織田鏡

石川 武義

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当主

第五話

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「信行様、今こそ緒田家のうつけ信長の首を獲る時にございまする。」
 林秀貞と柴田勝家は信行に進言した。
「天は…織田家当主はこの信行と決めているらしいの。…この信行、織田家当主の座に就く!」

 信行は、信長の直轄領である篠木三郷を力ずくで奪い取った。
 信長は 弘治二年八月二十二日、於多井川を渡った名塚に砦を築かせ  、佐久間信盛を守備役につかせる。
 二十三日、柴田勝家は雨の中千人ばかりの兵を、林美作守は手勢を七百人率いて出陣する。
 翌二十四日、信長も清洲城から軍勢を出し、川の向こうにいる敵軍と睨み合っていた。
「お味方、敵より兵数を下回っておりまする。」
 伝令が信長に告げる。
「よいか、戦は兵数が全てではない!智略を尽くしてこそ勝利はみえる!」
 信長は家臣達を鼓舞した。
 正午前後、ついに両軍が激突する。
 信長勢は柴田勢に向かって過半の兵を攻め掛けさせる。散々にもみ合った末に山田治部右衛門などが討ち死にするなど、信長勢の侍大将が失われたが、勝家も手傷を負ったため後退する。
「殿!この可成が敵を蹴散らしてご覧に入れましょう。」
 森可成が織田信房と共に柴田勢の土田の大原を突き伏せ、もみ合って首を取った所へ、双方から掛かり合い戦う。この行動により、信長勢は勝利を収めた。

 その後、信行は信長に降伏。九月一日、柴田勝家・林秀貞が信長に謁見する。
「信長様、先の戦ではこの柴田勝家は、信長様に弓を引きました。どうぞ、この勝家を御手打ちなさいませ!」
 勝家は覚悟し、信長に頭を下げた。
「権六(勝家)、儂は天下取りに、汝ら二人が必要である。これからは、我が天下取りに貢献して欲しい。」
 信長は、二人に頼み始めた。
「「有り難き幸せ。」」と二人は答える。
「だがな権六。我が覇道に信行はいらぬ。」
 二人は顔を上げ、驚いた顔をしながら信長を見つめる。
「分かってくれ…儂だって弟を殺しとうはない。」
 信長は涙ぐみながら天井を見つめ言った。
 二人は何も言わず、静かに部屋から出て行く。

 後日、信長の元に信行が参上した。
「兄上、先の非礼誠に御容赦を。この信行。今後一切、兄上にご迷惑をかけぬよう、寺へ出家致します。」
「信行、儂の顔をしかと見よ。」
 信行は、信長を見上げたその時、両方の襖の中から、勝家と池田恒興が現れ、信行を取り押さえた。
「兄上!これは、どういう事にございまする!」
 信長は涙を流しながら。
「信行…儂の顔を…よく見ろ!儂の顔を決して忘れるのではないぞ!」
 信長は上座の奥にある太刀を抜き、信行目掛けて構える。
「ウワァー!」
 信長は叫びながら太刀を振り下ろす。
 信長は顔に返り血を浴びた。世界が止まった。
「殿、これでよろしいので。」
 恒興は信長に問いかける。
「あぁ、これでいい…頼むから一人にしてくれないか。」
 信長は二人に信行の遺体を処理し、信長の元から去る。
「すまぬ…信行。我が天下取りのために死んでくれ。」
 信長は野望のために弟を殺したのだ。

「元康、近年に京へ上洛する事と相成った。その際、お主には先鋒を命じるゆえ、よく心得ておけ。」
「はっ!」
 松平元康、後の徳川家康である。
 (遂に、時は来た。)
 今川義元は、着々と上洛軍の編成を完了させているのである。
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