幻想食堂BAKU BAKU

黒焔

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開店

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「よーし、皆...今日もやるぞ!」
開店前、威勢のいい声が店内に響く。
それに応じてロッカー室や厨房から足音が聞こえてくる。

異性がよくも穏やかそうに喋るガタイがいい紅黒い鱗の竜人(ドラゴニュート)、この人物こそ食堂BAKU BAKUの店主「ネロ・フィアーム」。
ネロが城下町に店を構えて3年、何だかんだで今は常連や従業員で賑わう程度には繁盛している。
「おはよーッス、店長。」
そして厨房から現れたのは調理服を着た狸術師(ラクーンメイジ)のジム。
調理担当でありネロと共に注文に応じた料理や創作料理を作っている。
「おう!ジム、準備中に呼び出して悪かったな。」
「いやいや、挨拶くらいしないとですし。」
「まぁ、そうだよな!ハハハハハ!!」
笑いながら2人が会話をしていると数人の従業員が同時にやって来る。
蒼い髪を1つに纏め軽く会釈をして現れたレジ打ちや案内担当の首無妖精(デュラハン)アイ、黒い布で顔を隠し他従業員に明るく手を振るバイトの布ノ化生(リビングクロース)クロコ、狼の耳をした灰色髪に金眼でタイムカードを持ちながら現れた同じくバイトの魔人狼(ルーガルー)ハティ。
それぞれが挨拶と同時に賑やかに口を開きネロやジムに声を掛ける。
「店長、さっきからハティくんが店長を探してたみたいですよ。」
「すいません店長...昨日の退勤時間にタイムカード付け忘れちゃって...」
アイとハティがネロにそう言うと「ん、待っててな。」と言い物が少し雑に予約の書類等が詰まれた店奥の机をゴソゴソと探し「あっれー、どこだっけなぁ...」と独り言を言ってペンを探していると開店時間も近付いているためアイがため息を吐きネロのところまで行き自分のペンを貸そうとする。
「店長、時間無いですし僕のペン使って下さい。」
「アイ...!キミって異形(モンス)はなんて優しいんだ!!」
救われた!といった表情を浮かべるネロにアイは苦笑しつつレジ前の持ち場に向かう。
「悪い、タイムカード見せてくれるか?」
ネロに声掛けられタイムカードをハティが見せると退勤時間を書くとすぐにネロはペンをアイに返しに行く。

「ジムさん、ジムさん!見て下さいよこれ!店内ポスター作ってきました!!」
クロコが5~6枚の自作ポスターをジムに見せるととても綺麗な背景に食欲を唆る季節感のある人気創作料理のイラストも載せられている。
「へぇ、バックも綺麗だしイラストも上手じゃん...でもさ、一ついいかな?」
「ふぇ?」
1枚1枚を丁寧にジムが見ていきイラストや背景の色を絶賛しているもののとてつもなく何か言いたげな顔をしており横で見ていたハティもひしひしとその空気を感じており不思議そうに首を傾げるクロコの様子を見ると今にも笑い出しそうな顔をしている。
「クロコちゃん、「華金は飲んじゃえ!」とか「マブい!400gバーグパンド」とか「最高におったまげるような美味しさ!」とか、ワードセンスがヤバすぎるから!今使われないよ!?」
「...え?そうですか?何か普通に使われてるような...」
相変わらず首を傾げるクロコにハティも笑いを何とか堪えながら声を掛ける。
「いや、マジでこれ死語ですよ!」
「じゃあ違う言葉が良かったですかね。んー....」
何か面白そうなワードを、と考えるクロコ達の後ろからネロが戻ってきてクロコの作ったポスターを見遣ると一言。
「何つーか...パンチ効いてるなぁ...あ、でもこれは使ってみないか?華金は飲んじゃえ!って。
ありがとう、クロコちゃん。」
その言葉にクロコは満面の笑みだろう表情を浮かべつつもどこか不安がっていたジムとハティはそんな様子に拍手をする。
「店長、それ何処に貼ります?ヴィール樽のところが俺いいと思うけど。」
貼ると決まればジムもお客が見やすい場所、といった候補を挙げていく中ハティに天啓が降りる。
「そうだ、店長!店に入ってすぐのレジ前とかに貼りましょうよ!!
入れば皆が見られるし、飲まなくてもイラストを見せられるじゃないですか!」
その場に居た全員が「それだ!!」とハティの意見に賛成してクロコの作ってきたポスターをレジ前、入り口付近に貼るとアイも「素敵なイラストですね!」と称賛する。

色々と開店前から賑やかなBAKU BAKUだが遂に今日の開店時間がやってきて各々が制服や調理服をビシッと決めてアイが店前のプレートを「OPEN」に反転させると最初のお客が入ってくる。
「「「「いらっしゃいませ!!!!」」」」
店内に明るく響く挨拶に「今日も元気だなぁ。」と返しながらアイが案内をした席に着く。

此処は幻想食堂BAKU BAKU。
異形(モンス)達が集い、笑顔で賑やかに食を囲む楽しい食堂の物語。
さて、最初の一品を次のページからどうぞ。
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