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The Over
The Over (3)
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二子玉川駅に隣接する商業施設でひとしきり買い物をして、そのまま半蔵門線直通の電車に乗り込み、日本武道館に最寄りの駅までやってくる。
ライブも開始まで残り一時間と迫った夕暮れ。すでに開場が始まっているからか、雨宮たちと同じようにHigh Twilightのライブに参戦するファンが集った駅前から日本武道館までの道のりはごった返している。
「やっぱり人気なんだなぁ……」
ろくに身動きも取れないほどの人だかりに、雨宮は苦い顔を浮かべた。
「この様子だと、次の夏のツアーじゃあ、ファンクラブ先行も厳しいかもね」
最近はCDを出せば週間オリコンでもトップ3に入るようになってきている、人気急上昇中のバンドだ。
昨年の夏にテレビCMや夕方に放映する少年漫画のオープニングを飾って以降、いろんな媒体で彼らの名前や写真を見かけるようになった。デビュー当時から応援してきた雨宮にとって、それは自分のことのように嬉しいことでもあり、けれど一方で、愛するバンドとの距離が離れていってしまっていることの証左のようでもあって。
雨宮が初めてHigh Twilightのライブにきて四年が経った。
あの頃より女性ファンが増えたのは、気のせいではないのだろう。
売れるのは時間の問題だったし、こうなるのは、勢いを鑑みれば当然だ。なんせ彼らはビジュアルもイケているし、ボーカルはハイトーンを効かせた良い声で歌詞を紡ぐ。泣ける曲も、かっこいい曲も、弾む曲も、思いのままに奏でてみせる。
それを才能というのかは分からないけれど、少なくとも、彼らの歌や演奏を生で聴きたいと渇望しているファンがこれだけいる。
心を揺さぶられた聞き手がこんなにも存在する。
開場のキャパシティを考えたら、一万人超。少なくとも、これだけ……いや、こんなにも、愛されている。
自分とはまるで違う。
誰にも愛されず、期待もされない自分とは、何もかもが。
だから、羨ましい。
同じ男としては、当然のように嫉妬する。
そう思うこと自体が傲慢で分相応なことだと分かっていても、比べずにはいられない。ああなりたいと思っても、努力しても、届かないだろうことを知っているから、余計に。
それでも純粋に、彼らに対する憧れや尊敬の念が嫉妬や劣情に勝るから、こうしてライブに来ている。
「次のライブも参戦したいなら、そろそろファンクラブに入ったらどう?」
「んー、でも、まだ一般でチケット取れてるしなぁ……」
エリナが苦笑する。
「そろそろ厳しくなるよ。いまやってる日曜夕方のアニメだってオープニングテーマになってるじゃんか。漫画はすげぇ人気なんだろ?」
「そーなんだよねぇ……。それもあるし、一般だとチケット取れても配置が悪かったりすることが増えてきたのもあるからなぁ。やっぱり真剣に考えないとかなぁ」
「悩んでる時間がもったいない。これ終わったらすぐにファンクラブ登録しなよ」
「なんかHigh Twilightの回し者みたいだね、レオ」
「そりゃあファンだからな。会員ナンバー一桁の」
「年季が入ってるねぇ……ファンクラブ会員もいまじゃ五万人だものね」
四桁に入ってからはあっという間だった。
それでも、武道館に来るまで四年かかったのだ。
ロックバンドにしては早いのか遅いのか雨宮には知りようがないが、辿り着くまでの月日は果てしなかった。振り返るとあっという間だったことも確かだけれど。その感覚は矛盾するようでいて、意外と両立してしまう。
混み合う道を、足取りを気にしながら前へと進む。見えてくる武道館を見上げながら、弾む空気をかき分ける。今か今かと開演を待ち望むファン達の熱気が開場外へと漏れてきているかのようだった。
人混みに流されてはぐれないようにと、エリナが袖を掴んでくる。
「このまま開場入っちゃう?」
もう片方の手で器用にスマホをいじくりながら尋ねてきた。
「つっても早入りし過ぎると暇になっちゃうしな」
「なら、ちょっとカフェ寄ってっていい? 知り合いがいるみたいでさ、挨拶していこうかなって」
「ふぅん」
雨宮はエリナが操作しているスマホの画面をちらりと覗いてみる。
どうやらチャットアプリで、件の友人とやらとやりとりをしているようだった。
カフェに行きたいと切り出す前から、お互いに顔合わせをしようという約束を取り付けている。
このまま開場に入ろうと提案すれば駄々をこねられるところまで想像して、エリナに聞こえないよう、雨宮はかすかな溜息を一つ。
「じゃあいくか。俺もトイレ済ませておきたいし。武道館のトイレは混むからな」
開場が始まっていることもあってか、武道館に隣接しているカフェはぽつぽつと席に空きがある程度になっていた。まだ居座っている客の多くは、似たり寄ったりのライブTシャツやジャケットを着ている。今回のツアーで販売されているもので、雨宮もエリナも、それはとっくに別開場で手に入れている代物だ。
店内で注文されたお客様のみご利用いただけます、という注意書きを無視して、雨宮は化粧室にできている列に並ぶ。
「それじゃあ、さくっと挨拶してくる」
エリナの声が弾んでいた。久しぶりに会うのだろうか、嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
「……あ、ああ」
ふと、よぎる。
もしかしたらエリナが想いを寄せているかもしれない。
ただ単に、昔からのツレなのかもしれない。
やもすると、昔付き合っていた誰かなのかもしれない。
(……なんて、男だって決めつけている時点で俺もどうかしてるよな、やっぱ)
ほぼ九割が女性になった会場で、その、残り一割のことばかり意識してしまう。
エリナのことを考えると、そういうことばかり考えてしまう。どうにも駄目だ。
男の気配くらいあってもいいはずだった。あれだけ美人で綺麗なのだし。
冷静に考えてみれば、ぱっとしない外見の俺とこうしてつるんでいること自体がおかしい。
エリナをあんな表情にさせる誰か。
気になるけれど、踏み込む勇気なんてない。
そもそもエリナと恋人でもなんでもない。友達なのかも怪しいくらいだ。
共通の趣味を持つ気の合う仲間みたいな関係で、そこから距離が進展するようなこともない。
自分の番が回ってきたので、化粧室に入って、用を済ませる。手を洗いながら、沿面台で鏡に映った自分の姿をまじまじと見つめた。
決して不細工ではないけれどパッとしない顔。適当に整えた髪はやはりどこか野暮ったくて洒落っ気は微塵もない。普段とは気分を変えるために履くハイヒールブーツのおかげか、見える世界は少しだけ違うけれど、自分は何一つ変わっていない。
この思考回路も含めて、あの頃からずっと陰気なまま。
「どうして、エリナは俺に構ってくるんだろうな……」
自然と漏れた問いが鏡に反響する。そしてすぐに、我に返る。
気付けば、また迷路の中にいた。
「……こんなこと考えてる場合じゃねぇ」
思考を切って現実に戻り、飛び出すように化粧室を出る。
店内を一瞥する。キャパシティもない店の中はさっきよりも閑散としている。
だから、すぐに見つかると思ったのに、エリナはどこにもいなかった。
「あいつ、どこいったんだよ……っ」
チャットアプリを立ち上げて、エリナから連絡が入っていないかを確認する。連絡はない。
どこにいる、とだけ簡潔に打って、送信。そのまま店を出る。
夕暮れどきの日本武道館。
会場に入るために列を成す女性のほとんどは髪を染めている。
ぱっと見では他人とエリナを識別できない。たまらず、電話を掛ける。けれど、応答する気配は少しもない。
入場するにはチケットが必要だ。そして、それはもう今では電子チケットになっていて、二枚分のチケット情報は雨宮のスマートフォンのなかにある。エリナは雨宮と一緒でなければ日本武道館に入れない。それはあっちも分かっているはずなのだけれど。
再びメッセージを送る。カフェを出たところで待ってるから戻ってこい、とだけ連絡を入れて、待つことにする。
それから十分後、平然とした顔でエリナが戻ってきた。
「いやぁ、ごめん。久々にあったら色々と積もる話があって、弾んじゃった」
息を切らして掛けてくるエリナ。悪びれた様子は少しも感じられない。
流石に腹が立つ。
「マジでほんと、心配したんだけど。連絡も寄越さないし」
「だからごめんってば。さすがに悪かったって思ってるよ」
「本当にか?」
「……や、やだなぁ。そんなに疑う? でも、本当に久しぶりだったんだって、こうして会うのはさ。だから、少しくらいは多めに見てよ」
凄んだからか、エリナが少しだけ縮こまって、申し訳なさそうに軽く頭を下げた。ここまでするなら、まぁ許そうという気になる。
「……で、親睦は暖まったのか?」
「ん……まぁ、そうだね。お互い驚くことはあった、かな」
「変なことされてないならいいけど」
「勘違いとか勘弁してよ。会ってきたのは同性で、男じゃないから。安心していいよ」
「…………あ、そう」
「どうせ男だと思ってたんでしょ? じゃなかったらそんな不機嫌になるはずないもんね」
「……悪かったな。疑って」
「前もってきちんと白状してなかったアタシにも悪いとこあるから責めたりはしないよ。それじゃあ行こっか」
もう必要なんてないのに、エリナは雨宮の左袖を掴んで、ぐいぐいと先を行く。
雨宮は引っ張られるがままに、熱気の篭もった会場へと入った。
入口付近のがやがやとした人だかりを抜けて、アリーナへ。第二ブロックの最前中央。演奏を聴くには最もいい場所。数分後に浮かび上がる絶景を想像するだけで血潮がうずく。心臓の高鳴りが耳元に谺している。
「おー、ここ凄いねぇ。ステージ全部見えるじゃん。やばくないっ!?」
隣ではしゃぐエリナの声がはしゃいでいる。
「いや、これ、マジでヤバイでしょ。ぶち上がるじゃん」
「ならファンクラブ入れよ、エリナも。この辺りはファンクラブじゃないと取れないぞ」
「分かった。これは入る。この光景を拝めるなら、入らない選択肢ないし」
言いながら、二人揃って準備を始める。ペットボトルのポカリを二本取り出して椅子の下に置き、ライブ用のタオルを肩に掛ける。エリナは長い髪を後ろでひとくくりにするため、手首につけていたシュシュで髪を束ねてポニーテールに。
そうこうしているうちに、Hight Twilight恒例の開演カウントダウンが始まって。
十秒前――、五秒前――、
「「四、三、二、一――ッ!」」
観客が一斉に甲高い声を上げると同時、音と光の荒波が雨宮たちを一気に飲み込んだ。
ライブも開始まで残り一時間と迫った夕暮れ。すでに開場が始まっているからか、雨宮たちと同じようにHigh Twilightのライブに参戦するファンが集った駅前から日本武道館までの道のりはごった返している。
「やっぱり人気なんだなぁ……」
ろくに身動きも取れないほどの人だかりに、雨宮は苦い顔を浮かべた。
「この様子だと、次の夏のツアーじゃあ、ファンクラブ先行も厳しいかもね」
最近はCDを出せば週間オリコンでもトップ3に入るようになってきている、人気急上昇中のバンドだ。
昨年の夏にテレビCMや夕方に放映する少年漫画のオープニングを飾って以降、いろんな媒体で彼らの名前や写真を見かけるようになった。デビュー当時から応援してきた雨宮にとって、それは自分のことのように嬉しいことでもあり、けれど一方で、愛するバンドとの距離が離れていってしまっていることの証左のようでもあって。
雨宮が初めてHigh Twilightのライブにきて四年が経った。
あの頃より女性ファンが増えたのは、気のせいではないのだろう。
売れるのは時間の問題だったし、こうなるのは、勢いを鑑みれば当然だ。なんせ彼らはビジュアルもイケているし、ボーカルはハイトーンを効かせた良い声で歌詞を紡ぐ。泣ける曲も、かっこいい曲も、弾む曲も、思いのままに奏でてみせる。
それを才能というのかは分からないけれど、少なくとも、彼らの歌や演奏を生で聴きたいと渇望しているファンがこれだけいる。
心を揺さぶられた聞き手がこんなにも存在する。
開場のキャパシティを考えたら、一万人超。少なくとも、これだけ……いや、こんなにも、愛されている。
自分とはまるで違う。
誰にも愛されず、期待もされない自分とは、何もかもが。
だから、羨ましい。
同じ男としては、当然のように嫉妬する。
そう思うこと自体が傲慢で分相応なことだと分かっていても、比べずにはいられない。ああなりたいと思っても、努力しても、届かないだろうことを知っているから、余計に。
それでも純粋に、彼らに対する憧れや尊敬の念が嫉妬や劣情に勝るから、こうしてライブに来ている。
「次のライブも参戦したいなら、そろそろファンクラブに入ったらどう?」
「んー、でも、まだ一般でチケット取れてるしなぁ……」
エリナが苦笑する。
「そろそろ厳しくなるよ。いまやってる日曜夕方のアニメだってオープニングテーマになってるじゃんか。漫画はすげぇ人気なんだろ?」
「そーなんだよねぇ……。それもあるし、一般だとチケット取れても配置が悪かったりすることが増えてきたのもあるからなぁ。やっぱり真剣に考えないとかなぁ」
「悩んでる時間がもったいない。これ終わったらすぐにファンクラブ登録しなよ」
「なんかHigh Twilightの回し者みたいだね、レオ」
「そりゃあファンだからな。会員ナンバー一桁の」
「年季が入ってるねぇ……ファンクラブ会員もいまじゃ五万人だものね」
四桁に入ってからはあっという間だった。
それでも、武道館に来るまで四年かかったのだ。
ロックバンドにしては早いのか遅いのか雨宮には知りようがないが、辿り着くまでの月日は果てしなかった。振り返るとあっという間だったことも確かだけれど。その感覚は矛盾するようでいて、意外と両立してしまう。
混み合う道を、足取りを気にしながら前へと進む。見えてくる武道館を見上げながら、弾む空気をかき分ける。今か今かと開演を待ち望むファン達の熱気が開場外へと漏れてきているかのようだった。
人混みに流されてはぐれないようにと、エリナが袖を掴んでくる。
「このまま開場入っちゃう?」
もう片方の手で器用にスマホをいじくりながら尋ねてきた。
「つっても早入りし過ぎると暇になっちゃうしな」
「なら、ちょっとカフェ寄ってっていい? 知り合いがいるみたいでさ、挨拶していこうかなって」
「ふぅん」
雨宮はエリナが操作しているスマホの画面をちらりと覗いてみる。
どうやらチャットアプリで、件の友人とやらとやりとりをしているようだった。
カフェに行きたいと切り出す前から、お互いに顔合わせをしようという約束を取り付けている。
このまま開場に入ろうと提案すれば駄々をこねられるところまで想像して、エリナに聞こえないよう、雨宮はかすかな溜息を一つ。
「じゃあいくか。俺もトイレ済ませておきたいし。武道館のトイレは混むからな」
開場が始まっていることもあってか、武道館に隣接しているカフェはぽつぽつと席に空きがある程度になっていた。まだ居座っている客の多くは、似たり寄ったりのライブTシャツやジャケットを着ている。今回のツアーで販売されているもので、雨宮もエリナも、それはとっくに別開場で手に入れている代物だ。
店内で注文されたお客様のみご利用いただけます、という注意書きを無視して、雨宮は化粧室にできている列に並ぶ。
「それじゃあ、さくっと挨拶してくる」
エリナの声が弾んでいた。久しぶりに会うのだろうか、嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
「……あ、ああ」
ふと、よぎる。
もしかしたらエリナが想いを寄せているかもしれない。
ただ単に、昔からのツレなのかもしれない。
やもすると、昔付き合っていた誰かなのかもしれない。
(……なんて、男だって決めつけている時点で俺もどうかしてるよな、やっぱ)
ほぼ九割が女性になった会場で、その、残り一割のことばかり意識してしまう。
エリナのことを考えると、そういうことばかり考えてしまう。どうにも駄目だ。
男の気配くらいあってもいいはずだった。あれだけ美人で綺麗なのだし。
冷静に考えてみれば、ぱっとしない外見の俺とこうしてつるんでいること自体がおかしい。
エリナをあんな表情にさせる誰か。
気になるけれど、踏み込む勇気なんてない。
そもそもエリナと恋人でもなんでもない。友達なのかも怪しいくらいだ。
共通の趣味を持つ気の合う仲間みたいな関係で、そこから距離が進展するようなこともない。
自分の番が回ってきたので、化粧室に入って、用を済ませる。手を洗いながら、沿面台で鏡に映った自分の姿をまじまじと見つめた。
決して不細工ではないけれどパッとしない顔。適当に整えた髪はやはりどこか野暮ったくて洒落っ気は微塵もない。普段とは気分を変えるために履くハイヒールブーツのおかげか、見える世界は少しだけ違うけれど、自分は何一つ変わっていない。
この思考回路も含めて、あの頃からずっと陰気なまま。
「どうして、エリナは俺に構ってくるんだろうな……」
自然と漏れた問いが鏡に反響する。そしてすぐに、我に返る。
気付けば、また迷路の中にいた。
「……こんなこと考えてる場合じゃねぇ」
思考を切って現実に戻り、飛び出すように化粧室を出る。
店内を一瞥する。キャパシティもない店の中はさっきよりも閑散としている。
だから、すぐに見つかると思ったのに、エリナはどこにもいなかった。
「あいつ、どこいったんだよ……っ」
チャットアプリを立ち上げて、エリナから連絡が入っていないかを確認する。連絡はない。
どこにいる、とだけ簡潔に打って、送信。そのまま店を出る。
夕暮れどきの日本武道館。
会場に入るために列を成す女性のほとんどは髪を染めている。
ぱっと見では他人とエリナを識別できない。たまらず、電話を掛ける。けれど、応答する気配は少しもない。
入場するにはチケットが必要だ。そして、それはもう今では電子チケットになっていて、二枚分のチケット情報は雨宮のスマートフォンのなかにある。エリナは雨宮と一緒でなければ日本武道館に入れない。それはあっちも分かっているはずなのだけれど。
再びメッセージを送る。カフェを出たところで待ってるから戻ってこい、とだけ連絡を入れて、待つことにする。
それから十分後、平然とした顔でエリナが戻ってきた。
「いやぁ、ごめん。久々にあったら色々と積もる話があって、弾んじゃった」
息を切らして掛けてくるエリナ。悪びれた様子は少しも感じられない。
流石に腹が立つ。
「マジでほんと、心配したんだけど。連絡も寄越さないし」
「だからごめんってば。さすがに悪かったって思ってるよ」
「本当にか?」
「……や、やだなぁ。そんなに疑う? でも、本当に久しぶりだったんだって、こうして会うのはさ。だから、少しくらいは多めに見てよ」
凄んだからか、エリナが少しだけ縮こまって、申し訳なさそうに軽く頭を下げた。ここまでするなら、まぁ許そうという気になる。
「……で、親睦は暖まったのか?」
「ん……まぁ、そうだね。お互い驚くことはあった、かな」
「変なことされてないならいいけど」
「勘違いとか勘弁してよ。会ってきたのは同性で、男じゃないから。安心していいよ」
「…………あ、そう」
「どうせ男だと思ってたんでしょ? じゃなかったらそんな不機嫌になるはずないもんね」
「……悪かったな。疑って」
「前もってきちんと白状してなかったアタシにも悪いとこあるから責めたりはしないよ。それじゃあ行こっか」
もう必要なんてないのに、エリナは雨宮の左袖を掴んで、ぐいぐいと先を行く。
雨宮は引っ張られるがままに、熱気の篭もった会場へと入った。
入口付近のがやがやとした人だかりを抜けて、アリーナへ。第二ブロックの最前中央。演奏を聴くには最もいい場所。数分後に浮かび上がる絶景を想像するだけで血潮がうずく。心臓の高鳴りが耳元に谺している。
「おー、ここ凄いねぇ。ステージ全部見えるじゃん。やばくないっ!?」
隣ではしゃぐエリナの声がはしゃいでいる。
「いや、これ、マジでヤバイでしょ。ぶち上がるじゃん」
「ならファンクラブ入れよ、エリナも。この辺りはファンクラブじゃないと取れないぞ」
「分かった。これは入る。この光景を拝めるなら、入らない選択肢ないし」
言いながら、二人揃って準備を始める。ペットボトルのポカリを二本取り出して椅子の下に置き、ライブ用のタオルを肩に掛ける。エリナは長い髪を後ろでひとくくりにするため、手首につけていたシュシュで髪を束ねてポニーテールに。
そうこうしているうちに、Hight Twilight恒例の開演カウントダウンが始まって。
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