最弱勇者とは呼ばせない~ダンジョン最下層に転移させられるも大罪少女と出会い、傲慢の継承者として誰よりも強くなってしまった

柊真菰

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第31話 最後の試練、獄炎の衣に身を包む傲慢の継承者ヒナタ②

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 エンチャント、それは魔力の性質をほかの物質に付与するもので、魔法とまではいかない。

 普通の使い方は武器の威力を上げたりとそこまで使われないが、東條サチが使う刀のエンチャントはほかのエンチャントとはまるで違う。

 東條サチが使う刀にはエンチャントとした魔力性質の耐性を獲得することができる。

 普通なら自身の魔力性質しかエンチャントできないが、特殊な方法で他者の魔力性質をエンチャントし、獄炎の耐性を東條サチは獲得したんだ。

 どうやって、俺の魔力性質をエンチャントさせたかは知らないが、それがなんだ。

 不利になったわけでもなければ、相手の勝ち筋が見えたわけでもない。

 そうただ、相手の弱点が一つなくなっただけだ。

 強者とは力だ。全て、力でねじ伏せればいい。歯向かうものには死を、従わないものにも死を、目障りなものにも死を。

 俺にとって都合の悪いすべてに死を。

「もう、出し惜しみはしねぇ。全力で殺す」

「いいえ、死ぬのはあなたです」

 同時に踏み出した一歩と同時にいびつな金属音を何度も何度もこの空間全体に響き渡らせた。

 お互いに一歩も引かず、武器を振るい、東條サチは今までとは違う攻めた戦い方で勝負に出ていた。

「ちっ、思ったよりしぶといな」

 力は互角、速度はややこちらが有利だ。

 だが、戦いの駆け引きでは東條サチが一枚上手いちまいうわてだ。

 だが、それでも…………。

「俺には罪火の剣があるんだよっ!!燃やし尽くせ、獄炎っ!!」

 罪火の剣から放たれて、獄炎の塊を東條サチはいともたやすく切り裂いた。

「馬鹿がっ!かかったなっ!!」

 切り裂かれた獄炎は時間が止まったかのように停滞し、そのままさらに東條サチへ襲い掛かった。

 獄炎が切り裂かれるのは予想できていた。

 だから、あらかじめ、獄炎には虚数魔法で力の方向を東條サチへと向けさせていた。

 そうすることで、切り裂かれたとしても、その小さな獄炎は東條サチを襲う。

「悪あがきですね」

 四方八方から襲い掛かる獄炎を東條サチは刀を大きく振り切ってかき消した。

「なぁ!?」

 獄炎を一瞬でかき消しただと。

「驚くことじゃない」

「くぅ…………そうだな。お前なら当然か」

 東條サチ、正直なめていた。いや、想定より強い。

 やはり、人間の頃より強くなっているのか。

 時間をかけすぎれば、いつこいつの意識が目を覚ますかわからない。もし、目覚めれば、このチャンスはしばらく訪れないだろう。

 早めに東條サチを殺し、復讐した幸福感で満たし、獄炎の牢獄に永遠に眠ってもらわなくては。

「焦っているのが見え見え。思い通りにいかなくて焦っているんですか?」

「そんなわけねぇだろ」

 仕方がねぇ、できれば使いたくなかったが、魔法を使うしかねぇ。

 今のこの体でどこまで耐えられるかはわからねぇが、この体さえ、手に入れられれば、そのあとのことはその時考えればいい。

「…………何を企んでも無駄。今の君じゃ、私には絶対に勝てない」

「それはこっちのセリフだよ…………」

 俺は、呼吸を整えながら、呟いた。



 東條サチの視界から日向の姿が消えた。

 周りを見渡すが、気配すら感じない、瞬きした瞬間も、油断することなく警戒していたのに。

「終わりだ」

 その声と同時に、後ろから殺気を感じ取る。

 すぐに刀で後ろを切るが、誰もいなかった。

「そうか、お前、魔法が使えないのか」

 姿勢を低くしながら、東條サチを見上げる日向。

 警戒していたのにもかかわらず、東條サチは完全に隙を見せた。

「じゃあなっ!!!」

 隙を突き、俺は罪火の剣を横に振り切った。

 だが、響き渡ったのは聞き覚えのある金属音だった。

「なぁ!?」

 俺の一撃は東條サチを吹き飛ばすも、間一髪で刀で防がれた。

 あの状態から刀で防いだのか、化物が。

「魔法が使えるんですね。正直、今のあなたでは、使えないと思っていました」

「ふん、魔法は使えて当然んだ。だが、どうやら、お前は使えないらしいな」

 その言葉には東條サチは少しだけ眉を細めた。

「だからなんですか?」

「おっとちょっと怒ったか?」

「起こってなんていませんよ。ただ今の体の状態で魔法を使ってよろしかったのですか?」

「何言ってんだ?理解できねぇな」

 その返答に東條サチは首を傾げた。

 だが、俺はそんなことも気にせず、魔法を使用する。

「アクセル」

 また、東條サチの視界から日向が消えた。

 アクセル、長文詠唱破棄のよって瞬時に発動できる超越魔法の一つ。

 魔力量に合わせて、自身を加速させるだけでなく、相手から視認できなくなる。そのかわり、魔力を常に消費するため、魔力量によっては自滅を招くこともある。

 だが、今の俺はスキル傲慢によって、魔力が底上げされ、罪火の剣のステータスも上乗せされている。

 決着がつくころまではつだろう。

「…………ふぅ」

 東條サチは目を閉じながら、刀を構えた。

 またか、居合か…………だが、無意味だ。

 東條サチの後ろに回り込み、獄炎と黒雷、二つの魔力性質が合わさった罪火の剣を握りしめる。

 ここまで1秒も経っていない。東條サチも気づいていない。

 いくら、絶対領域の感知能力が優れていようと感知する速度には必ず、制限があるはずだ。極限まで底上げしたスピードに反応できるわけがない。

 これで、終わりだ、東條サチ。

「これで、俺は自由に…………んっ!?」

 そこで、俺の足が止まった。

 感じる違和感、魔力が切れたわけじゃない、体力の限界が来たわけでもない。

 なら、なぜだ。なんで、俺の右手が上がらない。

 振り切れない、右手が持ち上がらない。罪火の剣を握るだけで限界だ。

 俺は罪火の剣の剣先を地面についた。

「そろそろだと思っていました」

 東條サチは瞬時にこちらに振り向き、目を開けた。

「なに?」

「勇者日向の肉体はすでに限界に近しい状態だった。そんな中、私に立ち向かい、戦っていた。そして、ついに限界に到達した。そう、肉体の限界に…………」

「な、なんだと!?」

 ありえない。スキル傲慢によって、体の再構築はすでに完了している。そう簡単に肉体の限界に達するなどありえない。

 ここまで到着するのに、相当無理をしていたとでもいうのか。

 でも、それならなぜ、この俺がそんなことに気づけなかったんだ。

 脳内が混乱におかされる。あらゆる可能性が駆け巡る中、東條サチは刀を引き抜いた。

「東條免許皆伝・裏燕うらつばめ

 一振りで六つの刃が繰り出され、俺はよけることもできず後方に吹き飛ばされた。

「くぅ…………ありえない、こんな、こんなことがあってたまるか!!」

「咄嗟に左手に武器を持ち替え、防ぎましたか。ですが、一度肉体の限界に達すれば、それは伝播する。君の負けです、傲慢の継承者」

 右手に力を入れることができない。

 まだそれ以外は動くが、いつ使えなくなるかもわからない。

 肉体の限界、魔法を使うことで一気に限界をむかえたのだろう。

 だが、それでもなぜ俺自身が気づけなかったのか理解できない。俺はなに不自由なく、この体を使えていた。

 なぜだ、なぜだ、なぜだ、なぜだっ!!

「傲慢の継承者、あなたは気づいていなかったかもしれませんが、あなたの刃には少なからず、鈍さがありました」

「んっ!?それはどういうことだっ!!」

「今までの戦い。確かに、スピードも力も私を上回りましたが、必ず、攻撃する際、ワンテンポ遅かった。それは、肉体の拒絶反応。まだその肉体を完全に制御できていない証明です」

「ありえないっ!すでに、こいつの魂はどん底の闇沈め…………んっ!?なんだ、急にめまいが…………」

 まさか、意識が目覚め始めているのか!?

 めまいで体がふらつき、罪火の剣を手放し、顔を抑える日向。

「そろそろ目を覚ましたらどうですか、勇者日向っ!!」

「うるさいっ!俺は自由になる。もうあんな空間に閉じ込められるのは…………」

 もがき苦しみ始める日向は、視界がぼやけ始め、ぷつっと何か切れる音が鮮明に聞こえた。
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