【長編・完結】この冒険者、何者?〜騎士さまと噂の冒険者は全てを見通す目と耳をお持ちです〜

BBやっこ

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それぞれの視点

ある女冒険者の変化

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あんな事になるとは思わなかった。

私の当時の気持ちはそれに尽きるかも知れない。今なら色々気負いすぎていたのだと分かるし無謀だったと思う。
それでも、視野が狭いという状態は、突き進むことしか選ばなかった。


襲撃、をしてしまった。

私は、『悪戯程度の依頼』と本当に信じて、信じたかったんだ。
うちの家は両親が商人として働きに出ている。幼い弟妹も自分の事はできるようになったと2人で出掛けて行った。すぐ戻るから、と。

そう言って出て行ったが、なかなか手紙は届かない。それを心配するより、自分達の生活の危機が近かった。
お腹を空かせる弟妹に、焦りが積もる。商売が長引いている、お金は送ってもらったけど足りなくなりそう。

いきなりお金が降って湧くなんて事ない。私も冒険者としてまだ新人の域は出ないから、依頼料も暮らしていくギリギリだった。

誰かが、病気になったら?
自身が怪我をするより、その心配が先に立つ。

私は冒険者の依頼はスキルを使う事で、なんとかなると思い込んでいた。
周りには持っている人のいない、“隠密スキル”。

私の持つこのスキルは『森で活躍する冒険者は持っている便利だ』と聞いた。
魔物を狩るのにも、探索するのにもあれば助けになるんだって。その時点でよく分からず使ってたのかな。

採取の時に魔物にバレないよう使ってて、練度という点は素人同然だったみたい。知らなければ有用なスキルも使えないものなのか。

アサシンという物騒なジョブだけど、先に様子を見に行く役目はソロでも必要だって。
私も活躍できる!と勘違いしていた。


それだけで、どうにかなるわけじゃないと気づけなかった…気づこうとしなかったのかな。


私のしたことは、犯罪だ。知らない人のところへ起きてない時間に侵入した。
盗人の疑いとか、襲撃者として突き出されたなら。冒険者の資格の剥奪と他の仕事を得るのも難しくなっただろう。たとえ何も盗んでなくても、誰も傷つけていなくても。

『そんな依頼が出るわけなく、受理する方も犯罪の疑い有り。』となってしまう。クリスさんと言ったときの受付の人は、そう言っていたのだ。私が悪いと糾弾されない理由がない。

私はそれが分かった瞬間、弟妹達は明日からどうすれば良いか?自分勝手だと思うけど、それしか考えられなくなった。父母もまだ帰ってくる便りも来ていない。“どうしよう”しか考えられなくなった。

それにしても、標的に指定されていたクリス様があの時にお茶を勧めてくれたのは。よくよく考えれば変よね。普通、いきなり部屋に来た知らない人物への対応かな?

今なら、私のためだったと思う。どう見ても襲撃で命を狙いに来たとは思えない様子だったのかな。少し落ち着いても、自分勝手な事を言ったなあ。

『弟妹を養うため稼ぎたいんです』

稼ぐ方法が冒険者じゃなくてもできたと思う。今も余裕とはいかないながらもどうにかなっている。

父母はいつ帰ってくるかわからないけど、無事だという手紙は来た。
まだ帰ってきそうにないけど、“なんとかする”と決意できた。この心持ちの違いってだいぶ違いがある。それに…

『人に頼ってしまえ』って。

そうして、乗り切った先に貰った恩や感謝を返せるようになれと。

自身も稼げるようになりたい。焦っていたのだと今ならよくわかる。簡単に稼ぎたいは、危険を伴う。
大金を稼ぎたいも、冒険者の依頼に危険はつきものだって頭で解ってたつもりだった。



すっかり日が昇るまでクリス様と話して、依頼の結果を報告しに冒険者ギルドへ向かった。依頼を受けた私と、標的とされたクリス様が一緒のが話が説明できる。

早朝ではない、あんなにゆっくりしている時刻に来たのは初めてだったな。

あの時は、襲撃依頼とされて、血の気がひくってああいう感覚で。
確かに、未遂だ。私、犯罪をしたんだ。

そう、“逆に襲われた立場だったら、文句が言えるか?”

誰も、知らない人が枕元に立っているなんて怖すぎる。私はそんな事をこの人にしてしまったんだ。クリス様が穏やかだったから、気づかなかったのか考えたくなかったのか。甘えてた。

逆の立場で考えれば、ゾッとする。
…すごく謝りたい。

それに、犯罪者だと言われて実感した。けど今は、経緯を余す事なく話すことに集中して話した。謝ってばかりじゃ来た意味がない。でも、それほど依頼について知ることはなかった。そんな中途半端に依頼を実行したんだ。

突然回された悪戯の依頼。私の隠密スキルを使ってなら簡単だと、受け取った。

その時、依頼料が良いって思ったから。…よく覚えている。

所属していたクランはもう除籍されている。失敗した、下っ端冒険者を庇う気はないんだ。
私の成績も依頼の達成も目立って良い物ないから。

いらないんだ。
そうでも冒険者を続けるなら、ギルドを敵に回したくないという気持ちを見透かされた。受付の男の態度は、お世辞にも丁寧ではなく感じが悪い。けど、正論だ。全然反論できなくて悔しかった。

だってとか、でもとか。言い訳しか出てこない。

“やらなきゃ良かったのに”
本当、どうして受けてしまったんだろう?何回そう思っても、避けられる状況が思いつかなかったけど。
選択肢があったとしても、依頼を渡されてあそこで止まれたかといえば疑問だ。私は受けていたと思う。


その反省と罪悪感にへこたれる時間より、『料理はできる?』と婦人の声で、挑戦してみる事にした。
ひと通りの手伝いはできるけど、うちは食事を買ってしまう事も多いから料理がでれば食費が助かる。



今は頼りになる先輩冒険者とお茶ができるくらい、心に余裕のある時間を過ごせている。

私のやってしまった事も話に聞いていて、『肥やしにして頑張りな!』と応援してくれる人達だ。

世間知らずだったなと思う。交渉の押しもいざとなったら弱い。弟妹になら言い聞かせられる事も、何も言えないとかあるんだな。

件のギルド員は捕まったし、もともと対応の悪い人と噂だったみたい。とくに女冒険者への当たりが悪いって。
「ああいうのは、どこにでもいるから注意!」

そういう情報を仕入れるのを怠っていた。とにかく依頼を受ければ良いって思ってて。相談する相手も分からないし、ギルドでも自己責任で終わってた。

自分から動く大事さはあるけど、検討違いの情報を集めてた。私ができる事、目指す場所とはかけ離れている。
蛇の眼というクランの下部組織とも知らなくて。

依頼料、達成、上を目指すところで男性が多い。


声をかっけられて入った。私を誘ってくれるところなんてそうないと思ったから。クランの所属という事で、回された依頼は良かったけどクランにも依頼料がいく事もあって、稼ぎが減事もあった。

その辺よくわかってなかったなって思う。


危険もあるし、受けやすい依頼というのも存在する。依頼料に釣られたせい、高いものには訳がある

今回の勉強料。今後もハニートラップめいた事をさせられないよう注意を促された。

「体力のある男冒険者を囮に行かせるくらい強くなりな!」

お姉サマ達は強い。

(これからだ)

冒険者を続ける、すぐ辞めてしまうかもしれない。怪我だっったり命を喪う危険だってある。
魔物は時に思わない事もある。


お茶をするくらい仲良くなった皆さんは、情報交換にも余念がない。私の周囲はお嫁さんとかだったから、冒険者になったら話が合わない事も多くて。

スキル頼り、一点張りだと先はない。
人当たりの良さとか、相手に威圧感を与えないのも利点と言ってもらえる。魔物相手に必要かと思ったけど、依頼者の存在がいる。その交渉は大事。

納得した。

紅茶を飲む。あの襲撃依頼の後に飲んだものより香りが強い。美味しいケーキも転じる話も麗かな町で、幸せな時間だ。


余裕のある紅茶を誰かに出せるようになりたいな。

料理を教えてもらっているお礼に、お土産に少し買っていこうと決めた。お世話になったから、クリス様にも飲んでもらえると良いな。
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