織田鏡

石川 武義

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当主

第四話

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 信秀の葬儀を荒らした信長は、三郎信長から上総介信長と自分から名乗り始める。
 いつもながらの悪郎っぷりを見せている信長に一つの事件が起きた。
「信長様!平手政秀殿がご切腹致しました!」
 信長は父信秀を失った時より悲しみが襲う。風のように城下から政秀の屋敷に駆け込むと、腹から血を出している政秀が床に倒れていた。
 政秀の手に握っている手紙を信長は手を取り、読み始める。
(この爺、若様の悪郎っぷりを見ていると、信長公を守り立ててきた甲斐がありませぬ。故にこの政秀、死を持って信長公を諌め奉ります。)
「政秀!すまぬ。この信長、政秀に儂が天下を取る姿を見せてやりたかった。必ずや天下泰平を築いてみせるぞ!政秀!」
 信長は庭に出て、涙を目に溜めながら空に向かって叫んだ。

 天文二十一年四月、信長が十九歳になった年。
 信秀が生前味方していた鳴海城城主山口教継ら息子教吉が信長に対し反旗を翻した。
 山口親子は今川義元と裏で手引きし、駿河勢を尾張の領内に侵入させる。
 対する信長は軍勢八百で出陣、中根村を駆け抜け、小鳴海へ進み、三の山へ登った。
 敵教吉は赤塚へ攻め寄せる姿を確認した信長は、奇襲をかけるため赤塚に馬を進め、距離五、六間に迫った瞬間、弓兵に一斉射撃を命じ敵の士気を大いにかき乱す。
 戦は大いに入り乱れ、結果、信長方が勝利した。

 同年八月、清洲城の坂井大膳・坂井甚介・河尻与一・織田三位が謀議し、松葉城を攻め、城主織田信氏から人質をとることに成功。その後、織田達順の居城を攻め取る。
 信長は秋に出陣し、織田信光を援軍として迎え、海津口を攻めた。
 坂井甚介を討ち取り、大勝利を収める。
 この戦により、深田・松葉を奪い返し、清須勢を封じ込める。

天文二十二年四月、斎藤道三から「富田の正徳寺にて貴殿と対面致したい。」という書状が届いた。
 信長はすぐに支度を始める。
「帰蝶、近々そちの親父殿に会う。」
「それはようございます。」
 帰蝶は微笑みながら信長を見た。
「あの蝮の事だ。単なるお茶会では無いのは確かだな。」
 信長は外を眺めながら、閃いたような素振りを見せ。
「蝮を驚かせる一計が見えた!」と叫び、部屋から飛び出して行った。

「信長はうつけと聞いていたがどれほどの者か、この儂が見定めてやる。」
 道三は正徳寺に向かう信長一行を小屋に隠れながら覗き見した。
 やがて信長の行列がやって来る。
「ものすごい数の鉄砲隊だな。」
 道三は信長の軍勢の編成方式に驚いたのだが。
「しかし、信長は噂通りのうつけ姿だな。」
 信長は馬上にて太刀・脇差を藁縄で結び、瓢箪を七つほどぶら下げ会見に臨もうとしていたのである。

 道三は正徳寺に戻り、道中着で信長を迎えようとする。
 次の瞬間、さっきのうつけ姿の信長とは全く別の人物がやって来た。
「織田上総介信長にございまする。」
(こりゃ一本取られた!)
 信長はうつけ姿を装っていたのである。
 つまり、自分はうつけ姿であることを人に見せびらかし、油断させ、敵に隙を見せ、敵を叩き潰すという作戦を信長は考えていた。
「そなたの父君信秀公は、美濃を幾度も攻め寄せてきておった。何故、緒田家は美濃を攻める。」
 道三は信長に聞く。
「美濃は日の本の中央。つまり、美濃を制する者天下を制する。という事にございまする。」
 この会話を交わした時、道三は
(残念ながら我が息子達は、将来信長の家臣に成り下がってしまうだろう。)と確信した。これは、諦めではなく、信長に自分の野望を託したと考えても良いと思われる。

 正徳寺での会見後、信長は当主の座に就くのを密かに妨げようとしている者が現れようとしていた。
「勝家、緒田家当主は、この信行だと天は決めたらしいな。」
「如何にも、信長殿はうつけ、秀才である信行様こそ当主に相応しいと存じまする。」
(兄上、我が野望にひれ伏していただきたい。)
 信長に弟信行の魔の手が忍び寄ろうとしていた。
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