信長最後の五日間

2日目

 西上野にある男がいた。
 伊勢と西上野の所領を信長から賜った滝川一益である。一益は、織田家の鉄砲奉行として仕えており、長篠の戦いでは大活躍した武将だ。
「滝川様、明日よりいよいよ北条征伐ですな。」
 元武田家家臣真田昌幸が一益に話掛けた。
 一益は、微笑みながら
「しかし、北条は野戦より籠城戦の特徴が強いのでの。真田殿、貴殿は確か信玄公在世の頃、北条征伐に行った事があったそうだな。」
「いかにも、小田原の城は堅固ゆえ、まず、上野を平定することをお勧め致します。」
「心得た。」
 一益は、笑いながら去っていった。


 さて、安土城である。
 安土城には、明智光秀が来ていた。
「武田を滅ぼした後、上様に敵無しと思いまする。」
 信長は眉をひそめ。
「光秀、この世は下克上ぞ、もしかしたら、我が天敵がひょいっと現れるかもしれん。例えば、家臣の中とかのう。」
 光秀は、頭を深々と下げた。
「光秀、明後日、家康が来る。接待しろ。」
「承知しました。」
 信長は、しばらく間を空け。
「光秀、わしはもうすぐ天下を取る。」
「しからば、天下を取った後、いかがなさるので？」
「わしは...」
 光秀は、信長が言った事に仰天した。
「上様、それはなりません。左様な事をすればこの世は終わりですぞ！」
 信長は、光秀を鬼のように睨みつけ。
「わしに口ごたえするつもりか金管頭が！」
 信長は、光秀に怒鳴りながら蹴り倒した。
「去れー！！光秀。」
 光秀は、信長の部屋から去った。

 屋敷に戻ろうとしていた途中、考え事をしていた。
 さっきの信長の言葉についてである。
 信長は
「この国に王は2人も居てはならん！わしは、天皇家を滅ぼす。」と言った。
 いくら天下人になろうとしている信長でも、天皇家という言わば、この国の真の王を殺そうと考える人間はこの男だけだろう。
 そしてまた１日が終わっていく。