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II-b 陸丘の森

閑話2 <街の重鎮たち>

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「セリはキャンプ場に着いて休んでる頃か。」

そう独りごちたのは、冒険者ギルド長だった。
ある一室で食事会とは名ばかりの集まりが始まった。

「だろうな」
素っ気なく応えて、
食前のワインを嗜むのは、商業ギルド長。

ギルドのトップ2人が、隣り合って席につき飲んでいた。

「おや、遅れましたかな?」
にこやかに神父が入室してきた。

「先にやってる。」
「構わんさ」

内輪だから。と言外に伝えた。
慣れたものである。

トップの忙しさで、集まれないが
酒を飲む仲くらいの親交はあった。

特に、今日は飲みたくなった。
それなら夕飯もついでに、と集まった。

そんな流れだったが、心中は同じであるようだ。


「ご用意させていただきます。」
シスターが柔和な雰囲気を纏って、配膳していく。


貴族のようにコース料理の形式ではなく
祭りの時の少し豪華な、お呼ばれした時の食事だった。

冒険者ギルドの体力重視には遠く及ばず、
商業ギルドの食事会の豪華さはなく、
教会の孤児院で子供たちととる質素な食事

…を少し豪華にしたスープ。

「旨いな。」

素朴で腹を満たしてくれる温かいスープ。
シスターも配膳し終わって、席についた。

簡単に祈り、いただく。


大人数用の鍋で作られたスープで、

安価な食材ばかりだが、大きめに切られた野菜が
溶けそうなほど柔らかく旨味があった。


「懐かしいな。」商売の最中決して見せない
緩んだ表情を商業ギルド長がした。

優しい味だ

「美味しいです。」といつもの笑みより寛いだ様子で神父が言えば、
シスターが「おかわりもありますよ。」とニコニコした。

温かな食事を囲んでいる時、思い出した。

「あの子の作るものは、美味しくなるんです。」

「精霊に愛されているからな。」さも当然と冒険者ギルド長が言えば、

「掘り出しものやアイデアもか?」と揶揄うように商業ギルド長が言う。
精霊の愛し子と呼ばれる存在が、一部の地域に根づいた信仰だ。

商売人でも、信じていない者が多く商売上の見せかけとしての意味しかない。
本物を知っているのは、ごく一部である。

「あの子の心がけでしょう。」
と戯れと分かって神父が言う。

妖精も精霊も気まぐれだ。人の管理を受けない、望まない。

”常に“や”もっと“なんてせず、
”たまに“、  気が向いたから“と奇跡のような力を与える。


その影響は、小さなものから狙われるほどの大きなものまで。

それを踏まえて、調合は控えさせていた。

出来上がったものは、冒険ギルドと、
商業ギルドではなくギルド長に個人的に買ってもらい
必要な人へ流された。

「あれほどの物を扱うことはそうそうない。
いい商売だった。」

商業ギルド長なりの、褒め言葉だ。
今回の商売では助かったが、扱いを慎重さが求められる商品だった。

それこそ、災いの種になりそうな。

「セリは良い子でしたよ」懸念を晴らすように声が通った。

それを認めるように、ワインを飲む。
シスターは紅茶を淹れにいった。

冒険者・商業ギルドと教会の繋がりを強化して、
この町は成り立っていた。

若人を育て、巣立ちさせる。
数多く、繰り返し経験している。

だが、それ以上に思い入れがあると言えば良いのか。

「寂しくなりますねえ」

それに尽きる話だった。
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