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三兄妹と悪魔・前編
パトロール・2
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榛斗の電話はまだ終わらないらしい。紅羽はそちらを見ながらも先程の男たちに対する疑問を口にした。
「それはそれとして、さっきの奴ら変だったよね?」
「最初人間に化けて悪さをする奴らはそこそこいるんだけどね。でも正体を出してからの行動を見ると、そういうものとは違う気がするね……あそこまでまともな思考ができない状態なのに人に化けることなんてできないはずだ」
人の世界に溶け込んで生きる怪異の多くは、人間と同等の思考能力を持つ。さっきの男たちも女をナンパする程度の思考力は持っていたはずなのだ。
「うーん……誰かに操られていたとか?」
「それも考えられるね。ナンパの方が操られた結果なのか、その後の方が操られた結果なのかはわからないけど」
しかし、操っていた者がいるとして、誰が、なんのためにやっているのか。もし民警をナンパしなければナンパは成功して、誰かが襲われてしまったかもしれない。普通に捕食のための行動だったのか。しかしそれにしては疑問点が残る。
「あと、あいつら私が吸血鬼だって気付かなかったのかな」
「確かに」
紅羽はカラーコンタクトなどで目の色を変えてはいないので、その目は吸血鬼であることを示す赤色だ。ただ虹彩を赤くするだけなら、それこそカラーコンタクトを使えば人間にもできる。そういうお洒落をしている人間だと認識された可能性はある。紅羽は一般的には吸血鬼の弱点とされる十字架のチョーカーを身につけているのだ。
しかしそれでも隠しきれない気配がある。人間ならば気付かないかもしれないが、怪異の類であれば気付くはずだ。
「吸血鬼って結構弱点が多いとは言われてるけど、それを補えるほど強くもあるんだよね……さすがに自分より強い奴を狙うなんて、通り魔でもやらないと思うなぁ」
「だよね?」
紅羽は自分が強いということは全く疑っていないらしい。碧都は微笑んだ。
「何にしても、その手の調査は榛兄が一番得意だと思うよ」
「それもそうか」
電話を終えたらしい榛斗が碧都たちのところに戻ってくる。榛斗はどことなく疲れたような顔をしていた。
「最近この手のやつ増えてるんだってさ……。人をナンパしてどっかに連れ込んで襲うやつ」
「人を、ってことはもしかして男も襲われてるの?」
「そうみたい」
紅羽の言葉に榛斗が頷く。
「化けるのが得意な怪異なのかな。でもどう考えても低級の怪異だったんだよな」
碧都は首を傾げる。碧都は正体がわかってからの振る舞いよりも、その前の行動に違和感を覚えていた。あんな行動ができるほどの怪異ではない。人間に種族名もつけられていないような存在だ。彼らに誰かが入れ知恵をしたのだろうか。だとしても本来化けることなどできない怪異にその力を持たせることなど、かなり上位の魔物でも難しいはずだ。榛斗が碧都の疑問を受けて答える。
「少しだけ残ってた痕跡を調べてみたけど、何らかの強い力がかかっていたということしかわからなかったよ。あんな芸当ができるのなんて限られてくるけどね」
少なくとも吸血鬼にはできない。人間やダンピールももちろん無理だ。それ以上となると悪魔や神、そして天使などになる。
「……悪魔の可能性が高いか」
碧都の言葉に榛斗が頷く。天使は基本的に人を襲うようなことはない。神には色々あるが、怪異を操って何かをするよりは自分でやってしまった方が手っ取り早いので、そのような行動に出ることはない。そうすると消去法で悪魔の可能性が高いということになる。
「悪魔……か」
紅羽が呟く。その呟きにどんな意味が込められているのか、碧都も榛斗もよくわかっていた。
今でも鮮明に思い出される。夥しい量の血で汚れた祭壇。折り重なるように倒れた人間たち。それは三人に共通する、忘れられない記憶だった。
「悪魔が絡んでたら、私たちに勝ち目は」
「仮に本当に悪魔が絡んでいるなら、大規模な作戦になるだろうね。こっちの数が増えればあるいは……」
それでも太刀打ちできるかどうかわからない相手だ。紅羽が唇を噛み締める。しかし全く勝ち目がないわけでもない。少なくとも紅羽は一度は悪魔と対峙し、善戦したのだから。
碧都は紅羽の頭をぽんぽんと叩きながら声をかける。
「とりあえず、あとでハルコさんのところに話を聞きに行こう」
「……うん」
「大丈夫。もし本当に悪魔だとしても、俺たちはきっとあのときよりも上手くやれるから」
その言葉が慰めにしかならないことも碧都はわかっていた。紅羽は二度、大切なものを全て失う経験をした。そんな彼女にかけられる言葉はそれほど多くはなかった。
「それはそれとして、さっきの奴ら変だったよね?」
「最初人間に化けて悪さをする奴らはそこそこいるんだけどね。でも正体を出してからの行動を見ると、そういうものとは違う気がするね……あそこまでまともな思考ができない状態なのに人に化けることなんてできないはずだ」
人の世界に溶け込んで生きる怪異の多くは、人間と同等の思考能力を持つ。さっきの男たちも女をナンパする程度の思考力は持っていたはずなのだ。
「うーん……誰かに操られていたとか?」
「それも考えられるね。ナンパの方が操られた結果なのか、その後の方が操られた結果なのかはわからないけど」
しかし、操っていた者がいるとして、誰が、なんのためにやっているのか。もし民警をナンパしなければナンパは成功して、誰かが襲われてしまったかもしれない。普通に捕食のための行動だったのか。しかしそれにしては疑問点が残る。
「あと、あいつら私が吸血鬼だって気付かなかったのかな」
「確かに」
紅羽はカラーコンタクトなどで目の色を変えてはいないので、その目は吸血鬼であることを示す赤色だ。ただ虹彩を赤くするだけなら、それこそカラーコンタクトを使えば人間にもできる。そういうお洒落をしている人間だと認識された可能性はある。紅羽は一般的には吸血鬼の弱点とされる十字架のチョーカーを身につけているのだ。
しかしそれでも隠しきれない気配がある。人間ならば気付かないかもしれないが、怪異の類であれば気付くはずだ。
「吸血鬼って結構弱点が多いとは言われてるけど、それを補えるほど強くもあるんだよね……さすがに自分より強い奴を狙うなんて、通り魔でもやらないと思うなぁ」
「だよね?」
紅羽は自分が強いということは全く疑っていないらしい。碧都は微笑んだ。
「何にしても、その手の調査は榛兄が一番得意だと思うよ」
「それもそうか」
電話を終えたらしい榛斗が碧都たちのところに戻ってくる。榛斗はどことなく疲れたような顔をしていた。
「最近この手のやつ増えてるんだってさ……。人をナンパしてどっかに連れ込んで襲うやつ」
「人を、ってことはもしかして男も襲われてるの?」
「そうみたい」
紅羽の言葉に榛斗が頷く。
「化けるのが得意な怪異なのかな。でもどう考えても低級の怪異だったんだよな」
碧都は首を傾げる。碧都は正体がわかってからの振る舞いよりも、その前の行動に違和感を覚えていた。あんな行動ができるほどの怪異ではない。人間に種族名もつけられていないような存在だ。彼らに誰かが入れ知恵をしたのだろうか。だとしても本来化けることなどできない怪異にその力を持たせることなど、かなり上位の魔物でも難しいはずだ。榛斗が碧都の疑問を受けて答える。
「少しだけ残ってた痕跡を調べてみたけど、何らかの強い力がかかっていたということしかわからなかったよ。あんな芸当ができるのなんて限られてくるけどね」
少なくとも吸血鬼にはできない。人間やダンピールももちろん無理だ。それ以上となると悪魔や神、そして天使などになる。
「……悪魔の可能性が高いか」
碧都の言葉に榛斗が頷く。天使は基本的に人を襲うようなことはない。神には色々あるが、怪異を操って何かをするよりは自分でやってしまった方が手っ取り早いので、そのような行動に出ることはない。そうすると消去法で悪魔の可能性が高いということになる。
「悪魔……か」
紅羽が呟く。その呟きにどんな意味が込められているのか、碧都も榛斗もよくわかっていた。
今でも鮮明に思い出される。夥しい量の血で汚れた祭壇。折り重なるように倒れた人間たち。それは三人に共通する、忘れられない記憶だった。
「悪魔が絡んでたら、私たちに勝ち目は」
「仮に本当に悪魔が絡んでいるなら、大規模な作戦になるだろうね。こっちの数が増えればあるいは……」
それでも太刀打ちできるかどうかわからない相手だ。紅羽が唇を噛み締める。しかし全く勝ち目がないわけでもない。少なくとも紅羽は一度は悪魔と対峙し、善戦したのだから。
碧都は紅羽の頭をぽんぽんと叩きながら声をかける。
「とりあえず、あとでハルコさんのところに話を聞きに行こう」
「……うん」
「大丈夫。もし本当に悪魔だとしても、俺たちはきっとあのときよりも上手くやれるから」
その言葉が慰めにしかならないことも碧都はわかっていた。紅羽は二度、大切なものを全て失う経験をした。そんな彼女にかけられる言葉はそれほど多くはなかった。
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