塩と薬を間違えただけなのに

浅沼

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5:ババ様のおうち行ったよ

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 「ここ……なんか……すごい世界観……」
 “ロス・ロコス”は、黒魔術師・ババ様の自宅を訪れていた。
 ババ様の家は、郊外の静かな山道を少し入った先、ぽつんと建っている。
 だがその外観からして、すでに只者ではない。
 風化しかけた不動明王の像、ヒンドゥー教のガネーシャ像、タイの祈祷面、そして魔除けらしき黒ヤギの剥製……。
「これ、どこで仕入れたんだろ……?」
「てかアレ、笑ってる仏像?……こっち見てる?」
「こわ……でもなんか……アガるな」
「ワイこの仏像と写真撮って、インスタのトップ画にするで!」

 玄関を開けると、線香と獣の骨のような匂いが鼻をつく。
 それだけで、普段陽気なバリシオが無言になった。
「おめぇら……座れ」
 奥の座敷に案内され、4人が正座すると、ちゃぶ台の向こうにババ様が座っていた。
 青森弁で、ゆっくりと、しかし圧のある声が響く。
「……おめぇら、日本行ったべな。
 んで……あの世との境目、くぐってきたべ?」
 4人は同時に叫んだ。
「うおおぉ!? なんでわかったの!!??」
「エスパー!? 霊媒師!? ババ様、ガチやべぇ!!」
「おれ、今ぞわってした!冷や汗でTシャツ湿ったもん!」
「もしかして、ババ様ってジャパニーズホラー出てるんちゃうん!?」
 しかし、ババ様の顔は一切笑っていなかった。
 むしろ──あきれ返っていた。
 
「……ばがだなぁ……ほんと、ばがだな。
 よりによっていっちゃんあぶねぇとこに、観光気分で行って、騒いで、寝てきた?
 はんかくせぇ……!」
 ブラスが、ちょっと恥ずかしそうに頭をかく。
「……いやぁ……言われてみれば……なんか……テンション上がっちゃって……」
 エリーコはすまなそうに笑いながらつぶやく。
「だって、あの場所……やけに空気が澄んでてさ……月明かりとか、綺麗だったんだよ」
 バリシオがボソッとつぶやく。
「でも……今思い出すとさ……空気が冷たすぎたんだよな。夏なのに。霊気だったのかも」
 キケは、眉をしかめてうなずいた。
「おれら、完全にアホやったんやな……。てかもう、塩なめなきゃ6時間ごとに地獄……地獄ペロやで……」
 ババ様はため息をつきながら、古びた鉄瓶からお茶を注ぎ、ぼそっと言った。

「……んだば、話せ。どういう経緯で憑かれたのか、細かぁ~くな。
 その霊たち、普通のじゃねぇ。よう今まで、死なずに済んでたもんだ……」

 そして──バカ4人組は語り出す。
 あの沖縄旅行の夜、何があったのか。

 祠、鳥居、湿った風。
 笑っていたはずなのに、今となっては笑えない、不思議な夜の記憶を──
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