13 / 15
転生後
13.黒田、怪異の家族を見つける
しおりを挟む
雪はいつの間にか止み、分厚い雲の隙間からわずかに空が顔を覗かせていた。黒田は、まだ日が暮れるまで時間があることに気づき、安堵の息をつく。
(ひとまずシキの元に戻って、見たことを共有しよう。)
そう考えながら家へと足を向けたが、その途中、頭の中を巡るのは今後の方針だった。怪異になった理由は推測できる。だが、それ以上の手掛かりがない。あともう少し、もう少し情報がほしい――。
そう思い悩んでいた矢先、空地へと向かう老人と初老の男性の姿が目に入った。老人の手には花束が握られており、もしやと思い黒田は踵を返し彼らのもとへ行く。
「ここが、お袋が死んだ場所か……。」
初老の男性はそう呟き、俯いて静かに手をあわせた。続いて老人が、一歩前へ進み出る。彼の声は震えていた。
「遅くなって、本当にすまない。お前に報告するのが、こんなに時間がかかってしまった。
俺も年をとったよ。もう90歳だ、すっかりジジイになっちまった……。
お前が死んでから、俺は――あの子を探すことだけが、生きる理由だった。
死に物狂いで探して、どれだけ苦労したかわからない。でもな、やっと……やっと見つけたんだ。
あの子を見つけて、それから……遠い町で一緒に暮らしていたよ。この町だと、お前を思い出してな……戻るのが怖かったんだ。
ずっと悩んでた。お前がいないのに、俺だけが幸せになっていいのか、ってな……。
今じゃ、あの子も年をとった。家庭を持って、その子どもがまた家庭を作って――俺たちの孫が、ひ孫をもうすぐ産むんだ。
孫のお嫁さんが、この町の生まれでな。この町で生まれるって言うから、ようやく踏ん切りがついたんだよ。お前に報告する決心が……。」
老人の声は次第に涙に詰まり、言葉が続かなくなった。初老の男性がその背中を優しくさする。
「お袋……正直、お袋の顔は覚えていない。でもな、親になってみて、ようやく親の気持ちが分かった気がするんだ。子を残して死んだお袋の気持ちが――。
もうすぐ孫、いや……お袋から見たらひ孫か。ひ孫が生まれるんだ。どうか……生まれる子を見守ってください。」
俯いている初老の男性の顔は見えなかったが、その声は涙で滲んでいた。
老人は震える手で花束を空地にそっと置いた。
「お前の好きだった花だ。……金がなかった俺は、墓もまともに作ってやれなかったな。……ごめんな。」
花束に視線を落としたまま、老人は静かに傷跡だらけの手を合わせる。その後ろ姿は小さく、長い時間を背負ってきた人生の重みが滲み出ていた。空地には雪解けの湿った空気と、二人の想いだけが静かに流れている。
黒田はその光景を見つめ、心に小さな安堵が広がるのを感じた。
(そうか、誘拐された子は生きていたんだ。そして、その子が新しい命を繋いでいる……。)
老人と初老の男性は空地を後にした。黒田はふと考える。怪異へ息子の姿を見せることができれば、長年の未練を断ち、成仏へと導く鍵になるかもしれないと――。そのためにも、二人が向かう場所を知る必要があった。
二人の後をつけると、やがて町の一角にある一軒の家へと辿り着く。男性がドアベルを鳴らすと、すぐに中から慌ただしく扉が開いた。出迎えたのは、若い男性だった。
「父さん、じいちゃん、来てくれたんだね!来て早々で悪いけど、嫁が……陣痛が来たみたいだ。助産師さんの話だと、早ければ今夜にも生まれるって!」
「そうか……ついに生まれるのか。タイミングがいいのかな。俺たちはアパ宿に泊まってるから、何かあったらすぐ呼びに来いよ。」
「分かった!明日には生まれてると思うから、またその時に来てくれ!」
「お前は嫁さんのそばにいてやるんだぞ。」
初老の男性が柔らかく言う。
「分かってるよ!もう既に励ますくらいしかできてないけど……。」
「それで十分だ。出産のときに男ができるのは、ただ見守ることだけだ。子どもが産まれてから尽くせばいいのさ。」
老人は皺だらけの顔で優しく微笑みながら言う。
「だけど、初めてだから本当に緊張するんだよ……はぁぁ……。」
「お前が緊張してどうする。産むのは嫁さんだろうが。」
初老の男性が笑いを含ませて言う。
「そうだけどさ……でも、なんかそわそわして落ち着かなくて。」
「お前が生まれた時、父さんも同じだったよ。……とにかく、家に戻ってそばにいてやれ。」
「分かった、また明日!」
若い男性は扉を閉め、家の中へと戻っていった。その姿を見届けると、老人と初老の男性も近くの宿――「アパ宿」へと向かった。
黒田はその様子を確認すると、自らの家へと足を向けた。これで一歩進めた。怪異の謎に迫る手がかりを掴んだ今、シキに伝えるべき情報が増え、次の行動を計画できるだろう。
町を染める茜色の夕陽が雪を優しく照らしている。その光景を背に、黒田はどこか軽くなった足取りで家路を急いだ。
(ひとまずシキの元に戻って、見たことを共有しよう。)
そう考えながら家へと足を向けたが、その途中、頭の中を巡るのは今後の方針だった。怪異になった理由は推測できる。だが、それ以上の手掛かりがない。あともう少し、もう少し情報がほしい――。
そう思い悩んでいた矢先、空地へと向かう老人と初老の男性の姿が目に入った。老人の手には花束が握られており、もしやと思い黒田は踵を返し彼らのもとへ行く。
「ここが、お袋が死んだ場所か……。」
初老の男性はそう呟き、俯いて静かに手をあわせた。続いて老人が、一歩前へ進み出る。彼の声は震えていた。
「遅くなって、本当にすまない。お前に報告するのが、こんなに時間がかかってしまった。
俺も年をとったよ。もう90歳だ、すっかりジジイになっちまった……。
お前が死んでから、俺は――あの子を探すことだけが、生きる理由だった。
死に物狂いで探して、どれだけ苦労したかわからない。でもな、やっと……やっと見つけたんだ。
あの子を見つけて、それから……遠い町で一緒に暮らしていたよ。この町だと、お前を思い出してな……戻るのが怖かったんだ。
ずっと悩んでた。お前がいないのに、俺だけが幸せになっていいのか、ってな……。
今じゃ、あの子も年をとった。家庭を持って、その子どもがまた家庭を作って――俺たちの孫が、ひ孫をもうすぐ産むんだ。
孫のお嫁さんが、この町の生まれでな。この町で生まれるって言うから、ようやく踏ん切りがついたんだよ。お前に報告する決心が……。」
老人の声は次第に涙に詰まり、言葉が続かなくなった。初老の男性がその背中を優しくさする。
「お袋……正直、お袋の顔は覚えていない。でもな、親になってみて、ようやく親の気持ちが分かった気がするんだ。子を残して死んだお袋の気持ちが――。
もうすぐ孫、いや……お袋から見たらひ孫か。ひ孫が生まれるんだ。どうか……生まれる子を見守ってください。」
俯いている初老の男性の顔は見えなかったが、その声は涙で滲んでいた。
老人は震える手で花束を空地にそっと置いた。
「お前の好きだった花だ。……金がなかった俺は、墓もまともに作ってやれなかったな。……ごめんな。」
花束に視線を落としたまま、老人は静かに傷跡だらけの手を合わせる。その後ろ姿は小さく、長い時間を背負ってきた人生の重みが滲み出ていた。空地には雪解けの湿った空気と、二人の想いだけが静かに流れている。
黒田はその光景を見つめ、心に小さな安堵が広がるのを感じた。
(そうか、誘拐された子は生きていたんだ。そして、その子が新しい命を繋いでいる……。)
老人と初老の男性は空地を後にした。黒田はふと考える。怪異へ息子の姿を見せることができれば、長年の未練を断ち、成仏へと導く鍵になるかもしれないと――。そのためにも、二人が向かう場所を知る必要があった。
二人の後をつけると、やがて町の一角にある一軒の家へと辿り着く。男性がドアベルを鳴らすと、すぐに中から慌ただしく扉が開いた。出迎えたのは、若い男性だった。
「父さん、じいちゃん、来てくれたんだね!来て早々で悪いけど、嫁が……陣痛が来たみたいだ。助産師さんの話だと、早ければ今夜にも生まれるって!」
「そうか……ついに生まれるのか。タイミングがいいのかな。俺たちはアパ宿に泊まってるから、何かあったらすぐ呼びに来いよ。」
「分かった!明日には生まれてると思うから、またその時に来てくれ!」
「お前は嫁さんのそばにいてやるんだぞ。」
初老の男性が柔らかく言う。
「分かってるよ!もう既に励ますくらいしかできてないけど……。」
「それで十分だ。出産のときに男ができるのは、ただ見守ることだけだ。子どもが産まれてから尽くせばいいのさ。」
老人は皺だらけの顔で優しく微笑みながら言う。
「だけど、初めてだから本当に緊張するんだよ……はぁぁ……。」
「お前が緊張してどうする。産むのは嫁さんだろうが。」
初老の男性が笑いを含ませて言う。
「そうだけどさ……でも、なんかそわそわして落ち着かなくて。」
「お前が生まれた時、父さんも同じだったよ。……とにかく、家に戻ってそばにいてやれ。」
「分かった、また明日!」
若い男性は扉を閉め、家の中へと戻っていった。その姿を見届けると、老人と初老の男性も近くの宿――「アパ宿」へと向かった。
黒田はその様子を確認すると、自らの家へと足を向けた。これで一歩進めた。怪異の謎に迫る手がかりを掴んだ今、シキに伝えるべき情報が増え、次の行動を計画できるだろう。
町を染める茜色の夕陽が雪を優しく照らしている。その光景を背に、黒田はどこか軽くなった足取りで家路を急いだ。
41
あなたにおすすめの小説
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。
あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。
狼になっちゃった!
家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで?
色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!?
……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう?
これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる