おにぎりと酒が導いた社畜の異世界転生 ~落ち武者守護霊の力を添えて~

浅沼

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転生後

13.黒田、怪異の家族を見つける

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 雪はいつの間にか止み、分厚い雲の隙間からわずかに空が顔を覗かせていた。黒田は、まだ日が暮れるまで時間があることに気づき、安堵の息をつく。

(ひとまずシキの元に戻って、見たことを共有しよう。)
 そう考えながら家へと足を向けたが、その途中、頭の中を巡るのは今後の方針だった。怪異になった理由は推測できる。だが、それ以上の手掛かりがない。あともう少し、もう少し情報がほしい――。
 そう思い悩んでいた矢先、空地へと向かう老人と初老の男性の姿が目に入った。老人の手には花束が握られており、もしやと思い黒田は踵を返し彼らのもとへ行く。

「ここが、お袋が死んだ場所か……。」
 初老の男性はそう呟き、俯いて静かに手をあわせた。続いて老人が、一歩前へ進み出る。彼の声は震えていた。

「遅くなって、本当にすまない。お前に報告するのが、こんなに時間がかかってしまった。
 俺も年をとったよ。もう90歳だ、すっかりジジイになっちまった……。
 お前が死んでから、俺は――あの子を探すことだけが、生きる理由だった。
 死に物狂いで探して、どれだけ苦労したかわからない。でもな、やっと……やっと見つけたんだ。
 あの子を見つけて、それから……遠い町で一緒に暮らしていたよ。この町だと、お前を思い出してな……戻るのが怖かったんだ。
 ずっと悩んでた。お前がいないのに、俺だけが幸せになっていいのか、ってな……。
 今じゃ、あの子も年をとった。家庭を持って、その子どもがまた家庭を作って――俺たちの孫が、ひ孫をもうすぐ産むんだ。
 孫のお嫁さんが、この町の生まれでな。この町で生まれるって言うから、ようやく踏ん切りがついたんだよ。お前に報告する決心が……。」

 老人の声は次第に涙に詰まり、言葉が続かなくなった。初老の男性がその背中を優しくさする。
「お袋……正直、お袋の顔は覚えていない。でもな、親になってみて、ようやく親の気持ちが分かった気がするんだ。子を残して死んだお袋の気持ちが――。
 もうすぐ孫、いや……お袋から見たらひ孫か。ひ孫が生まれるんだ。どうか……生まれる子を見守ってください。」
 俯いている初老の男性の顔は見えなかったが、その声は涙で滲んでいた。

 老人は震える手で花束を空地にそっと置いた。
「お前の好きだった花だ。……金がなかった俺は、墓もまともに作ってやれなかったな。……ごめんな。」
 花束に視線を落としたまま、老人は静かに傷跡だらけの手を合わせる。その後ろ姿は小さく、長い時間を背負ってきた人生の重みが滲み出ていた。空地には雪解けの湿った空気と、二人の想いだけが静かに流れている。
 黒田はその光景を見つめ、心に小さな安堵が広がるのを感じた。
(そうか、誘拐された子は生きていたんだ。そして、その子が新しい命を繋いでいる……。)

 老人と初老の男性は空地を後にした。黒田はふと考える。怪異へ息子の姿を見せることができれば、長年の未練を断ち、成仏へと導く鍵になるかもしれないと――。そのためにも、二人が向かう場所を知る必要があった。

 二人の後をつけると、やがて町の一角にある一軒の家へと辿り着く。男性がドアベルを鳴らすと、すぐに中から慌ただしく扉が開いた。出迎えたのは、若い男性だった。
「父さん、じいちゃん、来てくれたんだね!来て早々で悪いけど、嫁が……陣痛が来たみたいだ。助産師さんの話だと、早ければ今夜にも生まれるって!」
「そうか……ついに生まれるのか。タイミングがいいのかな。俺たちは宿に泊まってるから、何かあったらすぐ呼びに来いよ。」
「分かった!明日には生まれてると思うから、またその時に来てくれ!」
「お前は嫁さんのそばにいてやるんだぞ。」
 初老の男性が柔らかく言う。
「分かってるよ!もう既に励ますくらいしかできてないけど……。」
「それで十分だ。出産のときに男ができるのは、ただ見守ることだけだ。子どもが産まれてから尽くせばいいのさ。」
 老人は皺だらけの顔で優しく微笑みながら言う。
「だけど、初めてだから本当に緊張するんだよ……はぁぁ……。」
「お前が緊張してどうする。産むのは嫁さんだろうが。」
 初老の男性が笑いを含ませて言う。
「そうだけどさ……でも、なんかそわそわして落ち着かなくて。」
「お前が生まれた時、父さんも同じだったよ。……とにかく、家に戻ってそばにいてやれ。」
「分かった、また明日!」
 若い男性は扉を閉め、家の中へと戻っていった。その姿を見届けると、老人と初老の男性も近くの宿――「アパ宿」へと向かった。

 黒田はその様子を確認すると、自らの家へと足を向けた。これで一歩進めた。怪異の謎に迫る手がかりを掴んだ今、シキに伝えるべき情報が増え、次の行動を計画できるだろう。
 町を染める茜色の夕陽が雪を優しく照らしている。その光景を背に、黒田はどこか軽くなった足取りで家路を急いだ。
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