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魔法使いの章
プロローグ
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一体何がどうなっているんだ。
体中から不快な金属音が鳴る。
ボロボロと、自分から何かが剥がれ落ちていく。
関節という関節が酷い音を立て、どんどん緩くなっていく。
動いたときのほんの少しの衝撃が伝わるごとに、じゃりん、じゃりんと言いながら自分の内部がバラバラになっていく。
「実験にご協力頂きありがとうございました」
暗闇の中を逃げ回る中、頭上からふわりと人影が降りて来た。
それは、青いローブと大きな帽子をかぶり、大きなゴーグルをかけた魔法使い。
あの時の魔法使いだった。
彼は蒼く光るオーラを身に纏い、怪しく神秘的な雰囲気を醸し出しながら目の前に立っていた。
「お……、おい……。どういう、こと……だよ。一体……」
「はい。もうすぐあなたは異形化の最終段階に入ります。ですがご安心ください。あなたの変異過程は、しっかりとデータを取らせて頂きます」
「ふざ……、ける、な。お、お前……は、最初から、分かって、いた……の、か?」
「何をおっしゃいます。あなたにはしっかりと、実験の被検体となる『同意』をして頂きました。でないと、あなたは僕の魔道具の使用が出来ないはずです。規約にも明記してありますよ」
「う、嘘だろ? ……なあ、あんた。あんたには”情け”ってもんがねえのか」
「情け?」
「そう。こんなにも酷いことして、罪悪感とか、いろいろ——」
「感情に訴えるということは、自分の論理の破綻を認めた、ということですね」
「……え?」
「論理において感情は邪魔者以外の何者でもありません。感情があるから、とても効率の悪いことを行ってしまう。論理のみを考えれば、そんな苦労をせずに済みます」
「お、お前は何が言いた——」
「感情とは不要なものです。あらゆる論理を妨害し、効率を妨げ、そして、あなたのような人間に付け入る隙を与える。もっとも、僕は感情を切り離しているので、あなたの行動には意味がありませんが」
「……はは、なあ、もう一度——」
「あなたの体は間もなく異形化します。そんなに怯えないでください。あなたはデータとして、永遠に生き続けます。研究の礎として、ずっと存在し続けるのですから」
「そ、そんな…………。い、や……だ……」
グキイィィィイイイイイッ!
獣の咆哮と、長年放置されていた重機を無理矢理動かしたような音が響く。
静かで怪しげな恐怖が漂っていた暗闇が、凄惨で狂気的な恐怖に上書きされていく。
先ほどまで人間がいた場所には、錆びた鉄骨に鉄くずを接着剤で雑に取り付けたような姿の怪物がうごめいている。
魔法使いは一連の出来事を無感動に静観していた。彼が身に着けたゴーグルには、複雑な文字の羅列が映し出されている。
「ふう」
魔法使いは一回、小さなため息をついた。ゴーグルに表示されていた文字を消し、代わりに彼は手元に小さな魔法陣を表示した。
「シオリさん。こちらはデータの収集が完了しました。今からデータを送信します」
『了解した、叡持。受信と保存が終わるまで少し待っててくれ』
「ありがとうございます。では——」
『おっと、たった今、データの保存が完了した。もう、いつでも処分して大丈夫だ』
「随分と速くなりましたね」
『感謝してくれ。こっちは機器の整備の一切を任されているからな。これくらいの改善はして当然だ』
「いつもありがとうございます。それでは、僕は被検体を処分してから帰還することにします」
『ああ、ご苦労さん。帰ったら麦茶入れてやるぜ』
「楽しみにしています」
通信を切り、魔法使いは杖を構える。
ドオォォォォォォン……。
轟音が鳴り響く。
青白色の閃光が辺りを一瞬照らし、そこにいた鉄くずを吹き飛ばす。魔法使いはその様子を淡々と眺めていた。
閃光が止み、音が消え、辺りは再び暗闇と静寂を取り戻す。そこに、はじめから何もなかったかのように。ここで、何も起こらなかったかのように……。
体中から不快な金属音が鳴る。
ボロボロと、自分から何かが剥がれ落ちていく。
関節という関節が酷い音を立て、どんどん緩くなっていく。
動いたときのほんの少しの衝撃が伝わるごとに、じゃりん、じゃりんと言いながら自分の内部がバラバラになっていく。
「実験にご協力頂きありがとうございました」
暗闇の中を逃げ回る中、頭上からふわりと人影が降りて来た。
それは、青いローブと大きな帽子をかぶり、大きなゴーグルをかけた魔法使い。
あの時の魔法使いだった。
彼は蒼く光るオーラを身に纏い、怪しく神秘的な雰囲気を醸し出しながら目の前に立っていた。
「お……、おい……。どういう、こと……だよ。一体……」
「はい。もうすぐあなたは異形化の最終段階に入ります。ですがご安心ください。あなたの変異過程は、しっかりとデータを取らせて頂きます」
「ふざ……、ける、な。お、お前……は、最初から、分かって、いた……の、か?」
「何をおっしゃいます。あなたにはしっかりと、実験の被検体となる『同意』をして頂きました。でないと、あなたは僕の魔道具の使用が出来ないはずです。規約にも明記してありますよ」
「う、嘘だろ? ……なあ、あんた。あんたには”情け”ってもんがねえのか」
「情け?」
「そう。こんなにも酷いことして、罪悪感とか、いろいろ——」
「感情に訴えるということは、自分の論理の破綻を認めた、ということですね」
「……え?」
「論理において感情は邪魔者以外の何者でもありません。感情があるから、とても効率の悪いことを行ってしまう。論理のみを考えれば、そんな苦労をせずに済みます」
「お、お前は何が言いた——」
「感情とは不要なものです。あらゆる論理を妨害し、効率を妨げ、そして、あなたのような人間に付け入る隙を与える。もっとも、僕は感情を切り離しているので、あなたの行動には意味がありませんが」
「……はは、なあ、もう一度——」
「あなたの体は間もなく異形化します。そんなに怯えないでください。あなたはデータとして、永遠に生き続けます。研究の礎として、ずっと存在し続けるのですから」
「そ、そんな…………。い、や……だ……」
グキイィィィイイイイイッ!
獣の咆哮と、長年放置されていた重機を無理矢理動かしたような音が響く。
静かで怪しげな恐怖が漂っていた暗闇が、凄惨で狂気的な恐怖に上書きされていく。
先ほどまで人間がいた場所には、錆びた鉄骨に鉄くずを接着剤で雑に取り付けたような姿の怪物がうごめいている。
魔法使いは一連の出来事を無感動に静観していた。彼が身に着けたゴーグルには、複雑な文字の羅列が映し出されている。
「ふう」
魔法使いは一回、小さなため息をついた。ゴーグルに表示されていた文字を消し、代わりに彼は手元に小さな魔法陣を表示した。
「シオリさん。こちらはデータの収集が完了しました。今からデータを送信します」
『了解した、叡持。受信と保存が終わるまで少し待っててくれ』
「ありがとうございます。では——」
『おっと、たった今、データの保存が完了した。もう、いつでも処分して大丈夫だ』
「随分と速くなりましたね」
『感謝してくれ。こっちは機器の整備の一切を任されているからな。これくらいの改善はして当然だ』
「いつもありがとうございます。それでは、僕は被検体を処分してから帰還することにします」
『ああ、ご苦労さん。帰ったら麦茶入れてやるぜ』
「楽しみにしています」
通信を切り、魔法使いは杖を構える。
ドオォォォォォォン……。
轟音が鳴り響く。
青白色の閃光が辺りを一瞬照らし、そこにいた鉄くずを吹き飛ばす。魔法使いはその様子を淡々と眺めていた。
閃光が止み、音が消え、辺りは再び暗闇と静寂を取り戻す。そこに、はじめから何もなかったかのように。ここで、何も起こらなかったかのように……。
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