塩と薬を間違えただけなのに

浅沼

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10:建設プロジェクト

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「おっしゃああああ! ロスロコス神殿、建設開始やあああ!」
 叫んだのはキケ。彼は頭にタオルを巻き、日曜大工セット(拾いもん)を腰に下げてやる気満々である。気合いだけは一級建築士だ。
  舞台は、キケのばあちゃんが昔買った空き地──たった10畳。そのくせ空気がやたら重い。建築資材は、近所からかき集めた廃材、壊れた家電、折れたハンガー、あとはノリ。だがロスロコスにとっては、それが“フル装備”である。

キケを筆頭にばあちゃんの空き地へと入る。
「なんや、懐かしい匂いするで…。これは血の匂いや…」
スンスンとキケが鼻をひくつかせる。
「うおっ、めっちゃいる!!10畳しかないのに、グロ系の幽霊がひしめき合ってるんだけど!?おえーー!」
と、視えるブラスが言う。
「え、ちょっと待って。あいつら、ここは使わせねーよだと??あぁ?ここはキケのばあちゃんの土地だぞ???」
エリーコが目を光らせ、幽霊相手にメンチを切る。気持ちが分かる男は、時に一番怖い。
「……ここ、昔は処刑場だったらしいよ。だから土地代めちゃくちゃ安かったんだと。で、キケのばーちゃんが買ったんだな」
バリシオがアイスを舐めながら、さらっと過去を暴露する。

「……なんやその因縁まみれな由来」
 沈黙するロスロコス。と、そのとき。
「ん?あいつ、なんか言いたそうだな……」
 ブラスの前に、かつてのストーカー男の幽霊が、すっ……と登場。ジェスチャーで意思を伝え始めた。
「なになに……“キケとバリシオが幽霊の立ってる場所まで行って、頭めがけて廃材でぶん殴れ”……?成仏するらしいよ、だとよ……」
 エリーコが読み取り、絶句。
「おっしゃ、案内は任せろ!!」
ブラスが即応。キケとバリシオを先導し、次々と場所を指定していく。
「そこだ!そこのドロドロしたの!あと、足ないやつな!」
 ブラスが叫ぶと、バリシオとキケが無言で廃材片手に突進。ガッシャーン!!ドカーン!!!
「成仏ゥゥゥ!!」
 なぜか叫びながら、次々と幽霊の溜まり場を破壊していく。
「これ……暴力やない……?」
「でも、だんだん空気軽くなってきてるよ」
「なんや……神殿建設って、こんなに体力使うんやな……」
 こうして、ばあちゃんの10畳の空き地に、魂と物理で道を開きながら──
ロスロコスのDIY神殿建設は、静かに幕を開けたのだった。

「おっしゃ、血の匂いもなくなったことやし仕切り直しや!いくでぇ!!」
「とりあえず、鳥居的なものから作るか。幽霊も“入口”っぽいの欲しがってるみたい」
エリーコが通訳しながら指示を出す。

「お、それならこれ使えるかも」
 バリシオが差し出したのは、木材2本と壊れたスケボー板数枚。
 それを受け取ったキケが、インスタで見た“それっぽい”鳥居を参考に、感覚で建築を始める。

「はぁはぁ……できた。どうやこれ」
「……めっちゃいいじゃん!!」
「過去のビジョンとほぼ同じだ!」
「幽霊びっくりしてる!」

 勢いと情熱のなせる業、ものの30分で“鳥居に見えなくもない何か”が完成。
 赤スプレーで雑に塗られ、なぜか上にはサングラスが飾られている。

 次は神殿本部。材料はミニチュアハウスの組み立てキット。用途は本来インテリア。だがロスロコスはこれを金のスプレーで塗りまくり、台座の上に鎮座させた。
「……めっちゃ神々しくね?」
 それを見て、ブラスがポツリ。
 幽霊たちもふわっと寄ってきて、うんうんと頷くような動きを見せる。
「……いや、ちょっと待て。なにこのチラシ? なんか幽霊の一人が『フォントがダサい』って訴えてる……」
 神殿前に飾った「ようこそロスロコス神殿へ!」の看板、幽霊的にはかなり不評らしい。気づけばキケが耳元で囁かれる。
「……MS明朝って、幽霊的に嫌なんか?」
 エリーコも眉をひそめる。「たぶん、筆文字フォントの方が令和っぽいって言ってる。トレンドとか気にするタイプっぽいよ」
「いや、どんだけ美的センスあるねん、幽霊!しかもここ、メキシコやぞ!令和ちゃうねん!!」


その後も──

バリシオが「この配置は風水的にアウトだぞ」といわれ位置を変更
ブラスが「鳥居の角度が陰陽バランス崩してる」と微調整を命じられ
キケは「もっと手間かけろ」と言われ3回やり直し
 という、謎の神殿建築フィードバック地獄に突入。

「俺らギャングやろ?なんで今DIYインフルエンサーみたいなことしとんねん……」
 そう嘆きながらも、完成したのは――
・鳥居に見えなくもない何か(赤くてサングラスが乗っている)
・ミニチュア神殿(ただし金ピカでLEDが光る)
・お供えピザコーナー
・フォントが改善された看板(「ようこそ!」は筆文字風になり、なんと4カ国語で記載(時代はグローバルだから)していた)

「……なんか、ええやん」
「なぁ、マジで伊勢神宮っぽくなってきたくね?」
「これ、伊勢神宮やない……“謎神宮”や……」
「クオリティはともかく、心はあるからな!!」
「俺はここに、DJブース設置する!」
「俺、神殿本部の下に“お賽銭箱”置こうと思う。ピザの箱だけど」

 バカバカしい。でも、真剣。
 どこか神聖。けれど、まちがいなくロス・ロコス。

 最初は悪ノリだったが、気づけば幽霊たちも嬉しそうに神殿に集まり、静かに佇んでいる。
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