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出逢い
始まる。
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後悔先に立たず。既に終わったことをいくら後に悔やんでも取り返しがつかないということ。
何度後悔しただろうか。あの時ああしていれば、こうだったら。思い返せば幾らでも出てくる。
あの時もそうだった。俺がもし母さんの隣にいれば、これからも幸せに暮らしていけたかもしれない。あの子の手を離していなければ、もしかしたらーーー。
【出逢い】
嫌な夢を見た。
スマートフォンのアラーム、窓から射し込む太陽の光、熱を持った体。全てが俺を眠りから呼び戻す。
「もう、こんな時間」如月天の頬に汗が伝う。
天は起き上がると布団を畳み、タンスを漁り、シャワーを浴びる。毎日の繰り返しによって慣れ親しんだ動作だ。
「少し伸びてきたな」鏡の前でドライヤーをする天が呟く。髪を乾かせ、私服に着替える。黒のスキニーパンツ、黒のTシャツの中に白のレイヤード。どこにでも居る、普通の大学生だ。
八時五十分。いつも同じ時間に家を出て、天の家の前で待っている幼馴染と挨拶を交わす
ーーーいない。違う、居るのは幼馴染じゃなく、小さい女の子だ。それも普通じゃない、羽だ。羽が付いている。いや、生えているのか。
はっ、と天は自分がまだ夢でも見ているのではないかと鼻で笑った。天は目を合わせず大学へと向かおうとした。
「ねえ! 見えてるんでしょ!」羽の生えた小さい女の子は天に向かって叫んだ。
天はすぐに振り返り、言葉を出せずにいた。人間は自分の理解の範疇を超えると固まるようだ。
「え、私の姿が見えてるのにリアクションはないの!?」
自分を見て何も言わずにその場を去ろうとした天に女の子は少し驚いた様子を見せる。
「だって、現実に羽の生えた女の子なんて…」幼馴染でも通行人でもなく、羽の生えた女の子。その子が自分に向かって話しかけている。天の脳内はパンクしていた。
「はぁ…私の名前はソフィア。天使よ。貴方は私に選ばれたのだから、感謝しなさい! キサラギソラ!」
ソフィアは高々に声を上げ、満面の笑みで天を見つめる。
「え、選ばれた? 一体何にだよ! 人体実験でもするつもりなのかよ!」
太陽からの熱、額から噴き出る汗、天使が知っている俺の名前、夢にしてはリアルすぎる。現実だ。ツッコミどころ満載だが、夢なんかじゃない。
「まぁ半分正解で半分勘違いかしらね。ソラにはこれから一つの道具を差し上げましょう!」
そう言うとソフィアは徐に丸い珠を出して見せた。
「なんだそれ、ただの玉じゃないか。そんなんじゃ人体実験も何もないだろ」
天は多少の期待を裏切られた気持ちで肩を落とした。
「まだ決めつけるのは早いわ。これは点と点を繋ぐもの。ゲームで言うところのセーブとロードができる神器ね。これを貴方にあげるから、世界を幸せにしなさい!」
そう言うとソフィアは半ば強引に天に珠を渡し、笑顔で手を振って消えた。
力が抜けた。天は道路に腰を落とし、珠を見つめた。
「点と点を繋ぐもの…。いや、使い方とか何も聞いてねーよ! おいソフィア! 出てこい!」
騒いでいるのとは裏腹に、内心は混乱し、ざわつきを感じていた。本当にセーブとロードができるのであれば、この先の人生でするであろう『後悔』が無くなるのではないか。自分の理想、欲望を全て実現できるのではないか。そしてーーー
世界で一番の悲劇を目の当たりにするのではないか。
何度後悔しただろうか。あの時ああしていれば、こうだったら。思い返せば幾らでも出てくる。
あの時もそうだった。俺がもし母さんの隣にいれば、これからも幸せに暮らしていけたかもしれない。あの子の手を離していなければ、もしかしたらーーー。
【出逢い】
嫌な夢を見た。
スマートフォンのアラーム、窓から射し込む太陽の光、熱を持った体。全てが俺を眠りから呼び戻す。
「もう、こんな時間」如月天の頬に汗が伝う。
天は起き上がると布団を畳み、タンスを漁り、シャワーを浴びる。毎日の繰り返しによって慣れ親しんだ動作だ。
「少し伸びてきたな」鏡の前でドライヤーをする天が呟く。髪を乾かせ、私服に着替える。黒のスキニーパンツ、黒のTシャツの中に白のレイヤード。どこにでも居る、普通の大学生だ。
八時五十分。いつも同じ時間に家を出て、天の家の前で待っている幼馴染と挨拶を交わす
ーーーいない。違う、居るのは幼馴染じゃなく、小さい女の子だ。それも普通じゃない、羽だ。羽が付いている。いや、生えているのか。
はっ、と天は自分がまだ夢でも見ているのではないかと鼻で笑った。天は目を合わせず大学へと向かおうとした。
「ねえ! 見えてるんでしょ!」羽の生えた小さい女の子は天に向かって叫んだ。
天はすぐに振り返り、言葉を出せずにいた。人間は自分の理解の範疇を超えると固まるようだ。
「え、私の姿が見えてるのにリアクションはないの!?」
自分を見て何も言わずにその場を去ろうとした天に女の子は少し驚いた様子を見せる。
「だって、現実に羽の生えた女の子なんて…」幼馴染でも通行人でもなく、羽の生えた女の子。その子が自分に向かって話しかけている。天の脳内はパンクしていた。
「はぁ…私の名前はソフィア。天使よ。貴方は私に選ばれたのだから、感謝しなさい! キサラギソラ!」
ソフィアは高々に声を上げ、満面の笑みで天を見つめる。
「え、選ばれた? 一体何にだよ! 人体実験でもするつもりなのかよ!」
太陽からの熱、額から噴き出る汗、天使が知っている俺の名前、夢にしてはリアルすぎる。現実だ。ツッコミどころ満載だが、夢なんかじゃない。
「まぁ半分正解で半分勘違いかしらね。ソラにはこれから一つの道具を差し上げましょう!」
そう言うとソフィアは徐に丸い珠を出して見せた。
「なんだそれ、ただの玉じゃないか。そんなんじゃ人体実験も何もないだろ」
天は多少の期待を裏切られた気持ちで肩を落とした。
「まだ決めつけるのは早いわ。これは点と点を繋ぐもの。ゲームで言うところのセーブとロードができる神器ね。これを貴方にあげるから、世界を幸せにしなさい!」
そう言うとソフィアは半ば強引に天に珠を渡し、笑顔で手を振って消えた。
力が抜けた。天は道路に腰を落とし、珠を見つめた。
「点と点を繋ぐもの…。いや、使い方とか何も聞いてねーよ! おいソフィア! 出てこい!」
騒いでいるのとは裏腹に、内心は混乱し、ざわつきを感じていた。本当にセーブとロードができるのであれば、この先の人生でするであろう『後悔』が無くなるのではないか。自分の理想、欲望を全て実現できるのではないか。そしてーーー
世界で一番の悲劇を目の当たりにするのではないか。
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