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当主
第一話
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木曽川は、愛知県と岐阜県、三重県の県境に位置している。延長229km、伊勢湾に繋がっている。
16世紀後半には尾張(愛知県北部)織田家と美濃斎藤家が木曽川を隔てて交戦を多々繰り返していた。
さて、尾張の国は八郡からなる。
上の郡四郡は、守護代織田信安が諸侍を味方にして支配しており、岩倉という所に居城を構えていた。あと半国、下の四郡は、守護代織田達勝の支配下であり、上の郡とは川を隔てて、清洲城の城に尾張の国の守護斯波義統を住まわせ、達勝も同じ城内に住んでおり、守護の世話をしていた。
織田達勝の家中に、三人の奉行が存在している。織田因幡守・織田藤左衛門・織田信秀(信長の父)、この三人が万事を処理する奉行である。
信秀は、尾張の国境に近い勝幡という所に居城を構えている。信秀の家中には弟たち信康・信光・信実・信次という身内がいる。信秀はとりわけ優れた人物であり、諸家中の有能な人々を親友とし、味方にしている。
信秀の嫡男織田吉法師(後の信長)に那古野城を譲り、信秀は熱田の近くに古渡という所に新しい城を作って住む。
「美濃の斎藤道三の首を引っこ抜いてやりたいのは山々だが、近頃の今川の情勢も気になる。」
不安を交えた問いかけに対し信実は
「今川は三河の松平に助力を求め、一気に尾張を攻めるかと。」
「そうなれば、織田は一網打尽だな。」
信秀は顎に生えてる髭を撫でながら言った。
天文十一年八月上旬、駿河(静岡県)の今川義元の軍勢が三河の正田原へ攻め寄せ、陣を七段に展開した。
「やはり来おったか、義元。」
信秀は予言したように言った。
三河の安祥城を織田信秀が守っている。
「兄上、今川勢が小豆坂を通るのは必定、ならば今川の柔らかい横っ腹を突き、総崩れさせてご覧に入れます。」
「よし、信康!信実と信光を連れて共に小豆坂にて義元の首を取る!」
織田勢は小豆坂へ討って出た。
「悪運の臭いが致しまする、殿。」
「お主が言うのならよほどの事だな雪斎。」
駿河・遠江の領主である今川義元は、太原雪斎という軍師を重用している。
「恐らく、敵方は我らより兵数が劣っているため、奇襲をかけるに違いありませぬ。しかも、この先の小豆坂は狭道故、敵からしてみれば、奇襲の好機に相成りまする。」
雪斎は冷静沈着に述べ
「ならば、雪斎は如何にして迎え撃つ。」
「我に一策あり。」
雪斎は、自信満々に言った。
「殿、斥候の情報では今川軍はこの坂の上におるとの由。」
小豆坂近くの村人が信秀に進言する。
「よし、かかれ!」
信秀が軍配を片手に小豆坂目掛けて馬を進める。後に続く足軽兵や騎馬隊が怒涛の快進撃を繰り広げようとしていた。
すると、小豆坂方面に一騎の黒衣を着た人影が見える。雪斎だ。
「すわ、かかれ。敵を馳走せよ!」
今川軍が信秀目掛けて突っ込む。奇襲戦法を逆手に取られた織田軍は、先鋒の織田信広が撤退したのを機に総崩れしたのである。
この頃から、正田原辺りには度々今川の軍勢が侵入するようになる。
16世紀後半には尾張(愛知県北部)織田家と美濃斎藤家が木曽川を隔てて交戦を多々繰り返していた。
さて、尾張の国は八郡からなる。
上の郡四郡は、守護代織田信安が諸侍を味方にして支配しており、岩倉という所に居城を構えていた。あと半国、下の四郡は、守護代織田達勝の支配下であり、上の郡とは川を隔てて、清洲城の城に尾張の国の守護斯波義統を住まわせ、達勝も同じ城内に住んでおり、守護の世話をしていた。
織田達勝の家中に、三人の奉行が存在している。織田因幡守・織田藤左衛門・織田信秀(信長の父)、この三人が万事を処理する奉行である。
信秀は、尾張の国境に近い勝幡という所に居城を構えている。信秀の家中には弟たち信康・信光・信実・信次という身内がいる。信秀はとりわけ優れた人物であり、諸家中の有能な人々を親友とし、味方にしている。
信秀の嫡男織田吉法師(後の信長)に那古野城を譲り、信秀は熱田の近くに古渡という所に新しい城を作って住む。
「美濃の斎藤道三の首を引っこ抜いてやりたいのは山々だが、近頃の今川の情勢も気になる。」
不安を交えた問いかけに対し信実は
「今川は三河の松平に助力を求め、一気に尾張を攻めるかと。」
「そうなれば、織田は一網打尽だな。」
信秀は顎に生えてる髭を撫でながら言った。
天文十一年八月上旬、駿河(静岡県)の今川義元の軍勢が三河の正田原へ攻め寄せ、陣を七段に展開した。
「やはり来おったか、義元。」
信秀は予言したように言った。
三河の安祥城を織田信秀が守っている。
「兄上、今川勢が小豆坂を通るのは必定、ならば今川の柔らかい横っ腹を突き、総崩れさせてご覧に入れます。」
「よし、信康!信実と信光を連れて共に小豆坂にて義元の首を取る!」
織田勢は小豆坂へ討って出た。
「悪運の臭いが致しまする、殿。」
「お主が言うのならよほどの事だな雪斎。」
駿河・遠江の領主である今川義元は、太原雪斎という軍師を重用している。
「恐らく、敵方は我らより兵数が劣っているため、奇襲をかけるに違いありませぬ。しかも、この先の小豆坂は狭道故、敵からしてみれば、奇襲の好機に相成りまする。」
雪斎は冷静沈着に述べ
「ならば、雪斎は如何にして迎え撃つ。」
「我に一策あり。」
雪斎は、自信満々に言った。
「殿、斥候の情報では今川軍はこの坂の上におるとの由。」
小豆坂近くの村人が信秀に進言する。
「よし、かかれ!」
信秀が軍配を片手に小豆坂目掛けて馬を進める。後に続く足軽兵や騎馬隊が怒涛の快進撃を繰り広げようとしていた。
すると、小豆坂方面に一騎の黒衣を着た人影が見える。雪斎だ。
「すわ、かかれ。敵を馳走せよ!」
今川軍が信秀目掛けて突っ込む。奇襲戦法を逆手に取られた織田軍は、先鋒の織田信広が撤退したのを機に総崩れしたのである。
この頃から、正田原辺りには度々今川の軍勢が侵入するようになる。
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