魔王の器

本谷紺

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承 5

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 俺の知る「ヤナギ」は、強大な力を持つ魔族でありながら物腰は柔らかく、力押しではなく策略で主人公たちを追い詰めるタイプの敵だった。
 ゲームの中の世界なのだから、プレイ当時の俺が受け取った印象そのままであるのは当然と言えば当然だ。

 素質とやらを見出した俺のことを無理やり攫って行く、なんてこともなく。何事もなかったかのように占いの修行を続けている。村の中を歩いていればちょくちょく姿を見かける。あれだけ怪しげな風貌のわりには問題なく村に溶け込んでいる。俺が視線をやると口元の微笑を返してくる。自ら話しかけてくることはない。
 いったい何を考えているのかは分からないが。

 ――未来は既に決まっていると言った。

 メタな話をすれば、俺もこの世界の未来は把握している。このゲームをプレイしたのは結構前のことだが、大枠くらいは覚えているし、その時そのシーンに出くわせば曖昧になった記憶ももう少しハッキリするはずだ。

 だけどそれは本当に決まったことなのだろうか?

 例えば俺の今後の選択で既定の未来が変わることはある?

 考えても仕方がない。
 「今」はまだ、俺の知る物語は始まっていないのだから。


 まあ、俺が考えようと考えまいと。
 転機というのはひとりでにやって来るものだ。
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