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黒塊
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私は洞窟の中をゆく。
進んでは気絶し、また進んでは気絶する。
さながらゾンビである。
人間だった頃にこれほどの頻度で気絶を繰り返そうものなら心身ともにズタボロになっていたに違いないが、この体になったおかげかなにも感じない。
気絶するごとに動きがスムーズになるのだからむしろ望むところである。
このまま加速し続けて戦闘機のようになってやろうかと意気込んだがそううまくもいかないようだ。
気絶するごとに次の気絶までの間隔が長くなるからである。少し残念な気もしたがまともに動けるようになったのだからこの際贅沢は言うまい。
しかし睡眠を必要としないのに無意識下で成長するとは、なんとも不可思議というか、、、不便な体である。
暗闇の中を進み続ける私の状況に変化が起こった。
それは唐突に降って湧いて、、いや、ここは単に降ってきたと言うべきだろう。
突如として洞窟の天井に亀裂が入り、そこから硝子片のように鋭利な光の束が漏れ出て、私の体を貫いた。
驚くことも、ましてやこの体になってから初めて感じる光を堪能する間もなく、大量の瓦礫がこの体目掛けて降り注ぐ。
降りそそいだのはそれだけではない。
瓦礫の中に何やら弾力のある”黒い塊”が混じっていた。
それが果たして何であるかを理解するよりも早く体に衝撃が走る。
それは黒い塊に触れている部分から、鳥肌が立つかのように全身を伝播する。
しかしこれは嫌悪感からくるものではない。
むしろ高揚、歓喜。
私の体はかつてないほどの悦びに打ちひしがれていた。
この時を待っていたと言わんばかりに私の体は黒い塊にあつまりそれをすっぽりと覆い隠してしまう。
私がそのようにしているわけではない。
体が勝手に動くのだ。
そこでようやく”それ”の正体に気づく。
丸々と膨らんだ胴体から伸びる8本の足。
そしてきゅるんとつぶらな8個の目。
そう、蜘蛛である。
気づいた瞬間に全身に衝撃が走る。
これは嫌悪感からくるものである。
よりにもよって蜘蛛とは。
私は虫が苦手だ。
何を隠そう、その原因となったのがこの蜘蛛なのである。
そう、あれは私が小学生のころだ。夏休み、家族で田舎にある祖母の家に泊まりに行った。
私は一人で寝ていたのだが、夜中にふと目が覚めてしまった。
多少の尿意を感じたが、酷い眠気が意識にこびり付いていて、体を起こす気にもならなかった。
トイレへ行くか、いや、もうこのまま寝てしまおうか。
そんなことを考えていると、薄暗闇の向こうに見える天井に黒いシミがあるのに気付いた。
慣れない場所で寝るとき、天井のシミなんかがやけに気になることがある。
その時の私もそうだった。しかし、寝る前にあんなシミはあっただろうか。
一度気になると、思考が巡り、意識もだんだんと冴えてくる。
もはやしょうがない。目を擦り、天井の”それ”に焦点を合わせる。
それは蜘蛛だった。それも人の手のひらほどもある。
見たこともないその大きさに驚く間もなく、。
ペチッ。
柔らかく、かさかさとした感触が顔にあたった。
それが何であるかなど言うまでもない。
全身に鳥肌が立った。
それは私の頬を伝い床へ降りると、何事もなかったかのように開いている窓から外へと出て行った。
声も出なかった。
以来私は虫嫌いとなった。
咄嗟に離れようとするが離れない。
それどころか、蜘蛛の体にピッタリとくっついて塊だしたではないか。
動揺する私を置き去りにして、ほんの10秒ほどで気体だった私の体はすっかり蜘蛛の姿になってしまった。
なんたることか。
訳もわからぬまま黒い靄のようにされた私は、こうしてまた訳もわからぬまま蜘蛛として生きていくことを余儀なくされるのである。
なにゆえに。
ああ、なにゆえに。
進んでは気絶し、また進んでは気絶する。
さながらゾンビである。
人間だった頃にこれほどの頻度で気絶を繰り返そうものなら心身ともにズタボロになっていたに違いないが、この体になったおかげかなにも感じない。
気絶するごとに動きがスムーズになるのだからむしろ望むところである。
このまま加速し続けて戦闘機のようになってやろうかと意気込んだがそううまくもいかないようだ。
気絶するごとに次の気絶までの間隔が長くなるからである。少し残念な気もしたがまともに動けるようになったのだからこの際贅沢は言うまい。
しかし睡眠を必要としないのに無意識下で成長するとは、なんとも不可思議というか、、、不便な体である。
暗闇の中を進み続ける私の状況に変化が起こった。
それは唐突に降って湧いて、、いや、ここは単に降ってきたと言うべきだろう。
突如として洞窟の天井に亀裂が入り、そこから硝子片のように鋭利な光の束が漏れ出て、私の体を貫いた。
驚くことも、ましてやこの体になってから初めて感じる光を堪能する間もなく、大量の瓦礫がこの体目掛けて降り注ぐ。
降りそそいだのはそれだけではない。
瓦礫の中に何やら弾力のある”黒い塊”が混じっていた。
それが果たして何であるかを理解するよりも早く体に衝撃が走る。
それは黒い塊に触れている部分から、鳥肌が立つかのように全身を伝播する。
しかしこれは嫌悪感からくるものではない。
むしろ高揚、歓喜。
私の体はかつてないほどの悦びに打ちひしがれていた。
この時を待っていたと言わんばかりに私の体は黒い塊にあつまりそれをすっぽりと覆い隠してしまう。
私がそのようにしているわけではない。
体が勝手に動くのだ。
そこでようやく”それ”の正体に気づく。
丸々と膨らんだ胴体から伸びる8本の足。
そしてきゅるんとつぶらな8個の目。
そう、蜘蛛である。
気づいた瞬間に全身に衝撃が走る。
これは嫌悪感からくるものである。
よりにもよって蜘蛛とは。
私は虫が苦手だ。
何を隠そう、その原因となったのがこの蜘蛛なのである。
そう、あれは私が小学生のころだ。夏休み、家族で田舎にある祖母の家に泊まりに行った。
私は一人で寝ていたのだが、夜中にふと目が覚めてしまった。
多少の尿意を感じたが、酷い眠気が意識にこびり付いていて、体を起こす気にもならなかった。
トイレへ行くか、いや、もうこのまま寝てしまおうか。
そんなことを考えていると、薄暗闇の向こうに見える天井に黒いシミがあるのに気付いた。
慣れない場所で寝るとき、天井のシミなんかがやけに気になることがある。
その時の私もそうだった。しかし、寝る前にあんなシミはあっただろうか。
一度気になると、思考が巡り、意識もだんだんと冴えてくる。
もはやしょうがない。目を擦り、天井の”それ”に焦点を合わせる。
それは蜘蛛だった。それも人の手のひらほどもある。
見たこともないその大きさに驚く間もなく、。
ペチッ。
柔らかく、かさかさとした感触が顔にあたった。
それが何であるかなど言うまでもない。
全身に鳥肌が立った。
それは私の頬を伝い床へ降りると、何事もなかったかのように開いている窓から外へと出て行った。
声も出なかった。
以来私は虫嫌いとなった。
咄嗟に離れようとするが離れない。
それどころか、蜘蛛の体にピッタリとくっついて塊だしたではないか。
動揺する私を置き去りにして、ほんの10秒ほどで気体だった私の体はすっかり蜘蛛の姿になってしまった。
なんたることか。
訳もわからぬまま黒い靄のようにされた私は、こうしてまた訳もわからぬまま蜘蛛として生きていくことを余儀なくされるのである。
なにゆえに。
ああ、なにゆえに。
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