殖罪

本谷紺

文字の大きさ
5 / 10
赤羽美也子

しおりを挟む
「じゃあ、何か? この妙な状況は、ユーレイのせいだってのか?」
「それはまだ分かりません。霊的な存在は確かに感じますが、とても気配が弱い。今のところは対話できそうにありません」
「はぁ。あー、クソ。だったらあれか、あの妙な夢もユーレイの仕業なのかもな」
 
 夢?

 美也子は思わず顔を上げたが、反応したのは彼女だけではなかった。全員がその一言に引き付けられたかのように硯を見ている。
 そうまで注目されるとは思わなかったのか、当の硯は面食らった様子で体を引く。

「な、なんだよ」
「その夢ってどんなの?」
「どんなって……なんか、妙な夢だよ。暗い水の中みたいなところで、子供の声が聞こえて……暗いとか寒いとか。ここで目が覚める前、そんな夢を見てた」

 硯の言葉で断片的に語られるその内容は、美也子が見たものと完全に一致していた。
 それどころか。

「私も。全く同じ夢を見てた」

 照永も、岸見も、そしてノアも。全員が同じ夢を見たという。
 夢として考えれば、不気味ではあるがさほど特殊なものでもない。人間は時として覚醒時には想像もできないような悍ましい悪夢を見ることがある。
 しかし、その場にいる全員が同じ夢を見たとなれば話は変わって来る。
 明らかに異常だ。

「ただの夢じゃなかった、ってこと……?」

 照永の声は緊張に強張っている。

「ただの夢じゃなければ何なんだよ」
「幽霊がオレたちに同じ夢を見せた、とか」
「はは、」

 硯は軽く笑い飛ばそうとしたようだが、空回り感が否めない。

「……実は、あの夢について、ひとつ心当たりがあります」

 ノアの言葉に全員が身を乗り出す。

「心当たりって?」
「詳しい資料は僕の荷物に入っているはずです。一度確認させてください」
「何だよ、勿体つけやがって」

 肩透かしをくらって不満も出たが、各々の手荷物を探すという流れには誰も反対がなかった。
 ならば次はどのように探すかだ。
 それぞれに意見を出し、今後のことを話し合っていく。この異常な状況から脱出するためには手を取り合うことが必要だ。例え内心では何を思っていたとしても。
 だからこそ、美也子は緊張を表情に滲ませながらも、せいいっぱい積極的な姿勢を見せた。
 協力し合うために、疑われてはいけない。
 暴かれてはいけない。


 自分が本物の赤羽美也子でないことは、決して知られてはいけないのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

異世界子供ヤクザ【ダラムルバクト】

忍絵 奉公
ファンタジー
孤児院からスラムで育ったバクト。異空間収納と鑑定眼のダブルギフト持ちだった。王都西地区20番街では8割を縄張りとする先代のじいさんに拾われる。しかしその爺さんが死んだときに幹部同士のいざこざが起こり、組は解散。どさくさにまぎれてバクトが5・6番街の守役となった。物語はそこから始まる。7・8番街を収めるダモンとの争い。また後ろ盾になろうと搾取しようとする侯爵ポンポチーコ。バクトは彼らを越えて、どんどん規格外に大きくなっていく。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...