幻想食堂BAKU BAKU

黒焔

文字の大きさ
上 下
2 / 2

1品目 九尾俵寿司

しおりを挟む
最初に店に来店した客は2人の男女、どちらも同じ妖狐種の異形。
しかしカップルや友人、というわけではなくそれぞれが別の席に着席し女性の赤毛の妖狐にはクロコ、男性の黒い妖狐にはハティが注文を確認しにテーブルへと向かう。
「ご、注文はお決まりですか?」
「...じゃあ、九尾俵寿司を頼もうかな。」
注文を聞いたクロコが一瞬驚く。
何と今まで女性だと思っていたが声は青年でありそれを見透かしたように妖狐は笑う。
「フフ、その様子なら変化は大成功だと見て間違いないかな。」
ニッコリと笑い変化への自信を確認した妖狐を見てクロコはつい「びっくりしちゃいました~」と笑いながら返しつつも「九尾俵寿司ですね、他にご注文は?」と確認するも赤毛の妖狐は「今は大丈夫かな」と一言。
注文をメモするとクロコは厨房へと向かった。

時を同じくしてハティが黒狐のお客の席で注文を確認していた。
「ご注文はお決まりですか?」
と、問い掛けると「んー、どうしようかなぁ。」と幾つかの候補からなかなか決められずに迷っていたところだった。
「店員さん、店員さん的にオススメなのはどっちだったりしますか?」
そう聞かれると見せられたのはジャポネ地方の料理のページであり、九尾俵寿司と白麺九尾だった。
九尾俵寿司、それは妖狐種が特に好む「油揚げ」と呼ばれる食材に酢を混ぜた白飯を詰めたシンプルな料理だが妖狐種にとっては彼らの種族神にも捧げられる程のご馳走で、この店では油揚げを黒糖、醤油といった調味料を掛け合わせたオリジナルの漬けダレを使用している事をウリとしている。(要はいなり寿司である)
一方、白麺九尾は粉で形成したジャポネ地方独特の麺料理だが鰹節で出汁を取り、その汁の中に先述した妖狐種が特に愛好する食材、油揚げを浸して食べるというもの。
こちらももちろん、出汁と油揚げの漬けダレ、そして白麺と合う薬味にこだわった逸品である。(要はうどんである)

「注文が決まり次第、声掛けて下さいね!」
ハティがそう声を掛けると黒狐は頷いてメニュー表をジッと見詰めて熟考し始める。

一方、厨房ではクロコがネロやジムに注文を言いながらコップを盆に乗せている。
「店長、ジムさーん、九尾俵寿司を一人前オーダー入りましたー!お冷とおしぼり出してきますね!」
「はいはい、了解!店長、どうやら妖狐系のお客さんっぽいですね。妖狸(ムジナ)系の勘で何となく分かるんですよ。あいつら、ちゃんと支払いするんでしょうかね?」
「ジムお前なぁ...そんな事するわけねぇだろ。妖狐系の魔物が枯れ葉で変化させられるのは東方の地、ジャポネ地方の大判小判だけだと聞いてる。この地方の通貨は対策されてるだろ。」
「あ!そうでしたね!俺も似たような事やろうとしたらダメでした!」
「お前なぁ、うちの評判にも関わるからやめてくれよ...ほら、さっさと作ろうぜ!俵寿司!!」
ニコニコ笑いながらだが妖狸系として無意識に妖狐系を軽く疑うような言葉を言っているジムに少し驚きながら諫めるようにネロがジムを落ち着かせている。
お冷やおしぼりを用意しているクロコが何となく聞き耳立てているとどうにも笑いそうになってくるようで内心めちゃくちゃツッコんでいる。
「(心:何やってんですかジムさん!!)」

クロコとすれ違いざまにハティが厨房へとやって来て再び注文をネロとジムへと伝えてくる。
「九尾俵寿司の注文入りましたー!!何か今日、妖狐系のお客さん多いですね。」
「ん、了解!ハティ、今俺達で作るから少し待っていてくれ。」
「店長、妖狐しか居ないなら別に俵寿司作らなくていいですかね?」
「いい訳ないだろ。俺も作るから、な?賄い飯多めにするからさ!」
それを聞いたジムは2、3回頷いてあらかじめ漬けダレに漬けておいた油揚げを手早く用意してネロはその油揚げに酢飯をがっつりと詰め込み皿にに俵寿司2種類を2つずつ盛り付け色合いを調整する為の生姜を一握り置くとお盆に乗せてハティが用意した台車に置いて「よし、準備できたぞ!ハティくん、頼めるか?」と満面の笑顔でジムはハティに配膳を頼むと調理の手早さと完成度に驚きつつハティは元気に「はい!」と返してお客の妖狐達に配膳をする。

「お待たせしました!伝票も置いておきますね!」
そう言って箸と九尾俵寿司を置くと黒狐は「おぉ!!これが妖狐界隈で有名なBAKU BAKUの九尾俵寿司!!ボリューミーな見た目で美味しそうですね!いただきます!!」
「いえいえ!どうぞごゆっくり!」
満面の笑みで食べ始める黒狐を見つつもクロコが対応していた美しい妖狐にも九尾俵寿司を配膳する。
「お待たせしました、九尾俵寿司です!あとこちら伝票ですね!」
お冷を飲んでいた妖狐がハティに「ありがとう、いただきます。」と微笑むと彼も早速配膳した九尾俵寿司を食べ始める。
「うん、柔らかいししっかり味が染みてるね!美味しい!
実は他と迷っていたけど、ここに来て良かったよ!」
その様子をレジで見ていたアイもニッコリ笑いながら見ておりアイからは遠くの席の黒狐の食べている様子も首を宙に浮かせて見ている。
十数分、九尾俵寿司をゆっくりと食べていた妖狐やペロリと平らげて追加注文したデザートの
「店主オススメのシュークリーム」を食べ終わりほぼ同タイミングで会計を済ませる。
「「ご馳走様でした!!」」
ハモるようにそう挨拶をすると最初は知らない者同士だったが味について語りながら店を後にして行った。
「ありがとうございました。」
「あざっしたー!」
「ありがとーございましたー!」
それぞれ退店した妖狐達に挨拶を返しながらそれぞれ次の来客に備えて準備をし始めた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...