爛漫ろまんす!

平野ポタージュ

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時の一族と実

またね

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夜桜が舞う春の夜─────
少し肌寒い夜風。今宵の満月は、二人の男女を照らした。
優秀な女官と国の頂点である帝だ────


父は優秀な人だった─────
私と妹と母を捨てるくらい……
自分にとって価値があるもの無いものの区別が分かっていて
そんな父が大嫌いで────

でも何故か……

「愛おしいと思うのです」

「……そなたの父上に対してか?」

桜が舞う夜月の下、宮殿の回廊────
皇帝と女官の他愛のない会話が響いた。
本来であれば柘榴シィーリオは、帝の正妃となる者の側仕えとして責務を全うせねばならないが、この帝はどうやら自分が心から愛した人間でないと、例え国が崩壊しそうになっても迎える事が出来ないらしい。
意外と国の頂点に立つのに相応しくないのかもしれない。
だが、この白梨はくり国や他国や世界の平和を誰よりも願い、望んでいるのは
この、白龍帝はくりゅうていだけなのだ。

意外とこの帝は空気が読めないのか……或いは天然なのか
それとも、人の心を見抜く力があるのか───

「あら、嫌ですわ陛下ったら、御冗談を……。父は憎くて殺めてしまいたいくらい大嫌いですぅ」

「……私には、そういう風には見えないのだ」

陛下はいつだって、そんな私の心を見透かしているようで────
いっその事、この気持ちをさらけ出してしまえば楽になれるのだろうか。

「……陛下がそう見えるのなら……そうなのでしょうね」

あの事件から女官長にょかんちょうとして、身を潜めてからどれくらいの時が経ったのか。決して現実的には正妃にはなれなくとも、白龍パイロンの傍に居られる機会は多い。
柘榴シィーリオは今が一番幸せだと実感していた。
例え、その手に触れられなくとも
その頬や髪や唇や身体に触れる事が許されなくとも……

「陛下は、どんな方を正妃に迎えるのでしょうね……」

この時だけの陛下は自分の物だから────

「何を言い出すかと思えば……───くだらないぞ」

「あら、いつまで経っても世継ぎをお作りになるのを躊躇されてる、皇帝陛下にその様に言われたくありませんわっ」

「……柘榴シィーリオは、決められた愛と、自由な愛……───どちらを選ぶ?」

「私は……決められた愛を選びます」

「……意外だな───そなたなら、自由な愛を選ぶと思ったのだが……───国の頂点に立つ者として、私は…為さねばならない───この世界を護る五龍ウーロンとして……いずれは此処を去らねばならないからな……。その為に…、世継ぎを産み、新しい帝が誕生せねばならない。私の代わりに、い国を…───争いが無い、平和な国を……」

「……私では……駄目でしょうか」

「……柘榴シィーリオ────…そなたが、女帝に?」

"それは悪くない……───寧ろ、賛成だ"と、陛下は微笑んだ。

(馬鹿……───本当に、愛しております)

そんな貴方だから、私は……─────

いつから間違えてしまったのだろうか?
この愛はいつしか取り返しのつかないところにまで来てしまったみたい……

愛して……

愛して

「愛して……欲しかった───」

死んでしまった母に───父に……

そして……本当に好きになった、白龍あなた




「あたしは……柘榴シィーリオちゃんが好きだよ……大好きだよ!!」

その言葉に揺らいだ柘榴シィーリオは短剣を地面に落とした。
神美かみはそのまま優しく抱き締める。

「あたしが……愛してあげる……───柘榴シィーリオちゃんが嫌になるくらい…幸せにしてあげるから…ッ!!だから…お願い…生きて!!───死んじゃ駄目だよ!!」

「……───貴女って……ほん…とうに……お人好し…ね。…こんな私でも……生きてて……欲しいなんて…願ってくれるの?」

「当たり前じゃない!!……だって……柘榴シィーリオちゃんは……あたしの友達だもん!!」

「……とも…だち……───」 

もっと……もっと早く─────
神美かみに出会えてたら

《この役立たずの"器"が!!!お前は用無しだ、柘榴シィーリオッ!!!!》

柘榴シィーリオの体内から、殺意と邪悪な気配が漂う。
咄嗟に柘榴シィーリオ神美かみを突き飛ばした。

神美かみ……約束して────……この世界を……私が愛した人達が生きた……生きてる世界を────護ってちょうだいね」

「シ……柘榴シィーリオちゃんッ!!!」

「またね」

その女官はいつもの笑みを浮かべ
一人の少女に全てを託して手を振った────
気付くと、その手──顔───全身には無数の御札で埋め尽くされ、そこにはもう柘榴シィーリオは居なかった。そう───もうこの世には居ないのだ。

全てを受け容れるのに時間を与えては貰えなかった。
神美かみは、友の亡骸の中に潜んでいる僵尸きようしと今戦わねばならないのだ。
友との約束を果たす為に……

『この小娘……私達を油断させておいて、あの方に思念伝達を送りよって……ッ!!!───どうしてくれる!?私の計画が台無しではないかッ!!!』

柘榴シィーリオの身体から聞こえるその声の主は、全ての元凶となった僵尸きようしだ。その気配を感じ取った黄龍ファンロンは、黄杏ファンシィの姿から翠麟スイリンへと姿を変えた。

「ふふ……────あははははっ!!好い様だね…僵尸きようし。僕の悪友の置き土産は、アンタにとって最悪だったって事か……。」

『クッ……!今すぐに貴様らも!!そこの美豚ビトンを殺して────』

「恨むんなら、自分を恨みな────」

何処から現れたのか────電流を放った大量の鳳蝶が僵尸きようしに纏わり付く。

雷蝶らいちょう感電!!────」

『ギャア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッッッッッ!!!!!!』

不思議な事に電流は柘榴シィーリオの身体を傷付けず、僵尸きようしだけを蝕んだ。
それに連動するかのように、武官や百官に憑依していた僵尸きようし達も苦しみ始め、宙に向かって逃げる様に”本体”が息を切らしながら姿を現す。

柘榴シィーリオッ!!」

白龍パイロン柘榴シィーリオの亡骸を抱き留める。

「……御苦労であった。……そなたの思い……受け止めたぞ。」

亡骸の女官の頬を、帝は微かに震える指先で優しく撫でる。
すると、ほんの少しか……気の所為か───
女官の口角が上がったような気がした。
それに気付いたのは神美かみだった。

(柘榴シィーリオちゃん…、良かったね───貴女の思いは…伝わってるよ)

「ねぇ、神美かみちん──彼奴は人間じゃないから殺っても大丈夫だよねっ?」

僧侶はいつだって人々の死を慰め、魂を正しい道に誘う者だ。然し…この僧侶・黒龍ヘイロンは、僧侶に似つかわしくない事を、悪気のない清々しい笑顔で神美かみに問う。
この僧侶と”仲間”…と、言えば一番に怒り狂いそうな青龍チーロンは、本音半分の呆れと、たまたま重なった正義感には同感している様子だ。
皮肉を言いながらも、自分も”同じ気持ち”という意思表明で 呉鉤ごこうを構える。

「……貴方、僧侶じゃなかったんですか?」

「そこの僵尸きようしと一緒にそいつも葬れば良いんじゃねぇのか?」

赤龍ホンロンが、本気寄りすぎる冗談をさらっと言うと、青龍チーロンは笑みを浮かべ

「…成程……───じゃあ、的になって下さい黒龍ヘイロン。楽に死なせてあげますよ」

「ちょっと!ちょっと!なんでそうなるのかな!?キミたち!!」

「…おい、仙女───僵尸こいつは俺が倒す。……借りは返したからな」

赤龍ホンロンは自身が身に付けている左耳の赤い 耳環ピアスに触れる。
すると───その赤い 耳環ピアスから、まるで生きた”蛇”の様な鎖鎌が現れた。
触れなくても分かるのが、火傷は確実──。溶けてしまいそうなくらいの、異様な赤さと灼熱。
普通の者では扱えない武器だ。

「皆、絶対に殺しちゃ駄目だよ────…でも、あのムカつく顔をボッコボコにするのはOK!」

その表情は幼さを残しながらも凛々しく、その場にいた五龍ウーロンは全員頷いた。

「我等の主、龍仙女ロンシィェンニュから命をたった今承諾した!!───奴は殺めず……死よりも苦痛な生き地獄を───」
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