魔王の器

本谷紺

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 さっきの出来事がどうして俺のせいにされるのか、意味が分からない。

「あの炎はあなたが生んだものではないですか」
「俺が自分からやったわけじゃない」

 そうだ、俺はちゃんと断ろうとした。声を出さなくとも意思は伝わっていたはずだ。
 それなのにあいつらが魔術を試させたのだ。

 俺はただ言われた通りの手順で<フラム>と唱えただけ。

 ヤナギの言ったように強大な魔力を宿しているのなら、確かに、呪文ひとつで人間とは桁外れの魔術が発動してもおかしくない。
 だけど俺がそう望んだわけじゃない。
 そう「なった」というだけのこと。

 他人の意思で起こした行動の責任がどうして俺に擦り付けられなければならないのか。

 俺は当たり前のことを答えているのに、何が納得いかないのか、ヤナギはなおも質問を重ねてくる。

「リリさんたちも死んでしまいましたが、どうとも思わないんですか?」

 リリ。
 リリなぁ。

「あいつもめんどくさかったな」

 ため息が出てしまう。

 平凡な田舎娘だった。それでいてちょっといないぐらい図々しいやつだった。
 俺という「謎の記憶喪失患者」の面倒を見ることで満足感を得ているのがありありと分かった。自分では親切なお人好しとでも思っていたんじゃないか? 実際には生きたお人形で遊んでいたようなものだ。そうでなければ神話の英雄の名前なんて付けるか? まともな神経していたらそんなことできないだろう。

 平凡な毎日に退屈している田舎娘にとって俺はさぞかし魅力的なお人形だったことだろう。

 村の他の少年たちと違い、品のない罵声を吐くこともない。他に行くあてもないので逆らいもしない。それでいて、この体は見目もいい。こちらが何も知らないと思って、明らかに不必要に体に触れてくることもあった。性別と年齢が違うだけでやっていることはセクハラ親父と同じだ。
 最後に言っていた占いの話。思い返すだけでもぞっとする。あいつはきっと、ゆくゆくは俺と結婚して子供でも作るつもりだったんじゃないか。
 冗談じゃない。
 せめて顔がかわいければともかく、この田舎ではマシな方、程度の凡庸な顔。体つき。
 俺に何の得もない。

 この世界の様子を知ったらさっさと出て行くつもりだった。
 それが思ったより早まっただけのこと。

 最悪なことに、最後の最後に、焼け死ぬところだなんて気持ちの悪いものまで見せられる羽目になった。思い出すと気分が悪くなる。

 例えば、リリがもっと美しい少女で、打算のない清らかな心をしていて、もっときれいな家やベッドを提供してくれて、土臭くない食事をくれて、そんなまともな生活だったなら俺ももっと大事にできただろうに。俺の力で傷付けないように気を付けたし、もしかしたら恋だってしたかもしれない。そうならよかったのに。

 異世界に来てまでこんな目に合わなきゃいけないなんて、俺はなんてついていないんだろう。

 誰にも言えずに耐えていた分の愚痴を零していると、ヤナギが肩を震わせ出した。
 ほどなく笑い声が上がる。

 何がそんなに可笑しいのだろう。ヤナギはしばらく大笑いして、それから朗らかな声で言った。

「ああ、やはりあなたこそが、魔王の器を持つお方だ!」

 そうだろうか。
 まあ、ヤナギがそう言うならそうなのだろうけれど。俺には未だにピンとこない。この体は豊富な魔力を持っていても、俺の精神は普通の人間なのだから。

 とはいえ魔力の程度についてはこれで証明された。うまく使えばもっといい暮らしができるかもしれない。
 貧乏くさい生活にはうんざりしていたところだからちょうどいい。

「今日はまともなベッドで寝たいな」
「それでは他の街へ行きましょうか、グレイシス様」
「その名前で呼ぶな。俺にはちゃんと自分の名前がある」

 名字は……この世界の人間にはなじまない音かもしれないので下の名だけ。

「俺は祐仁だ」
「ユージン様。良いお名前ですね」
「グレイシスよりはな」

 ああ、そういえば。
 あのゲームの魔王は俺と同じ名前だったな。プレイしていた時はあまり気にしなかったけど。
 これが運命ということだろうか。不思議なものだ。

 俺たちは再度空を飛んで次の街へと向かう。
 まだこの世界について俺が知らないことは多い。

 いつか来る未来が決まっているなら、俺の前には主人公たちが現れるのだろうか?
 そうして打ち倒される?

 それも先の話だ。
 取り急ぎ今の俺に必要なのは、うまい飯とあたたかなベッド。

 あとのことはまあ、日常で起きるついでの出来事。
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