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14・エピローグ
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「……帰るのか」
「帰るって言っても、家はないけどね」
後処理だけはしたものの、恭一はそのまま呑気に眠りこけてしまった。着替えた天花が一階へ降りていくと、不機嫌そうな顔をした慧に出迎えられた。
「私が何をしたか、知ってるんでしょ?」
「……それでも父さんと母さんは泊めるって決めたんだ」
「二人にはちゃんとお礼言わないと。慧にも」
「僕は何もしてない」
「お兄ちゃんに私がいる場所教えたでしょ」
小さな島だから、隈無く探せば見つけられただろう。けれど、慧が恭一に天花の居場所を教えた意味は、それだけではない。
「……ごめんね。慧の気持ちには応えられないけど」
「別にいい。僕は……天花が死なないでいてくれただけで」
「そんなに心配してた?」
「当たり前だろ。目を離したら何するかわかんないから……なるべく目を離さないようにしてた」
「そっか。――でも、もう大丈夫だよ」
「だろうな。それは見てたらわかる」
天花は戸棚からコーヒー豆を取り出した。一階の戸棚にあるものは自由に使っていいと言われている。けれど天花がここに来てからコーヒーを飲むことはなかった。
「……コーヒー飲めるのか?」
「砂糖入れればね。お兄ちゃんは飲めるから」
起きたらコーヒーを飲んで、それからこの島を出ようと決めていた。これ以上迷惑はかけられない。天花は密かに心に決めていたことがあった。
「――自首するつもりなのか、もしかして」
「うん。もしかしたら一生出られないかもしれないけど……でも、罪はちゃんと償いたい」
殺したことに後悔はない。けれど罪を隠して逃げ続けるよりも、きちんと償うことに決めた。
「お兄ちゃんはなんて言うかわからないけど、もう私は大丈夫だと思うから」
「そうか」
「……ありがとね、慧」
慧は首を横に振りながら、そっと部屋を出ていった。コーヒーメーカーのスイッチを入れると、機械がけたたましい音を立て始める。暫くするとコーヒーの香りが漂い始めた。
*
「これから、どうなるんだろう」
島から出る船の甲板で、天花は呟いた。自首すると決めたものの、この後自分がどれくらい長い間罪を償って生きなければならないのかはわからない。沢山の罪を犯した。そんな人間が世間から許されるとも思ってはいない。人生の多くの時間を棒に振ることになるかもしれない。
「……俺も一緒に行くから」
「お兄ちゃんは私に付き合う必要はないんだよ」
「俺も人殺しなのは事実だろ」
「うん……でも、私のためだったのに」
俯く天花の頭の上に、恭一の大きな手が乗せられる。
「天花のためにやったことについては後悔はない。でも、人を殺すのは……後味が悪いな」
「多分、すごく長い間戻って来れなくなると思うけど……待っててくれる?」
待っていてくれると思えれば、恐れることなく進める気がしていた。それが何年先のことになっても、恭一なら、傍にいてくれるという約束を守ってくれるような気がしていた。
「ずっと待ってるから」
恭一の肩に体を預け、天花は目の前の海を見つめた。そしてポケットから小さな瓶を取り出す。瓶の中には黒い種が沢山詰まっていた。
「天花、それ――」
「うん。でももう必要ないから」
天花はそれを瓶ごと海に投げ捨てる。長い間天花を縛り続けていた赤い実は、一瞬波間を漂ったあと、静かに海の中へ消えていった。
「帰るって言っても、家はないけどね」
後処理だけはしたものの、恭一はそのまま呑気に眠りこけてしまった。着替えた天花が一階へ降りていくと、不機嫌そうな顔をした慧に出迎えられた。
「私が何をしたか、知ってるんでしょ?」
「……それでも父さんと母さんは泊めるって決めたんだ」
「二人にはちゃんとお礼言わないと。慧にも」
「僕は何もしてない」
「お兄ちゃんに私がいる場所教えたでしょ」
小さな島だから、隈無く探せば見つけられただろう。けれど、慧が恭一に天花の居場所を教えた意味は、それだけではない。
「……ごめんね。慧の気持ちには応えられないけど」
「別にいい。僕は……天花が死なないでいてくれただけで」
「そんなに心配してた?」
「当たり前だろ。目を離したら何するかわかんないから……なるべく目を離さないようにしてた」
「そっか。――でも、もう大丈夫だよ」
「だろうな。それは見てたらわかる」
天花は戸棚からコーヒー豆を取り出した。一階の戸棚にあるものは自由に使っていいと言われている。けれど天花がここに来てからコーヒーを飲むことはなかった。
「……コーヒー飲めるのか?」
「砂糖入れればね。お兄ちゃんは飲めるから」
起きたらコーヒーを飲んで、それからこの島を出ようと決めていた。これ以上迷惑はかけられない。天花は密かに心に決めていたことがあった。
「――自首するつもりなのか、もしかして」
「うん。もしかしたら一生出られないかもしれないけど……でも、罪はちゃんと償いたい」
殺したことに後悔はない。けれど罪を隠して逃げ続けるよりも、きちんと償うことに決めた。
「お兄ちゃんはなんて言うかわからないけど、もう私は大丈夫だと思うから」
「そうか」
「……ありがとね、慧」
慧は首を横に振りながら、そっと部屋を出ていった。コーヒーメーカーのスイッチを入れると、機械がけたたましい音を立て始める。暫くするとコーヒーの香りが漂い始めた。
*
「これから、どうなるんだろう」
島から出る船の甲板で、天花は呟いた。自首すると決めたものの、この後自分がどれくらい長い間罪を償って生きなければならないのかはわからない。沢山の罪を犯した。そんな人間が世間から許されるとも思ってはいない。人生の多くの時間を棒に振ることになるかもしれない。
「……俺も一緒に行くから」
「お兄ちゃんは私に付き合う必要はないんだよ」
「俺も人殺しなのは事実だろ」
「うん……でも、私のためだったのに」
俯く天花の頭の上に、恭一の大きな手が乗せられる。
「天花のためにやったことについては後悔はない。でも、人を殺すのは……後味が悪いな」
「多分、すごく長い間戻って来れなくなると思うけど……待っててくれる?」
待っていてくれると思えれば、恐れることなく進める気がしていた。それが何年先のことになっても、恭一なら、傍にいてくれるという約束を守ってくれるような気がしていた。
「ずっと待ってるから」
恭一の肩に体を預け、天花は目の前の海を見つめた。そしてポケットから小さな瓶を取り出す。瓶の中には黒い種が沢山詰まっていた。
「天花、それ――」
「うん。でももう必要ないから」
天花はそれを瓶ごと海に投げ捨てる。長い間天花を縛り続けていた赤い実は、一瞬波間を漂ったあと、静かに海の中へ消えていった。
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