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結社活動編
名探偵にて?
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尼僧が逃げ去ってから2日後……。
(昨日は瘴気を吐き出す車を待っていたけれど結局来なかった。これは尼僧がドケチとやらに連絡を入れたためなのだろう。つまり、悪魔にも私達の情報がすでに渡ってしまっている。今日からはより一層の警戒を強めなければいけないわね)
食堂でみんなを集めて食事をしていた時であった。
「うぐぐ……」
「あ……あ……あがが」
「あっははははは! ヒャッハ――!」
牧場で家畜として飼われていた子どもたちがほぼ同時に次々と発狂していく。
「どういうこと? さっきまでは普通だったのに……」
「うわっ、こやつナイフを投げてきたでござる!」
「早く取り押さえなきゃ」
どれほど暴れても美心から直々に鍛え上げられたシリウス達の前では驚異では無く、瞬く間に子ども達を取り押さえ軽く一撃を入れて眠らせていく。
「この子たち、白目をむきながらわちらに襲いかかってきたね。すごく怖かった……」
「一昨日のベガと似たような感じだったわね」
「え、わち!? わち、そんなのになってないもん!」
シリウスとベガが話している内容から何かを考え始めるリゲル。
「そうか……自白剤の副作用だ」
それはベガが一度起こした症状と酷似していることにリゲルが気付く。
因みにリゲルは例の薬を未だに自白剤だと思い込んでいる。
「リゲル、なんとか治せない?」
「叡智の書を書き写したノートをもう一度読んでみる。暫く待っていてくれ」
そう言いリゲルは自室へと戻っていった。
この牧場で唯一の建造物である寺には空き部屋がいくつもある。
だが、家畜として飼われていた子どもたちは一つの部屋に10人ずつ押し込めて住まわせ、残りの部屋は尼僧のコレクションが大量に保管されていた。
そのほとんどが高級なもので溢れかえっている。
ブランドに興味もなく知らないシリウス達は必要ないものはすべて処分し子どもたちに部屋を再分配していた。
もちろん、シリウス達の部屋もしっかりと確保している。
「この子達、目が覚めたらまた暴れ出すのかなぁ?」
「リゲルが治療法を見つけるまで、この食堂で見張りとして2人は置いておくべきね」
「だったら、まずはシリウスから休むと良いでござる。昨日も良く眠れていなかったでござろう?」
「そうなの?」
シリウスは華子が無惨な殺され方をしたと尼僧に言い聞かされてから、
ずっと気にかけていた。
「この日本人牧場に来たばかりで把握しきれなかったこともあるけれど、瘴気を吐き出す車に白装束を着せられた子どもが乗せられるなんて、異常なことであるのはすぐに気が付いていたの。でも、悪魔が怖くて動けなかった。それはつまり私が見殺しにしたも同然……」
プロキオンとベガは爆笑し食堂内に哄笑が響き渡る。
「シリウス、お腹痛ぁい……きゃははは!」
「いやいや、本当にお主は繊細でござるな」
「べ、別に笑うことじゃ……」
「シリウス、思い詰めるのは良くないことでござる。あの時、拙者もベガもリゲルも同じく動けなかった。責任というのであればここにいる全員に責任があるでござるよ」
「うん、プロキオンの言う通り」
シリウスは心の枷が少し外れ軽くなったような気がした。
「ほらほら、早く休むでござる。まだまだやることは沢山あるでござろう?」
「プロキオン、ベガ……ありがとう」
そう言いリゲルの居る自室へと戻っていく。
部屋の数は多いがさすがに1人一部屋で足りるほどの数は無い。
そのためシリウスとリゲル、プロキオンとベガで二部屋を使っている。
部屋の中ではリゲルがメモを手に窓辺に座り考え事をしていた。
「リゲル、そんなところに座って落ちないでよ」
「分かっている」
「あの子達の治療法、何か思いついた?」
「叡智の書のこの部分がどうしても思い出せなくてね。そこさえ分かれば……」
そう言いメモをシリウスに渡す。
メモにはよく分からないカタカナが何点か見受けられる。
「頭痛時、バファリン。風邪を引いたらパブロン。お腹の調子が悪い時はビオフェルミン。正露丸は日露戦争のために作られたもの……これって叡智の書の?」
「ああ、そのまま書き写したものだ。マスターは未来視までできることがここから伺える。日露戦争って日本とロセアの戦いのことだろうけど、今までにそのようなことは起こっていない。いつか先に起きることなんだ。そこで正露丸はおそらく陰陽術の術名だと僕は理解した。ロセアを正しくするための術……マスターの叡智は我々には遠く及ばないものだとつくづく思い知らされるね」
「ま、まさか……このバファリンとかパブロンも?」
「暗号化された陰陽術なのかも知れない。いつかは解読したいと思っているけれど、それは今するべきことではない」
もちろん、これは暗号などではない。
叡智の書は美心が転生前の記憶を保管しておくために書いたメモが起源である。
現在の市販薬を色々と書いていたのはもしもの時、役に立つかもしれないと思い記入したに過ぎない。
当然ながら異世界の明治時代ではこの市販薬はまだ存在していない。
「僕が悩んでいるのはここだ。自白剤と言えばベラドンナ。諜報機関で使われる真実の……」
「真実……で消えているわね。どうしてなの?」
「この部分を書き写している時に任務が入ってね。それから書けていないんだ。この先にも何か書いてあって、そこに治療法みたいなことが書かれていたような……」
シリウスとリゲルは目を閉じて叡智の書の内容を必死に思い出そうとする。
(真実……真実……真実……真実はいつも……一つ……)
「真実はいつも一つ……」
シリウスがボソリと呟いたその言葉にリゲルは反応する。
(それは叡智の書第3部第7章第9節『名探偵はいつも○害現場に出くわす死神』に書いてあった言葉!? シリウス、どうしてそれを?)
リゲルは再びメモに目を通した瞬間、閃く。
「そうか、これも暗号だったんだ!」
「ど、どうしたの?」
「ふふっ、シリウス君のおかげだよ。これであの子達を治療できる」
「凄いわ、こんなに早く分かるなんて。それでどうやるの?」
「あの子達は尼僧に自白剤を打たれ続けていた。その自白剤の名前こそが……」
「ここに書いてあるベラドンナよね?」
リゲルは頭を横に振りこう話す。
「アポトキシンだよ。ベラドンナの横に書いてる『真実』が正式な自白剤の名前を指しているんだ。叡智の書で『真実』という言葉が出てくるのはここと第3部第7章第9節にしか無いからね」
「ベラ……ドンナ……がブラフ……だったと!?」
シリウスは驚き開いた口が塞がらなかった。
「ふふっ、マスターも意地悪なことをする。叡智の書をすべて読破できていないと分からない暗号を入れるなんて……」
当然だがすべてリゲルの妄想である。
そして、アポトキシンという薬が空想上の毒薬であることも当然ながら知らずにいる。
そして、どういうわけかここから話が余計に拗れてくる。
「ま……まさか、尼僧があの子達にアポトキシンを打たせ続けていたのは」
「死神を作るためだろうね。あの薬で背が縮んで……いや、待てよ? それなら全員がすでに子ども……」
「ジャップストーンとやらの材料にするためと尼僧は言っていたけれど……」
2人は最悪の事態を想定してしまう。
「まさか……あの子達は……」
「もとは大人だったんだ! それが子どもに変えられて……ジャップストーンの材料にされている!」
「ひ、酷い! それが人間のすることなの!」
「奴らは悪魔の仲間だ。そんなこと微塵にも感じていないだろうさ! でも、僕は治療法も既に見つけている。安心していいよ、シリウス」
そして、リゲルはシリウスの手を掴み部屋を出て食堂に戻る。
(昨日は瘴気を吐き出す車を待っていたけれど結局来なかった。これは尼僧がドケチとやらに連絡を入れたためなのだろう。つまり、悪魔にも私達の情報がすでに渡ってしまっている。今日からはより一層の警戒を強めなければいけないわね)
食堂でみんなを集めて食事をしていた時であった。
「うぐぐ……」
「あ……あ……あがが」
「あっははははは! ヒャッハ――!」
牧場で家畜として飼われていた子どもたちがほぼ同時に次々と発狂していく。
「どういうこと? さっきまでは普通だったのに……」
「うわっ、こやつナイフを投げてきたでござる!」
「早く取り押さえなきゃ」
どれほど暴れても美心から直々に鍛え上げられたシリウス達の前では驚異では無く、瞬く間に子ども達を取り押さえ軽く一撃を入れて眠らせていく。
「この子たち、白目をむきながらわちらに襲いかかってきたね。すごく怖かった……」
「一昨日のベガと似たような感じだったわね」
「え、わち!? わち、そんなのになってないもん!」
シリウスとベガが話している内容から何かを考え始めるリゲル。
「そうか……自白剤の副作用だ」
それはベガが一度起こした症状と酷似していることにリゲルが気付く。
因みにリゲルは例の薬を未だに自白剤だと思い込んでいる。
「リゲル、なんとか治せない?」
「叡智の書を書き写したノートをもう一度読んでみる。暫く待っていてくれ」
そう言いリゲルは自室へと戻っていった。
この牧場で唯一の建造物である寺には空き部屋がいくつもある。
だが、家畜として飼われていた子どもたちは一つの部屋に10人ずつ押し込めて住まわせ、残りの部屋は尼僧のコレクションが大量に保管されていた。
そのほとんどが高級なもので溢れかえっている。
ブランドに興味もなく知らないシリウス達は必要ないものはすべて処分し子どもたちに部屋を再分配していた。
もちろん、シリウス達の部屋もしっかりと確保している。
「この子達、目が覚めたらまた暴れ出すのかなぁ?」
「リゲルが治療法を見つけるまで、この食堂で見張りとして2人は置いておくべきね」
「だったら、まずはシリウスから休むと良いでござる。昨日も良く眠れていなかったでござろう?」
「そうなの?」
シリウスは華子が無惨な殺され方をしたと尼僧に言い聞かされてから、
ずっと気にかけていた。
「この日本人牧場に来たばかりで把握しきれなかったこともあるけれど、瘴気を吐き出す車に白装束を着せられた子どもが乗せられるなんて、異常なことであるのはすぐに気が付いていたの。でも、悪魔が怖くて動けなかった。それはつまり私が見殺しにしたも同然……」
プロキオンとベガは爆笑し食堂内に哄笑が響き渡る。
「シリウス、お腹痛ぁい……きゃははは!」
「いやいや、本当にお主は繊細でござるな」
「べ、別に笑うことじゃ……」
「シリウス、思い詰めるのは良くないことでござる。あの時、拙者もベガもリゲルも同じく動けなかった。責任というのであればここにいる全員に責任があるでござるよ」
「うん、プロキオンの言う通り」
シリウスは心の枷が少し外れ軽くなったような気がした。
「ほらほら、早く休むでござる。まだまだやることは沢山あるでござろう?」
「プロキオン、ベガ……ありがとう」
そう言いリゲルの居る自室へと戻っていく。
部屋の数は多いがさすがに1人一部屋で足りるほどの数は無い。
そのためシリウスとリゲル、プロキオンとベガで二部屋を使っている。
部屋の中ではリゲルがメモを手に窓辺に座り考え事をしていた。
「リゲル、そんなところに座って落ちないでよ」
「分かっている」
「あの子達の治療法、何か思いついた?」
「叡智の書のこの部分がどうしても思い出せなくてね。そこさえ分かれば……」
そう言いメモをシリウスに渡す。
メモにはよく分からないカタカナが何点か見受けられる。
「頭痛時、バファリン。風邪を引いたらパブロン。お腹の調子が悪い時はビオフェルミン。正露丸は日露戦争のために作られたもの……これって叡智の書の?」
「ああ、そのまま書き写したものだ。マスターは未来視までできることがここから伺える。日露戦争って日本とロセアの戦いのことだろうけど、今までにそのようなことは起こっていない。いつか先に起きることなんだ。そこで正露丸はおそらく陰陽術の術名だと僕は理解した。ロセアを正しくするための術……マスターの叡智は我々には遠く及ばないものだとつくづく思い知らされるね」
「ま、まさか……このバファリンとかパブロンも?」
「暗号化された陰陽術なのかも知れない。いつかは解読したいと思っているけれど、それは今するべきことではない」
もちろん、これは暗号などではない。
叡智の書は美心が転生前の記憶を保管しておくために書いたメモが起源である。
現在の市販薬を色々と書いていたのはもしもの時、役に立つかもしれないと思い記入したに過ぎない。
当然ながら異世界の明治時代ではこの市販薬はまだ存在していない。
「僕が悩んでいるのはここだ。自白剤と言えばベラドンナ。諜報機関で使われる真実の……」
「真実……で消えているわね。どうしてなの?」
「この部分を書き写している時に任務が入ってね。それから書けていないんだ。この先にも何か書いてあって、そこに治療法みたいなことが書かれていたような……」
シリウスとリゲルは目を閉じて叡智の書の内容を必死に思い出そうとする。
(真実……真実……真実……真実はいつも……一つ……)
「真実はいつも一つ……」
シリウスがボソリと呟いたその言葉にリゲルは反応する。
(それは叡智の書第3部第7章第9節『名探偵はいつも○害現場に出くわす死神』に書いてあった言葉!? シリウス、どうしてそれを?)
リゲルは再びメモに目を通した瞬間、閃く。
「そうか、これも暗号だったんだ!」
「ど、どうしたの?」
「ふふっ、シリウス君のおかげだよ。これであの子達を治療できる」
「凄いわ、こんなに早く分かるなんて。それでどうやるの?」
「あの子達は尼僧に自白剤を打たれ続けていた。その自白剤の名前こそが……」
「ここに書いてあるベラドンナよね?」
リゲルは頭を横に振りこう話す。
「アポトキシンだよ。ベラドンナの横に書いてる『真実』が正式な自白剤の名前を指しているんだ。叡智の書で『真実』という言葉が出てくるのはここと第3部第7章第9節にしか無いからね」
「ベラ……ドンナ……がブラフ……だったと!?」
シリウスは驚き開いた口が塞がらなかった。
「ふふっ、マスターも意地悪なことをする。叡智の書をすべて読破できていないと分からない暗号を入れるなんて……」
当然だがすべてリゲルの妄想である。
そして、アポトキシンという薬が空想上の毒薬であることも当然ながら知らずにいる。
そして、どういうわけかここから話が余計に拗れてくる。
「ま……まさか、尼僧があの子達にアポトキシンを打たせ続けていたのは」
「死神を作るためだろうね。あの薬で背が縮んで……いや、待てよ? それなら全員がすでに子ども……」
「ジャップストーンとやらの材料にするためと尼僧は言っていたけれど……」
2人は最悪の事態を想定してしまう。
「まさか……あの子達は……」
「もとは大人だったんだ! それが子どもに変えられて……ジャップストーンの材料にされている!」
「ひ、酷い! それが人間のすることなの!」
「奴らは悪魔の仲間だ。そんなこと微塵にも感じていないだろうさ! でも、僕は治療法も既に見つけている。安心していいよ、シリウス」
そして、リゲルはシリウスの手を掴み部屋を出て食堂に戻る。
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