魔王の器

本谷紺

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承 1

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 俺を拾った少女の名前はリリと言った。
 歳は14歳。村唯一の宿屋の一人娘だ。宿屋と言っても滅多に客が来るわけではなく、ほとんど空きっぱなしになっている二つの部屋の片方が俺にあてがわれた。
 リリもその両親も大したお人好しで、娘が突然拾ってきた記憶喪失の子供を疑いもせずに受け入れた。

 子供。
 そう、俺は子供になっていた。リリと並んで立てば身長でわずかに負ける。

 一言も口をきかない俺に、リリは名前を付けた。
 グレイシス。
 彼女の好きな神話に出て来る英雄の名前らしい。

 その、神話の話がきっかけになった。
 リリは大昔の物語が好きらしく、俺に教え聞かせるように様々な物語を聞かせた。彼女の口から語られる神々の戦いの物語。創世の伝説。各地の地名。
 それらには聞き覚えがあった。
 俺が生まれ育った場所と共通点がある……とかそういう話じゃない。

 ゲームだ。
 彼女の話に出て来る固有名詞はどれもこれも、俺がプレイしたことのあるゲームに登場したものなのだ。
 まさか、と可能性が脳裏に浮かぶ。
 最初はただの偶然だと思った。しかしリリやその両親、村の人々から話を聞くにつれ、疑惑は半信半疑に、そして確信へと変わっていった。

 俺は、ゲームの中の世界にいるんじゃないか。

 気付いてしまえば、今まで見落としていたこともどんどん見えてくるようになった。俺を取り巻く全てが、初めて見るはずのものたちが、いつか見たグラフィックに重なって見える。家の構造、服装の傾向、そういったもの全てに既視感がある。

 暦から察するに、「今」はゲームの物語が始まるよりも古い時代だ。少なくとも十年、もしくは数十年ほど遡るかもしれない。ゲーム世界は魔王の支配が進み各地で混乱が生じていたが、今のところ聞こえてくるのは平和な話ばかりだった。

 あのゲームの主人公たちはまだ己の使命も知らない頃だろう。
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