。
 それが早速転がり込んでくるとは、この時の俺は思いも知らなかった。





「フェリル。支度はできたかしら?」
「……グォン」
「そう、なら良いわ。今日も綺麗ね」
「……グゥ」

 主人を見ながら彼は思う。
 最近の主人は不思議だ。
 今まで他人に興味を持たなかったのに、ここ最近は違う。

 どうも一人の異性に興味を抱いているようだ。
 それも人間という、脆弱で短命な種族の男らしい。

「良い? 彼に会っても噛み付いたり吠えたりしてはダメよ?」
「……グァウ」
「よろしい」

 レイブウルフである彼の言葉は彼女には分からないはず。
 だが彼女は彼の意思を正確に読み取る。

「それじゃ、行きましょうか」
「……グォン」

 スッと立ち上がり主人の横を歩く。

 彼の胸にあるのは主人の横に立ち、寄り添うことのみ。
 それが彼にできる唯一の恩返し。
 故に彼は、彼を見定めるだろう。

 例えそれが主人の命令に背く事になろうと。

 彼の目に映った彼が、主人に相応しくないと判断した時。
 彼は彼を呑み込むだろう。





「ムキー!! なんですの!? わたくしの求婚を断るなんて!! 勇者に会わせすらしない!! なんて無礼千万!! 許せませんわ!!」

 クラング王国から自国へ帰る最中。
 馬車の中で彼女は怒り狂っていた。
 彼女の名はナナイ・リンリ・ハナイ。
 オーブ王国の南西。パルメチズ王国の北西に位置する王国の姫だ。

 彼女が来た理由は簡単な物。
 ハヤテを婿としてハナイ王国に迎え入れるので会わせろ、そして連れて帰らせろというもの。
 当然クラング王国はそれを断り、帰ってもらったのだがナナイは納得いかない。

 国内では引く手数多の王女様。
 見合い話は一日に数十件は来ると自慢していたのに男一人の気も引けず、会う事すら叶わずして追い返されたのだ。

「グヌヌ……許しませんよクラング王国……ウゼル!!」

 怒りのあまり噛み付いていたハンカチがビリリと裂ける。
 と同時に彼女は思いついた。

「そうですわ!! クラング王国を攻め落としましょう!! そうしましょう!!」

 真面目に考えた結果がこれである。

「えぇえぇ!! そうすれば良いわ!! そうすればハヤテは捕虜として私の手元に来ますわ!! そうすれば……フフフッ。そうと決まれば帰り次第お父様に相談ですわ!!」

 普通の父親ならこれを止めるだろう。
 だが悲しい事にハナイ王国の国王は娘を溺愛しており、言われれば何でも買い与える愚か者。
 娘一番!! 
 娘が贅沢をしたいといえば税金を上げ、娘が美味しい物を食べたいと言えば食べさせ、娘が可愛い服を着たいと言えば着させる。

 そんな父親が娘から、会いたい相手がいるが相手国が会わせてくれないと聞かされればどうなるか。
 それをナナイは知っている。

「ウフフフッ……待っていて下さいね!! ハヤテ!!」

 この理由をハヤテが知れば嘆くだろう。
 セーラの一件が落ち着いたらこれかよ、と。

 だが一番嘆く事になるのはハナイ国王だった。
 何故って? 
 今のハヤテには味方がわりといるのだ。

 そして当然、今回の件で彼女が動く事になる。

 結果、ハナイ王国は甚大な被害を被る事になるのだった……
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