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新章

⑤-3

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クラークとの会話は、最終段階を意味する。
「何か気になる事はあるかね?」

ダイブの前、最後の歓談の機会。シンプルで量の入るカップから、紅茶の湯気が立つ。貰った資料を見て、検査にも問題なしをもらった。フォロー体制も万端で、残った疑問はひとつ。

「何故、私が?」

自惚れではないけど、極々平凡にゲームをしていた。単独行動できるくらいの魔法使いで生産をやっているという、特徴くらいしかない。
それはゲーム上の人たちと比べれば、目立たないステータス。数値、イベントの参加率も低いし、活躍や名声は無い。

選ばれた、なら理由が気になるのは自然だろう。時間と技術力にはお金がかかる。その投資をする価値があると思う根拠が弱いと思う。

「あちらのオーダー、としか言いようがないな。」

言い淀んでいるのは、機密事項とかだろうか?いや、どう説明するか迷っている感じか。少し間を持って、言葉が紡がれる。

「生身での行き来は確立されていない。宇宙船でも無理だ。」

検査着で入った部屋はツナギの技術者と白衣の研究者の人達が居た。場違い感に少し怯む。
案内の人に着いて行き緑色のカプセルに入って、椅子に座る。

体を包み込むような椅子。私の寸法に合っているのだろう、良い感じだ。背中の当たり具合を2回ほど感触を味わう。

ガラス越しに外で人が真剣に話し合って確認しているのを眺める。邪魔にならないようにおとなしく緑色のカプセルに入って、椅子に座っているのが現状。

(緊張しているだろうか?)
所在なさげな様子、書く場面かな。

少し暇を感じるくらい時間が経ったところで、クラークから声をかけられた。
「調子はどうかね?」
「楽しみです」

笑って答えられる。前向きで、ワクワクしている。
「カイナの体力面を考えて、向こうでは1泊2日の滞在だ。」

再確認。内容の確認というよりは、会話をする事で緊張を解してくれているのだろう。落ち着いた声と、知っている内容をなぞって、そろそろその時が来るようだ。


「行ってらっしゃい。帰りの時間まで楽しんでくれたまえ」

声が残され密閉されれば、1人でカプセルの中だ。ちょっとの閉塞感。私は透明なガラスを見ながら眠ったようだった。

外の音は聞こえない
目を瞑った暗がりに、ぼんやり光が差し込むようで眩しい?
最初は白い空間。

「コネクト空間。」

まだ声は耳を塞いだ時のように籠っている。チューニングされていく、感覚と思考に
呼吸を止めたようにひっそりとカイナは待った。
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