爆轟のマッドワイズマン

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魔法使いの章

境目にある魔法使いの城(中編)

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 この城、想像以上に大きい。

 天守までたどり着くのにも苦労した上に、いざ建物の中に入ったとしても、その中は広大だった。竜が、そのまま歩いても窮屈じゃない広さ、そして、とっても長い廊下。まともに歩いていられない。

 と、思っていたら、なんと、この城の中には、いたるところに移動短縮用のテレポート装置があるとのこと。それらを用い、あらゆる場所へ移動できる。

 まあ、それがないと、こんなところで生活出来ないでしょうね。
 竜は頭の中で勝手な想像を広げながら、ただ魔法使いの後ろを歩いていた。


 シュン。

 装置を使って移動した先は、薄暗くて広い空洞のような場所だった。

「さて、まずこの方に会って頂きます」

 魔法使いがそう言った時、暗闇の奥底から、何か、強大なオーラが漂ってきた。なんてところだ。俺が出会ったことのないような強いオーラを、こんなに感じることになるなんて。

 ドドドドドドドドドド……。

 奥底から、巨大な地響きが伝わる。竜は一度、後ずさりした。彼の本能が、彼を逃走モードへと切り返させた。

 ——が、これ以上、彼は動くことが出来なかった。このオーラの持ち主、地響きを起こしていた本体の姿を、見てしまったからだ。


 大量の毛を蓄えた、長く巨大な足。それが8本生えている。足がついている場所には、大きな4個の黒く透き通った目がある。


 目の前にいたのは、巨大な蜘蛛型のモンスターだった。
 なんて大きさだ。伯爵家の屋敷2、3個分はあるんじゃないか? こんなモンスターが住んでるのかよ。

 竜は、自分がいかに強運だったのか思い知った。自分は、こんなに強い敵に出会ったことがなかった。もし一回でもそんな敵に出会っていたら、今頃自分の命はなかった。

「……直接会うのは、初めてだな」

 ぼわんと、空気全体を振動させるような声が、巨大な蜘蛛から発せられた。

「ひぃっ!」

 竜は腰が抜けてしまった。恐怖とか、そんなやわなもんじゃない。どういえばいいのか分からないが、とにかく体中の力を奪われたような感覚に陥ってしまった。

「おっと、怖がらせてしまったようだな。私も人のことを言えないな」

 蜘蛛はそう言うと、自身から出した糸を自分の体に巻き付け始めた。その糸は蜘蛛の体をぎゅうぎゅうに締め付けていく……。

 おかしい。あんな巨体が、糸に締め付けられてどんどん小さくなっていく。だんだん蜘蛛の形からも離れていく。

「さて、この姿なら怖がらせることもないだろう」

 糸の塊は、遂に人の形となり、一人の女性の姿となった。紫色のつなぎ服を着て、頭に白いバンダナを巻いた、目つきの鋭い、凄腕の職人といった雰囲気の女性。

「……え、ええええっ?」

 嘘だろ……。あんな巨体を持ったモンスターが、こうも簡単に人間に化けることが出来るなんて。これが、強いモンスターの力なのか?

「そんなに怖がるな! これからお前もここで暮らすことになるんだからねぇ」
張りのある声が竜に向けられる。竜は、その声に聞き覚えがあった。
「……も、もしかして……。あの時、魔法使いから聞こえた声って……」
「そう。私だ。叡持がフィールドワークをしている時は、基本私がオペレーションをしているからな」
「は、はあ……」
「さて、まずは自己紹介からだな。私はシオリ。大賢人・新川叡持の使い魔で、芸術家だ。以後よろしく。ところで、お前はなんて言う?」

 こ、こいつが使い魔⁉ 嘘だろ……。こんな、帝国4,5個滅ぼせそうな怪物が、一人の魔法使いの使い魔? じゃあ、この魔法使いの実力って……。しかも、俺も、こんな奴と同じ魔法使いの使い魔だって? 竜は頭がパンクしそうになった。

「おい叡持。たぶん、今はまともに答えてくれるような状態じゃないぜ。少し時間を置いたほうがいい。……ところで、こいつの名前は何って言うんだ?」
「そういえば、聞いていませんでした」
さらっと返された言葉に、シオリは思わず飛びついた。
「ま、待て! まだこの竜の名前も聞いていないのか? ……まさかお前、自分の名前すら名乗ってないんじゃねえだろうな?」
「そういえばまだでした」

 魔法使いの軽い返答の後、シオリは頭を抱え、呆れた声を絞り出した。

「……これだからおめぇはよぉ。とりあえず、これから使い魔になるんだから、しっかりと挨拶しろ! まずは法衣を脱げ! 私が片付けといてやる」
「分かりました。ありがとうございます」

 ばさっ。

 ローブを法衣から取り外す。すると、その下から装甲が姿を現した。

 なんて装備だ。魔法使いっぽい装束の下は、強固な装甲で覆われている。それも、どこかで見るような鎧とか、そんなデザインでもないし、材質も違いそうだ。とにかく、どんな鎧よりも防御力が高いことは確かだろう。

 上品な魔法使いの装束とは打って変わって、機能美と殺意が滲み出た装甲。なんでもぶち壊しそうな法衣の内側に、竜は思わず見惚れてしまった。

 俺も、こんな風になりたかった。こんな、強い存在になりたかった。こんな、強さを誇示しなくてもいいくらいの強者に。

 目の前の魔法使いは、まさにそんな奴なんだ。バイオレンスさを、上品さで上から覆う。これほどの強さに憧れた。

 シュウゥゥ。

 装甲が分かれはじめ、解体されていく。そしてその中から、一人の青年が姿を現した。若干小柄で、色白の、ひょうひょうとした青年が。


「申し遅れました。僕は新川叡持。巷では“大賢人”と呼ばれています。爆轟術の使い手。世界を超えた、魔術の探求者です」


 魔法使いは姿勢を正し、丁寧にあいさつした。礼儀正しく、上品で、どこか近寄りがたい雰囲気。初めてこの姿を見たときは、そんな印象を受けた。
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