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物置でほこりをかぶっていた絨毯
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ガサゴソ。
アンが、並木家の物置を物色していた。
「アンちゃん、何してるの? そこ、かなり汚いわよ」
優作の母、敦子が、心配になってアンのところへやってきた。
「あ、敦子さん。ちょっとここに反応を感じまして」
「?」
アンは、明日が待ち遠しかった。優作と鍛練をすることが楽しみで仕方なかった。魔術が全く浸透していないこの世界で、新たに見つけた魔術の可能性。目の前に突如現れた、新たな魔法使いの卵。明日、適性を見て、卵が孵化する可能性があるのか、しっかりと見なければいけない。
「あ、あったー!」
乱雑なものの中から、アンは一つの包みを取り出した。
「アンちゃん、それ、何?」
敦子が不思議そうにアンに尋ねる。
「ふふ、魔術に縁のない人からしたらただの骨董品かもしれませんが、魔法使い、特に飛行術を生業とする人間にとっては、最高クラスの逸品です」
アンは包みをやや乱暴に取りながら、中身を取り出していく。
「よし、私の感覚に狂いはなかった!」
包みがすべて取り払われると、その中から出てきたのは絨毯だった。黒く艶のある生地に、紅色、菜の花色、瑠璃色の細かい刺繍がなされている。
「ほわ~」
アンの絨毯とは全く違う趣のある美しい絨毯。雅な雰囲気と、若干狂気を感じるデザインが心をくすぐる。
「へ~、家にこんな絨毯があったのね」
敦子が興味深そうに絨毯を眺めている。
「敦子さん、この絨毯の魅力がわかりますか?」
アンが目をキラキラさせながら敦子を見た。
「うーん……、私には、きれいな絨毯にしか見えないか、な?」
敦子はおどおどしている。
「そうですか……」
アンはしょんぼりとした。優作がああなら、もしかしたら母親にも魔術の可能性があると思ったのだが。
「ところでアンちゃん、どうして物置にこんな絨毯があると思ったの?」
「え? だって……そうか、そうですよね。魔術になじみがなかったら、特に気になりませんよね。ですが、ここまで見事な絨毯なら、自然と魔法使いを呼び寄せますよ。それほどまでに見事な絨毯なんです」
この絨毯に関しては語ることが多すぎる。あまり見ないデザイン、他の絨毯より遥かに魅惑的なオーラ。目の細かさ。すべてが一級品。いや、他の一級品なんかと比べてはいけないような絨毯。
……なぜこれほどの絨毯がこんなところに?
こんな絨毯、ロイランでも滅多に手に入らない。どんな目利きでも、一生に一度巡り合えるか会えないくらいの物ではないだろうか。いや、さすがにもっと見つけられるかな。しかし、まるで空を飛ぶために織られたような絨毯。魔術が浸透していない世界で、なぜ存在しているのか。
「敦子さん、この絨毯、どこで入手したか分かりますか?」
「え、うーん、よくわからないわ。だけど私、若いころは世界中を飛び回っていろんなお土産を買い漁ってたから、その時に買ったんだと思うわ」
敦子が記憶を絞り出しているような表情をする。
「なるほど。それで、買ったはいいけど一回も開けなかったんですね」
「言われてみればそんな気がするわ。まさか、こんなに時間が経って初めて外に出るなんてね」
敦子の言葉に、アンはすべてを納得したような顔をした。
「はー、そういうことなんですね」
「アンちゃん? どういうこと?」
「いや、こっちの話です。それはそうと、この絨毯、優作に譲ってくれませんか?」
突然変わるアンの言葉に、敦子がきょとんとした。
「……え? なんで優作に? 私は構わないけど」
「ありがとうございます!」
そう言いながら、アンは家へと駆けて行った。
そういうことか。なんでこの家が妙に魔術に適しているのか。呪文をかけやすく、薬の調合もしやすく、近くに魔術の練習場もある。それは、優作の母、敦子がいい目を持っていたからだ。自然と、魔術に適したものを選んでしまう性質だったからだ。だからこんないい立地に家を建て、あそこまでいい絨毯を買った。そして、そんな目を持った人間の子供である優作は……。
ああ、明日が待ち遠しい。優作のポテンシャルがどれほどのものか、確かめずにはいられない。
心を躍らせるアンを、敦子は寂しいような、悲しいような目で眺めていた。
「……懐かしいな」
アンが、並木家の物置を物色していた。
「アンちゃん、何してるの? そこ、かなり汚いわよ」
優作の母、敦子が、心配になってアンのところへやってきた。
「あ、敦子さん。ちょっとここに反応を感じまして」
「?」
アンは、明日が待ち遠しかった。優作と鍛練をすることが楽しみで仕方なかった。魔術が全く浸透していないこの世界で、新たに見つけた魔術の可能性。目の前に突如現れた、新たな魔法使いの卵。明日、適性を見て、卵が孵化する可能性があるのか、しっかりと見なければいけない。
「あ、あったー!」
乱雑なものの中から、アンは一つの包みを取り出した。
「アンちゃん、それ、何?」
敦子が不思議そうにアンに尋ねる。
「ふふ、魔術に縁のない人からしたらただの骨董品かもしれませんが、魔法使い、特に飛行術を生業とする人間にとっては、最高クラスの逸品です」
アンは包みをやや乱暴に取りながら、中身を取り出していく。
「よし、私の感覚に狂いはなかった!」
包みがすべて取り払われると、その中から出てきたのは絨毯だった。黒く艶のある生地に、紅色、菜の花色、瑠璃色の細かい刺繍がなされている。
「ほわ~」
アンの絨毯とは全く違う趣のある美しい絨毯。雅な雰囲気と、若干狂気を感じるデザインが心をくすぐる。
「へ~、家にこんな絨毯があったのね」
敦子が興味深そうに絨毯を眺めている。
「敦子さん、この絨毯の魅力がわかりますか?」
アンが目をキラキラさせながら敦子を見た。
「うーん……、私には、きれいな絨毯にしか見えないか、な?」
敦子はおどおどしている。
「そうですか……」
アンはしょんぼりとした。優作がああなら、もしかしたら母親にも魔術の可能性があると思ったのだが。
「ところでアンちゃん、どうして物置にこんな絨毯があると思ったの?」
「え? だって……そうか、そうですよね。魔術になじみがなかったら、特に気になりませんよね。ですが、ここまで見事な絨毯なら、自然と魔法使いを呼び寄せますよ。それほどまでに見事な絨毯なんです」
この絨毯に関しては語ることが多すぎる。あまり見ないデザイン、他の絨毯より遥かに魅惑的なオーラ。目の細かさ。すべてが一級品。いや、他の一級品なんかと比べてはいけないような絨毯。
……なぜこれほどの絨毯がこんなところに?
こんな絨毯、ロイランでも滅多に手に入らない。どんな目利きでも、一生に一度巡り合えるか会えないくらいの物ではないだろうか。いや、さすがにもっと見つけられるかな。しかし、まるで空を飛ぶために織られたような絨毯。魔術が浸透していない世界で、なぜ存在しているのか。
「敦子さん、この絨毯、どこで入手したか分かりますか?」
「え、うーん、よくわからないわ。だけど私、若いころは世界中を飛び回っていろんなお土産を買い漁ってたから、その時に買ったんだと思うわ」
敦子が記憶を絞り出しているような表情をする。
「なるほど。それで、買ったはいいけど一回も開けなかったんですね」
「言われてみればそんな気がするわ。まさか、こんなに時間が経って初めて外に出るなんてね」
敦子の言葉に、アンはすべてを納得したような顔をした。
「はー、そういうことなんですね」
「アンちゃん? どういうこと?」
「いや、こっちの話です。それはそうと、この絨毯、優作に譲ってくれませんか?」
突然変わるアンの言葉に、敦子がきょとんとした。
「……え? なんで優作に? 私は構わないけど」
「ありがとうございます!」
そう言いながら、アンは家へと駆けて行った。
そういうことか。なんでこの家が妙に魔術に適しているのか。呪文をかけやすく、薬の調合もしやすく、近くに魔術の練習場もある。それは、優作の母、敦子がいい目を持っていたからだ。自然と、魔術に適したものを選んでしまう性質だったからだ。だからこんないい立地に家を建て、あそこまでいい絨毯を買った。そして、そんな目を持った人間の子供である優作は……。
ああ、明日が待ち遠しい。優作のポテンシャルがどれほどのものか、確かめずにはいられない。
心を躍らせるアンを、敦子は寂しいような、悲しいような目で眺めていた。
「……懐かしいな」
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