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マリョクガクエンニュウガク
アイサツ
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噴水の目の前に着くと、男は門と噴水と一直線上に並ぶ建物を指差して説明を始めた。
「噴水の奥に見える正面の建物は教務研究棟だ。授業はここで行われる。」
その建物は外の塀と同じく赤茶のレンガで作られており、上部が半円形になっている縦長の窓が等間隔でつけられている。
さながら、西洋の古い建物のようだった。
築年数は見た目ほど経っていないのか、小綺麗な感じがする。
「左側は女子寮で、右側は男子寮だ。扉に書いてある文字以外同じく外観だから間違わないように気をつけてくれ。」
男の言った通り、左右対称に建っている2つの寮はどちらも灰色の集合住宅のような外観で、その違いはドアの近くに書かれた小さなプレートでしか判断がつかないようだ。
教務研究練、いわゆる学校の方とは違い、現代の建物の見た目で時代感が錯誤している感じがする。
学校がオフィス街に囲まれた神社のようだ。
そして、寮。
もうさすがに見逃せない。
母さんが通うと言っていたから、てっきり通学だと思っていたけれど、寮生活か。
確かに母さんとの連絡手段がない以上、俺は向こうに帰れないし、男によれば門が開く日は限られているみたいだし、仕方のないことだけれど、母さん以外の人と暮らすのは初めてで抵抗があるな。
「おい、入るぞ。」
男が男子寮の前で俺を呼んでいる。
今更考えても仕方のないことだし、と俺も男子寮へと向かった。
日はすっかり落ち、夜の時間となっていた。
男に呼ばれて入った男子寮の内装は、外観の集合住宅の様相とは裏腹に、ホテルのように中央に半円型のフロントがあり、その右側の方には他に簡易的な談話スペースがあり、左側はすでにシャッターが下りているが、出店のようなものが数店舗あった。ベージュ色の壁に、薄いベージュのフローリングが敷かれ、暖かな雰囲気を感じさせる内装だ。
外観は集合住宅、中身は下宿所と言ったところか。
男はまっすぐ正面にあるフロントに向かい、誰かと話している。
傍まで行くと、話し相手はこちらに気づき挨拶をした。
「よう、異世界人。俺は野郎どもの管理人、ダンだ。よろしく頼むぜ」
管理人のダンは、絵に描いたようなおっさんだ。こげ茶色の肌に金色の短髪、筋肉が隆起しているのが見てとれるマッチョ。それに加えて、自慢げに整えられた顎髭。金色の瞳がやけに印象的に映った。静かに様子を伺いながら話す男とは反対に、活気に溢れ、あまり話したことのないタイプの人で悪いけれど少し暑苦しさを感じる。
「…よろしく、ダン。俺は皆月日中だ。」
「ちょっと待った、お前、話慣れていないのか?それに、名字だと?…ひょっとして名のある家か?」
まだ返答の遅れる俺を、ダンは観察するようにじっと見る。
「…言葉が違うからすぐに返事ができないんだ。ごめん。」
「はっはっは、そうかそうか。異世界だと言葉が違うこともあるのか。俺にはあまり分からないが、ちょっとずつ慣れればいいさ。謝ることじゃない。それで名字は?」
ダンはその見た目に違わず気の良い人で、一応聞いてはいるものの、返事の遅さをとても気にしているわけではないようだ。
「名字は、俺のいたところではみんな持っているものだから、特別なものじゃないんだ。」
「なるほどな。ここじゃ、英雄とか族長の子孫とか名字があると便利なやつだけが持っているから、あんまり名字は言わない方がいいだろうな。…あとでもう一度言うが、異世界人というのは当分隠してほしい。世界を渡るのはほとんど前例がないことなんだ。面倒な騒ぎを起こしたくはないだろう?頼むな。」
聞かれた時から予想はついていたが、やはりここでは名字は珍しいものなのか。
地球でも昔から全員が名字を持っていたわけではないし、少し繋がりを感じるな。
それにしても、突然やってきたにもかかわらず、男やダンがすんなり受け入れてくれたから、異世界に人が行くのはよくあることなのかもと思っていたけれど、逆か。ほとんど前例にないことだからこそ、しっかり準備をしてくれていたのか。
そうすると、母さんは俺がこの日ここに来るのを了解するのを前提に用意していたのか?
いやそれよりも、なんで母さんはそんな前例にない「異世界に行くこと」をできたんだろう。
…今考えても仕方のないことか。
なんだか、仕方のないことに振り回されているような気がしないでもないが、今はとりあえずダンが真面目に言った忠告をしっかり守ろう。
「そうか、忠告ありがとう。あらためて俺はヒナカ。よろしく」
握手のため手を差し出すが、ダンに首を傾げられる。
「その手はなんだ?異世界では知り合う時にプレゼント交換でもするのか?」
もしかして、握手の文化がない?。
「いや、握手、こう、手を繋ぐんだけど…」
握手の説明を改めて言葉にすると、少し気恥ずかしい。
ダンも同じようで、照れながら手を差し出した。
「異世界では挨拶で手を繋ぐのか。…ほれ、お前の流儀に乗ってやろう。」
無事に(?)握手をした後、今度はダンの流儀で挨拶することになった。
「俺は山岳の民。俺らは大いなる山と神に生かされている。己の運命も全て山と神の意志だ。出会いに感謝するときは山と神に祈るんだ。」
「山と神の御意思にこの出会いの感謝を捧げます。」
彼は腰に下げていた、小さな槌を天に掲げ、そう祈りを捧げた。
「そしたら、出会ったものは他の民であるときは《山に尊敬を、神に感謝を捧げます》と言うんだ。…ほら言ってみろ?」
「山に尊敬を、神に感謝を捧げます。」
彼に習い言葉を発したが、俺の言葉は軽薄に感じた。
彼らの言う山も神も知らない自分にとって、言葉は軽くなってしまうのがよくわかった。
もし彼らの土地に行けたら少しは変わるだろうか。
それでも彼は満足したように、2、3回頷き、陽気な彼にふさわしいにんまりとした笑顔を浮かべた。
「よし。この世界へようこそ、ヒナカ。渡すものがあるからそこで少し待っていてくれ。」
そういって、ダンはフロントの奥へと引っ込んでいった。
「噴水の奥に見える正面の建物は教務研究棟だ。授業はここで行われる。」
その建物は外の塀と同じく赤茶のレンガで作られており、上部が半円形になっている縦長の窓が等間隔でつけられている。
さながら、西洋の古い建物のようだった。
築年数は見た目ほど経っていないのか、小綺麗な感じがする。
「左側は女子寮で、右側は男子寮だ。扉に書いてある文字以外同じく外観だから間違わないように気をつけてくれ。」
男の言った通り、左右対称に建っている2つの寮はどちらも灰色の集合住宅のような外観で、その違いはドアの近くに書かれた小さなプレートでしか判断がつかないようだ。
教務研究練、いわゆる学校の方とは違い、現代の建物の見た目で時代感が錯誤している感じがする。
学校がオフィス街に囲まれた神社のようだ。
そして、寮。
もうさすがに見逃せない。
母さんが通うと言っていたから、てっきり通学だと思っていたけれど、寮生活か。
確かに母さんとの連絡手段がない以上、俺は向こうに帰れないし、男によれば門が開く日は限られているみたいだし、仕方のないことだけれど、母さん以外の人と暮らすのは初めてで抵抗があるな。
「おい、入るぞ。」
男が男子寮の前で俺を呼んでいる。
今更考えても仕方のないことだし、と俺も男子寮へと向かった。
日はすっかり落ち、夜の時間となっていた。
男に呼ばれて入った男子寮の内装は、外観の集合住宅の様相とは裏腹に、ホテルのように中央に半円型のフロントがあり、その右側の方には他に簡易的な談話スペースがあり、左側はすでにシャッターが下りているが、出店のようなものが数店舗あった。ベージュ色の壁に、薄いベージュのフローリングが敷かれ、暖かな雰囲気を感じさせる内装だ。
外観は集合住宅、中身は下宿所と言ったところか。
男はまっすぐ正面にあるフロントに向かい、誰かと話している。
傍まで行くと、話し相手はこちらに気づき挨拶をした。
「よう、異世界人。俺は野郎どもの管理人、ダンだ。よろしく頼むぜ」
管理人のダンは、絵に描いたようなおっさんだ。こげ茶色の肌に金色の短髪、筋肉が隆起しているのが見てとれるマッチョ。それに加えて、自慢げに整えられた顎髭。金色の瞳がやけに印象的に映った。静かに様子を伺いながら話す男とは反対に、活気に溢れ、あまり話したことのないタイプの人で悪いけれど少し暑苦しさを感じる。
「…よろしく、ダン。俺は皆月日中だ。」
「ちょっと待った、お前、話慣れていないのか?それに、名字だと?…ひょっとして名のある家か?」
まだ返答の遅れる俺を、ダンは観察するようにじっと見る。
「…言葉が違うからすぐに返事ができないんだ。ごめん。」
「はっはっは、そうかそうか。異世界だと言葉が違うこともあるのか。俺にはあまり分からないが、ちょっとずつ慣れればいいさ。謝ることじゃない。それで名字は?」
ダンはその見た目に違わず気の良い人で、一応聞いてはいるものの、返事の遅さをとても気にしているわけではないようだ。
「名字は、俺のいたところではみんな持っているものだから、特別なものじゃないんだ。」
「なるほどな。ここじゃ、英雄とか族長の子孫とか名字があると便利なやつだけが持っているから、あんまり名字は言わない方がいいだろうな。…あとでもう一度言うが、異世界人というのは当分隠してほしい。世界を渡るのはほとんど前例がないことなんだ。面倒な騒ぎを起こしたくはないだろう?頼むな。」
聞かれた時から予想はついていたが、やはりここでは名字は珍しいものなのか。
地球でも昔から全員が名字を持っていたわけではないし、少し繋がりを感じるな。
それにしても、突然やってきたにもかかわらず、男やダンがすんなり受け入れてくれたから、異世界に人が行くのはよくあることなのかもと思っていたけれど、逆か。ほとんど前例にないことだからこそ、しっかり準備をしてくれていたのか。
そうすると、母さんは俺がこの日ここに来るのを了解するのを前提に用意していたのか?
いやそれよりも、なんで母さんはそんな前例にない「異世界に行くこと」をできたんだろう。
…今考えても仕方のないことか。
なんだか、仕方のないことに振り回されているような気がしないでもないが、今はとりあえずダンが真面目に言った忠告をしっかり守ろう。
「そうか、忠告ありがとう。あらためて俺はヒナカ。よろしく」
握手のため手を差し出すが、ダンに首を傾げられる。
「その手はなんだ?異世界では知り合う時にプレゼント交換でもするのか?」
もしかして、握手の文化がない?。
「いや、握手、こう、手を繋ぐんだけど…」
握手の説明を改めて言葉にすると、少し気恥ずかしい。
ダンも同じようで、照れながら手を差し出した。
「異世界では挨拶で手を繋ぐのか。…ほれ、お前の流儀に乗ってやろう。」
無事に(?)握手をした後、今度はダンの流儀で挨拶することになった。
「俺は山岳の民。俺らは大いなる山と神に生かされている。己の運命も全て山と神の意志だ。出会いに感謝するときは山と神に祈るんだ。」
「山と神の御意思にこの出会いの感謝を捧げます。」
彼は腰に下げていた、小さな槌を天に掲げ、そう祈りを捧げた。
「そしたら、出会ったものは他の民であるときは《山に尊敬を、神に感謝を捧げます》と言うんだ。…ほら言ってみろ?」
「山に尊敬を、神に感謝を捧げます。」
彼に習い言葉を発したが、俺の言葉は軽薄に感じた。
彼らの言う山も神も知らない自分にとって、言葉は軽くなってしまうのがよくわかった。
もし彼らの土地に行けたら少しは変わるだろうか。
それでも彼は満足したように、2、3回頷き、陽気な彼にふさわしいにんまりとした笑顔を浮かべた。
「よし。この世界へようこそ、ヒナカ。渡すものがあるからそこで少し待っていてくれ。」
そういって、ダンはフロントの奥へと引っ込んでいった。
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