魔王の器

本谷紺

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転 2

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 悲鳴を上げたのはユースではなかった。彼自身は苦しむ暇すらなかっただろう。灼熱に侵された彼の体は倒れ伏す前に炭化しばらばらに解ける。

 絶叫。悪ガキたちが、衆人たちが。炎に吞まれていく。

 紙の上から生じた炎は渦を巻き、瞬く間に拡散した。
 村人の頭を焼き、そのまま建物へとかいなを伸ばし、木製の家屋はあっという間に炎に包まれる。

 肌を舐める熱気に顔を背けると、背後に立っていたリリと目が合った。
 その顔に恐怖を浮かべていた――気がする。一瞬のうちに彼女も丸焦げになってしまったので確かなことは分からない。

 悲鳴。悲鳴。怒号。逃げ足よりも炎の勢いの方が早い。

 全てのいきものを呑み込んでいく。
 全てのものを呑み込んでいく。
 俺の目に映るもの全てが燃えていく。俺の生んだたったひとつの魔術によって。

 これが、俺の持つ魔力。
 自覚のなかったそれを初めて目の当たりにした。

「グレイシス様」

 いつの間にか、すぐそばにヤナギが立っていた。
 いつものフードを取り払い、初めてその顔を見せている。額に開いたもうひとつの目。人間にはありえないそれは確かに俺がゲームで見たグラフィックと同じものだ。

「行きましょう」
「どこへ?」
「この村はもう焼けるだけでしょうから。とりあえず離れたところへ」

 さあ、と差し出された手を取ると、体が浮遊感に包まれる。
 俺たちは夕刻の空へと舞い上がった。空中から見下ろせば、眼下に動くものはもはや炎の他に何もなかった。


 村から離れた高台の上にヤナギと共に降り立つ。
 あの日、目が覚めた時には村の中だったから、こうして外側から村を見るのは初めてだ。
 広大な森の中にぽつんと拓けた一角。

 そこが今は燃えている。

 すっかり日は落ちた。
 夜は暗い。当たり前のことを、こんな時にはまざまざと思い知らされる。電気のない世界では夜は地も空もとても暗くて、真っ黒い景色の中に赤々とした炎だけが浮き上がるようだ。

 炎。

 かつての世界にいた頃、火事というものを直接見たことがなかった。画面越しではない。写真でもない。
 建物が、ひとつの村が焼けるというのは、あんな風に見えるものなのか。

「――生存者は私たちだけです」

 遠く離れた炎を眺める俺に、ヤナギが言った。

「どのようなご気分ですか?」
「どのようなって?」
「あなたのせいで滅びる村を見るのは」

 夜は暗い。炎に包まれた村は遠く、俺たちを照らすことはない。ただわずかな星明かりだけが落ちる中、その口元は、俺を試すように微笑んで見えた。

 ――いったい何を言っているんだろう。

「別に、俺のせいじゃないだろ」
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