3 / 6
第一章 始まりの村
第三話 錬金術
しおりを挟む小屋を作ってくれるとのことで、俺はルミカさんと廃材置き場に物色をしに来ていた。
使わなくなった木材が積まれていて、それを二人でかき分ける。
「まったく、小屋を作ってくれるって言ったのに、アリスは何も手伝ってくれないのか……」
少しだけ愚痴る。
建てるのはアリスがやってくれるらしいから文句は言えないけど、この廃材の山を見たら愚痴りたくもなる。
「仕方ないですよ。アリスには色々とやることがあるんですから」
そう言われると何も言えなくなる。
今のルミカさんは、長い髪をポニーテールにまとめていた。
そして、赤いメガネをかけている。
どうやら目が元々悪いらしい。
メガネというのは不思議なもので、かけるだけでその人の魅力が三割くらい増してしまう。
元々ルミカさんは綺麗だからその魅力は絶大で、つまり俺は少しだけ興奮していた。
そんなことなどつゆ知らず、ルミカさんはひたすら廃材を選りすぐる。
と思ったら、急に手を止めた。
「ユウトさんは、アリスのことをどう思ってますか?」
少しだけ目をそらして聞いてきた。
「まだ出会ったばかりだけど、とりあえず暴力を振るうのはよくないかなー。それと口もちょっとだけ直したほうがいいかも」
元々嘘をつくのは嫌いだから、正直に答えた。
ルミカさんがしょんぼりしたのが空気でなんとなく伝わる。
「でも、しっかりしてる子だと思うよ。見ず知らずの人に小屋を作ってあげるなんて優しすぎるし、口が悪いっていうのも個性って思えば別に気にならない」
今度は廃材置き場に笑顔の花が咲いた。
ルミカさんはすごく分かりやすい。
「ですよね! アリスは優しいんです!口が乱暴なのも子供っぽくて可愛いです!」
と、興奮気味で一気に言ってのけた。
それに少しだけ引きつつも、ルミカさんは本当にアリスのことが好きなんだということが分かった。
顔を赤く染めて俯くルミカさんは可愛い。
最初は大人っぽいと思ったけど、案外子供っぽいのかもしれない。
それからも、俺とルミカさんは少しだけ会話をしながら黙々と廃材を運び続けた。
運び終わった頃には日が暮れ始めていて、空は赤く染まっていた。
この時間だと、小屋を建てるのは明日になりそうだ。
身体の節々が悲鳴を上げていて、そういえばこんなことをしたのは数年ぶりだったことを思い出す。
案外、力仕事も楽しいかもしれない。
「少し待っててください。今アリスを呼んできますので」
俺が何かを言う前に、ルミカさんは村の中心部に走って行った。
ルミカさんの家は村の中心部から少し離れた場所に建てられている。俺の家はルミカさんの家の隣に建ててくれるらしい。
数分経つと、ルミカさんはアリスを引き連れて戻ってきた。
女子にしては身長の高いルミカさんは、アリスと並ぶと親子のように見えた。
アリスは廃材を一瞥すると、持っていた小さなカバンを地面に置いて何やらガサゴソと弄り始めた。
「おいおい、もう日が暮れるから建てるのは明日からでいいって」
そう言うと、何言ってんの? バカなの死ぬの? という風に顔を歪めた。
何だこいつ、むかつくぞ。
「は?今日建てないと、あんた野宿することになるじゃない」
「いや、でも……」
しかし、カバンから取り出したのはノコギリやトンカチじゃなくて、木の棒だった。
唖然としていると、アリスは離れててと言うように目配せしてきた。ルミカさんは俺を見て微笑む。
黙って見ていると、アリスは廃材を取り囲むように大きな丸を書いた。コンパスも無いのに、きっと正確な円。
今度は、何やら円の中に模様のようなものを書き入れていく。
なんとなく、アリスが書いているものが分かってきた。
だけど、こんなに小さくて生意気な少女がそんなことを出来るのだろうか?
と考えて、ここが異世界だったのを思い出す。
きっと、そんな理屈は通用しない。
「錬金術」
ルミカさんが呟いた。
「才能と素質が無い人には決して扱えない秘術。錬金術を、アリスは使うことができるんです」
きっと、最後の紋様を書き終わったのだろう。アリスは一つ伸びをして、木の棒を地面へと置いた。
「じゃあ、アリスは錬金術の才があるのか?」
それについては首を振る。
「母親はとてつもない才能を持った錬金術士だったそうですけど、アリスはからっきしだったらしいです。でも、途方も無い努力を重ねて、一人前の錬金術士になることが出来たんです」
アリスは、錬成陣に両の手のひらを置いた。
瞬間、描いた錬成陣から稲妻のような青い光がほとばしる。
空気が震えている。そんな気がした。
魔力が具現化している証なのか、周囲にはホタルのような光が散らばっていた。
ひときわ激しい光が放射して、廃材を飲み込む。
廃材はグニャリと形を変えて、やがて一つの形を成す。
「アリスは、本当にすごい人なんです」
気が付いたら、あんなにほとばしっていた光はもう消えていた。
残ったのは焼け焦げた錬成陣の跡と、その上にがっしりとそびえ立つ綺麗な木組みの家だった。
それは小屋なんかじゃない。
ルミカさんの家とほとんど寸分違わない立派な建物。
「あーあ、久しぶりだからちょっとやりすぎちゃったかな」
何でもない風に言って、手のひらをパンパンと二度叩く。
そこにいたのは口生意気な女の子なんかじゃなくて、アリス・クルーディアという一人の錬金術士だったーー
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~
松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。
異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。
「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。
だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。
牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。
やがて彼は知らされる。
その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。
金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、
戦闘より掃除が多い異世界ライフ。
──これは、汚れと戦いながら世界を救う、
笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる