異世界錬金術士~母の歩いた道へ~

やなせいのり

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第一章 始まりの村

第三話 錬金術

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 小屋を作ってくれるとのことで、俺はルミカさんと廃材置き場に物色をしに来ていた。
 使わなくなった木材が積まれていて、それを二人でかき分ける。

「まったく、小屋を作ってくれるって言ったのに、アリスは何も手伝ってくれないのか……」

 少しだけ愚痴る。
 建てるのはアリスがやってくれるらしいから文句は言えないけど、この廃材の山を見たら愚痴りたくもなる。

「仕方ないですよ。アリスには色々とやることがあるんですから」

 そう言われると何も言えなくなる。
 今のルミカさんは、長い髪をポニーテールにまとめていた。
 そして、赤いメガネをかけている。
 どうやら目が元々悪いらしい。
 メガネというのは不思議なもので、かけるだけでその人の魅力が三割くらい増してしまう。
 元々ルミカさんは綺麗だからその魅力は絶大で、つまり俺は少しだけ興奮していた。
 そんなことなどつゆ知らず、ルミカさんはひたすら廃材を選りすぐる。
 と思ったら、急に手を止めた。

「ユウトさんは、アリスのことをどう思ってますか?」

 少しだけ目をそらして聞いてきた。

「まだ出会ったばかりだけど、とりあえず暴力を振るうのはよくないかなー。それと口もちょっとだけ直したほうがいいかも」

 元々嘘をつくのは嫌いだから、正直に答えた。
 ルミカさんがしょんぼりしたのが空気でなんとなく伝わる。

「でも、しっかりしてる子だと思うよ。見ず知らずの人に小屋を作ってあげるなんて優しすぎるし、口が悪いっていうのも個性って思えば別に気にならない」

 今度は廃材置き場に笑顔の花が咲いた。
 ルミカさんはすごく分かりやすい。

「ですよね! アリスは優しいんです!口が乱暴なのも子供っぽくて可愛いです!」

 と、興奮気味で一気に言ってのけた。
 それに少しだけ引きつつも、ルミカさんは本当にアリスのことが好きなんだということが分かった。
 顔を赤く染めて俯くルミカさんは可愛い。
 最初は大人っぽいと思ったけど、案外子供っぽいのかもしれない。
 それからも、俺とルミカさんは少しだけ会話をしながら黙々と廃材を運び続けた。
 運び終わった頃には日が暮れ始めていて、空は赤く染まっていた。
 この時間だと、小屋を建てるのは明日になりそうだ。
 身体の節々が悲鳴を上げていて、そういえばこんなことをしたのは数年ぶりだったことを思い出す。
 案外、力仕事も楽しいかもしれない。

「少し待っててください。今アリスを呼んできますので」

 俺が何かを言う前に、ルミカさんは村の中心部に走って行った。
 ルミカさんの家は村の中心部から少し離れた場所に建てられている。俺の家はルミカさんの家の隣に建ててくれるらしい。
 数分経つと、ルミカさんはアリスを引き連れて戻ってきた。
 女子にしては身長の高いルミカさんは、アリスと並ぶと親子のように見えた。
 アリスは廃材を一瞥すると、持っていた小さなカバンを地面に置いて何やらガサゴソと弄り始めた。

「おいおい、もう日が暮れるから建てるのは明日からでいいって」

 そう言うと、何言ってんの? バカなの死ぬの? という風に顔を歪めた。
 何だこいつ、むかつくぞ。

「は?今日建てないと、あんた野宿することになるじゃない」
「いや、でも……」

 しかし、カバンから取り出したのはノコギリやトンカチじゃなくて、木の棒だった。
 唖然としていると、アリスは離れててと言うように目配せしてきた。ルミカさんは俺を見て微笑む。
 黙って見ていると、アリスは廃材を取り囲むように大きな丸を書いた。コンパスも無いのに、きっと正確な円。
 今度は、何やら円の中に模様のようなものを書き入れていく。
 なんとなく、アリスが書いているものが分かってきた。
 だけど、こんなに小さくて生意気な少女がそんなことを出来るのだろうか?
 と考えて、ここが異世界だったのを思い出す。
 きっと、そんな理屈は通用しない。

「錬金術」

 ルミカさんが呟いた。

「才能と素質が無い人には決して扱えない秘術。錬金術を、アリスは使うことができるんです」

 きっと、最後の紋様を書き終わったのだろう。アリスは一つ伸びをして、木の棒を地面へと置いた。

「じゃあ、アリスは錬金術の才があるのか?」

 それについては首を振る。

「母親はとてつもない才能を持った錬金術士だったそうですけど、アリスはからっきしだったらしいです。でも、途方も無い努力を重ねて、一人前の錬金術士になることが出来たんです」

 アリスは、錬成陣に両の手のひらを置いた。
 瞬間、描いた錬成陣から稲妻のような青い光がほとばしる。
 空気が震えている。そんな気がした。
 魔力が具現化している証なのか、周囲にはホタルのような光が散らばっていた。
 ひときわ激しい光が放射して、廃材を飲み込む。
 廃材はグニャリと形を変えて、やがて一つの形を成す。

「アリスは、本当にすごい人なんです」

 気が付いたら、あんなにほとばしっていた光はもう消えていた。
 残ったのは焼け焦げた錬成陣の跡と、その上にがっしりとそびえ立つ綺麗な木組みの家だった。
 それは小屋なんかじゃない。
 ルミカさんの家とほとんど寸分違わない立派な建物。

「あーあ、久しぶりだからちょっとやりすぎちゃったかな」

 何でもない風に言って、手のひらをパンパンと二度叩く。
 そこにいたのは口生意気な女の子なんかじゃなくて、アリス・クルーディアという一人の錬金術士だったーー
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