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本編 〜ロイ視点〜
その後
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穏やかに微笑んでいたレイは、いつの間にか顔をしかめ、今にも泣きそうな目をしていた。
(だと、したら……だとしたら僕は、レイをそんな中一人にしてしまった……?レイを、誰よりも大切なレイを、一人に……)
「っ、ごめん……そんなつもり、じゃ」
「わかってる。
ごめんね。責めるつもりじゃなかったんだけど」
一通り言い切り、ようやく心に余裕が持てたのか、レイは顔を和らげネクタイを離して立ち上がった。
「うん、でも」
(それでも僕のしたことに変わりはない)
「だから」
理央の声に重ねるようにして発せられたレイの言葉に、理央は俯きかけていた顔を上げた。
「ロイ、今世でも一緒にいて。もう二度と、勝手にいなくならないで」
穏やかに微笑んでいるように見えるレイは、よく見るとその瞳の奥にまだ絶望が燻っていて。
「……わかった」
それをレイにさせたのは自分だと先程理解したばかりの理央は、どうしようもなく悲しく、申し訳なくなる。一人置いていってしまったレイを思うと、昏い感情が理央の胸を占めた。
「大丈夫、もう勝手にいなくならない。離れないから」
(絶対に、もう二度と前世みたいなことにはしない。もう、置いていかないから)
だから笑ってよ。安心して、泣いていいから、そんな顔しないで。
レイの絶望はきっと、消え去ってもトラウマとして残ってしまうだろうけれど、ここには理央がいるのだから。もう一人じゃないのだから、レイにはその絶望をいつまでも抱えてほしくはなかった。
前世、いつもしていたように、レイの頭をゆっくりと撫でる。
その仕草でやっと安心できたのか、レイは瞳を潤ませふにゃっと笑ってくれた。
(……可愛い)
先程までの重い空気はどこへやら、理央は心の中でそう思わず呟く。
「そうだ、レイ。レイの今世でのこと教えてよ。僕のことも教えるから」
「……うん」
グスッと鼻をすすり、レイは少し照れたように俯いた。
「じゃあ、まずは名前を教えてよ。
僕は薄理央。レイは?」
「梶谷玲。高校一年だよ。
ロイ……理央って名前違う」
「レイは玲のままなんだね?」
ふふっとお互い笑い合いながら、地面に書いて名前を教え合う。
「理央って何年なの?新入生?それとも先輩?というよりも、その制服同じ学校だよね?誰かに借りたとかじゃないよね?」
「ふふっ、もちろん違うよ。前世と変わらず、玲のひとつ上で高2だから、僕、玲の先輩だね?」
「……理央先輩?それとも薄先輩?」
そう言う玲は、凄く微妙な顔をしている。先輩と言われた理央も、どこかしっくりこない顔をして玲と見つめ合った。
「……」
「……なんか変な感じ」
「そうだね……」
前世ではずっとロイと呼び捨てられていた反動なのか。
再び無言で見つめ合って十数秒。
「理央でいいよ」
「うん、私も玲でいいよ」
結局前世と変わらず、呼び捨てというところに落ち着いた。
「あ、そうだった。玲、返事聞かせてよ」
前世手紙に書いた告白を唐突に思い出した理央は、これまた唐突に玲に聞いた。
振られない自信は一応ある。ロイはレイの光だったと言うし、レイからの好意をもちろん感じ取っていた。
(なんというか、その……レイからの好意はとてもわかりやすかったから…うん…)
「返事……?」
何のことを言われているのかさっぱり分からないといった様子で、玲は首を傾げる。実際、理央は大事な部分を忘れているので、玲には全くと言っていいほど伝わっていなかった。
「ほら、遺書に書いたでしょ?レイが好きだって」
「あ……!!えっと…それは……その……」
(この様子じゃ、すっかり忘れ去られてたな……。あれでも、それなりに勇気必要だったのに)
思わず苦笑し、玲を眺めた。
玲は慌てふためき、目をキョロキョロと動かしている。
「あ、あれ、今世にも続くの!?」
「もちろん」
「いや、でも……ほ、ほら、いくら私たち生まれ変わりでも、今世と前世は違うでしょ!?見た目だって違うし、性格とかだってきっと……!!」
「見た目とかはともかく、性格は変わってない自信あるけど?今世で玲と話したのはまだ今日が初めてだし、特別何かを知れたということはないけど、話した限りだと玲だってそうだよね?」
「あ、う、いや、そんなわけ……」
駄目押しとばかりに、それとも僕の性格は好きじゃなかったの?としゅんとしてみせると、玲は反論もまともに出せずに押し黙った。
そしてチラッとこちらを見てくるので、理央はん?と笑顔で首を傾げた。瞬間、玲はガックリと肩を落としたのだった。
「はい……理央が好きです。何なら理央に一目惚れしたんだから、さっさともらってください」
「うん!もちろん、そのつもりだよ?
でも玲、あっさり吐いたね?僕としてはもうちょっとかかっても良かったけど」
思ったよりも簡単に落ちてきたことに驚いたけれど、結果早く手に入れられたと理央は顔を緩ませた。
(玲ならもう少し時間かかると思ってたんだけど……まあいっか。それよりも、どうしよう。今顔がかなり緩んでいる自覚ある)
「だって時間の無駄でしょう?それに誤魔化してキョドって誤魔化してってしても、どうせ理央を好きなのは変わらないもん。いつかは吐かされるでしょう。
だから私としては、さっさと好きだと吐いて、その空いた時間に理央とのんびり過ごすのが理想」
「それもそうだけれど」
キリッとした顔でそう言う玲に、ロイはああ、こういう人だったなと、苦笑し手を差し出した。
「一緒に帰ろう。送るから」
「……うん!!」
前世も合わせて、玲と帰るのは初めてのことだ。
理央はそのことに気付き、玲といつでも堂々と会うことができるのだと、顔をほころばせた。
◆ ◆ ◆
「ねえ、理央」
「ん?何?」
「今世では、絶対私をおいていかないでね」
「もちろん」
「ほんとに?事故…はまあ仕方ないとして、病気…も仕方ないとして、天寿…もまあいいとして、それ以外で死ぬときは私も連れて逝ってね」
「わかってるよ。安心して。事故は唐突だから無理かもだけど、病気や天寿のときだって、少しでも体力あるなら連れて逝くから」
「ほんと?ならいいや。事故のときは私も即後を追うし。
でも、もし私が同じようになったらどうするの?」
「その時も僕が病気や天寿なんかよりも先に殺すから、安心していいよ。事故のときはもちろん、僕も後を追うからね」
「…ふふ」
「どうしたの?」
「なんでもないっ!!」
「玲」
「ん~?」
「大好きだよ」
「えへへー、私も理央大好き!!」
「今度は絶対に離さない。病気にだって、神様にだって渡さないから」
(だと、したら……だとしたら僕は、レイをそんな中一人にしてしまった……?レイを、誰よりも大切なレイを、一人に……)
「っ、ごめん……そんなつもり、じゃ」
「わかってる。
ごめんね。責めるつもりじゃなかったんだけど」
一通り言い切り、ようやく心に余裕が持てたのか、レイは顔を和らげネクタイを離して立ち上がった。
「うん、でも」
(それでも僕のしたことに変わりはない)
「だから」
理央の声に重ねるようにして発せられたレイの言葉に、理央は俯きかけていた顔を上げた。
「ロイ、今世でも一緒にいて。もう二度と、勝手にいなくならないで」
穏やかに微笑んでいるように見えるレイは、よく見るとその瞳の奥にまだ絶望が燻っていて。
「……わかった」
それをレイにさせたのは自分だと先程理解したばかりの理央は、どうしようもなく悲しく、申し訳なくなる。一人置いていってしまったレイを思うと、昏い感情が理央の胸を占めた。
「大丈夫、もう勝手にいなくならない。離れないから」
(絶対に、もう二度と前世みたいなことにはしない。もう、置いていかないから)
だから笑ってよ。安心して、泣いていいから、そんな顔しないで。
レイの絶望はきっと、消え去ってもトラウマとして残ってしまうだろうけれど、ここには理央がいるのだから。もう一人じゃないのだから、レイにはその絶望をいつまでも抱えてほしくはなかった。
前世、いつもしていたように、レイの頭をゆっくりと撫でる。
その仕草でやっと安心できたのか、レイは瞳を潤ませふにゃっと笑ってくれた。
(……可愛い)
先程までの重い空気はどこへやら、理央は心の中でそう思わず呟く。
「そうだ、レイ。レイの今世でのこと教えてよ。僕のことも教えるから」
「……うん」
グスッと鼻をすすり、レイは少し照れたように俯いた。
「じゃあ、まずは名前を教えてよ。
僕は薄理央。レイは?」
「梶谷玲。高校一年だよ。
ロイ……理央って名前違う」
「レイは玲のままなんだね?」
ふふっとお互い笑い合いながら、地面に書いて名前を教え合う。
「理央って何年なの?新入生?それとも先輩?というよりも、その制服同じ学校だよね?誰かに借りたとかじゃないよね?」
「ふふっ、もちろん違うよ。前世と変わらず、玲のひとつ上で高2だから、僕、玲の先輩だね?」
「……理央先輩?それとも薄先輩?」
そう言う玲は、凄く微妙な顔をしている。先輩と言われた理央も、どこかしっくりこない顔をして玲と見つめ合った。
「……」
「……なんか変な感じ」
「そうだね……」
前世ではずっとロイと呼び捨てられていた反動なのか。
再び無言で見つめ合って十数秒。
「理央でいいよ」
「うん、私も玲でいいよ」
結局前世と変わらず、呼び捨てというところに落ち着いた。
「あ、そうだった。玲、返事聞かせてよ」
前世手紙に書いた告白を唐突に思い出した理央は、これまた唐突に玲に聞いた。
振られない自信は一応ある。ロイはレイの光だったと言うし、レイからの好意をもちろん感じ取っていた。
(なんというか、その……レイからの好意はとてもわかりやすかったから…うん…)
「返事……?」
何のことを言われているのかさっぱり分からないといった様子で、玲は首を傾げる。実際、理央は大事な部分を忘れているので、玲には全くと言っていいほど伝わっていなかった。
「ほら、遺書に書いたでしょ?レイが好きだって」
「あ……!!えっと…それは……その……」
(この様子じゃ、すっかり忘れ去られてたな……。あれでも、それなりに勇気必要だったのに)
思わず苦笑し、玲を眺めた。
玲は慌てふためき、目をキョロキョロと動かしている。
「あ、あれ、今世にも続くの!?」
「もちろん」
「いや、でも……ほ、ほら、いくら私たち生まれ変わりでも、今世と前世は違うでしょ!?見た目だって違うし、性格とかだってきっと……!!」
「見た目とかはともかく、性格は変わってない自信あるけど?今世で玲と話したのはまだ今日が初めてだし、特別何かを知れたということはないけど、話した限りだと玲だってそうだよね?」
「あ、う、いや、そんなわけ……」
駄目押しとばかりに、それとも僕の性格は好きじゃなかったの?としゅんとしてみせると、玲は反論もまともに出せずに押し黙った。
そしてチラッとこちらを見てくるので、理央はん?と笑顔で首を傾げた。瞬間、玲はガックリと肩を落としたのだった。
「はい……理央が好きです。何なら理央に一目惚れしたんだから、さっさともらってください」
「うん!もちろん、そのつもりだよ?
でも玲、あっさり吐いたね?僕としてはもうちょっとかかっても良かったけど」
思ったよりも簡単に落ちてきたことに驚いたけれど、結果早く手に入れられたと理央は顔を緩ませた。
(玲ならもう少し時間かかると思ってたんだけど……まあいっか。それよりも、どうしよう。今顔がかなり緩んでいる自覚ある)
「だって時間の無駄でしょう?それに誤魔化してキョドって誤魔化してってしても、どうせ理央を好きなのは変わらないもん。いつかは吐かされるでしょう。
だから私としては、さっさと好きだと吐いて、その空いた時間に理央とのんびり過ごすのが理想」
「それもそうだけれど」
キリッとした顔でそう言う玲に、ロイはああ、こういう人だったなと、苦笑し手を差し出した。
「一緒に帰ろう。送るから」
「……うん!!」
前世も合わせて、玲と帰るのは初めてのことだ。
理央はそのことに気付き、玲といつでも堂々と会うことができるのだと、顔をほころばせた。
◆ ◆ ◆
「ねえ、理央」
「ん?何?」
「今世では、絶対私をおいていかないでね」
「もちろん」
「ほんとに?事故…はまあ仕方ないとして、病気…も仕方ないとして、天寿…もまあいいとして、それ以外で死ぬときは私も連れて逝ってね」
「わかってるよ。安心して。事故は唐突だから無理かもだけど、病気や天寿のときだって、少しでも体力あるなら連れて逝くから」
「ほんと?ならいいや。事故のときは私も即後を追うし。
でも、もし私が同じようになったらどうするの?」
「その時も僕が病気や天寿なんかよりも先に殺すから、安心していいよ。事故のときはもちろん、僕も後を追うからね」
「…ふふ」
「どうしたの?」
「なんでもないっ!!」
「玲」
「ん~?」
「大好きだよ」
「えへへー、私も理央大好き!!」
「今度は絶対に離さない。病気にだって、神様にだって渡さないから」
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