翼が駆ける獣界譚

黒焔

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海賊の海

船旅

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タニュエレト、カイ、そしてカノプスに見送られてアメンルプトの港を出航する桃と夜潮。
3人が手を振っていてそれに手を振り返していたが港が離れるにつれて3人の姿は遠く、小さくなりそして遂には見えなくなった。
そんな中、桃がある事に気付く。
「ねぇ、夜潮。この船って誰が操縦してるの?」
「いや...分からないがアメンルプトから同行者が居るって陛下言ってたし、その人なんじゃね?
挨拶くらいしておこうぜ。」
「うん、確かにそうだよね。」
そう話して2人は操舵室へと足を運ぶとそこに居たのは...

「っ!?
なんでお前が船を操縦してるんだよ!?」
夜潮が驚き半分、笑い半分で声を上げる。
それも無理はない。
先のランスを追う手前で死闘を繰り広げていた相手...トフェニスがそこに居たのだから。
「ん?あぁ、操縦出来るから居る。文句あるか?それにお前の操縦は信用出来ない、元海賊。
そして桃殿。先程は失礼した。
インフェルノに操られていたとはいえ、女王様より迎え入れよと言われていたお客人に剣を向けてしまう無礼、どうかお許し頂きたい。」
自分を倒した相手だからだろうか、何処か不機嫌そうに夜潮に当たるがインフェルノに操られて襲撃した件に関して桃に謝罪をする。
「俺にはナシかよ!催眠を解いたのは俺なんだぜ!?」
「...無論、感謝しているさ。
だが、あの夜潮キックは何だ!めちゃくちゃ痛かったんだぞ!?」
「わ、悪かったって!!アレに関してはしょうがないだろ!?」
騒がしく言い合いを始めるが桃はあるワードに気が付き問いかける。
「トフェニスさん...いえ、別にそう畏まらなくても全然大丈夫なんですけど...
それよりも元海賊!?夜潮が!?」
それを聞いた桃はまたしても驚いて夜に問い掛ける。
海賊、桃は彼らに決して良い感情を持っておらず不安を拭わないと今まで旅をしてきた夜潮ですら信用出来なくなってしまうからだ。
「あー、うん。隠してたワケじゃないんだけどな。まぁお嬢は知らないものな。
俺、元・海竜...ジーヴァ海賊団に居たんだよね。」
「しかも海竜海賊団!?なんだか情報が追いつかないぃぃぃ~...」
桃の様子を見て申し訳無さそうな苦笑を浮かべるとトフェニスが船を操縦し前方を確認しつつ問いを投げる。
「自ら海賊団を離れた、なんて話を聞いたが?」
「...まぁね。俺にも目的が出来たからな。
それを話したらキャプテンが「決めるのはお前自身、俺はただ好き勝手やってるだけだ」と言ってくれた。
だから海賊を抜けて、昇陽に戻ったんだよね。
悪い、少し1人で海を見ていたい。何かあったら呼んでくれよ?」
話が終わるとニッコリ笑い見張り台へと飛び特に彼方を見る事もなく1人座り込む。
桃は話を聞き終え夜潮を目で追うと見張り台にも聞こえる程度の声で一声掛ける。
「目的、それが私には何だか分からないけど果たせるといいね!私、応援してるよ!」
続けて神妙な様子でトフェニスが口を開く。
「...すまなかった。私も言い過ぎてしまった。」
言葉による返答はないものの「はいはい、分かってますよー」と言わんばかりに見張り台から軽く手を振りながらリネ諸島に昔から伝わる「星灯」というか曲を三味線を使い奏で、歌い始めた。


「♪星の光を私は紡ぐ 孤独な船乗りを導く為
波の音で私は歌う 彼方の光に伝わるように
数多の運命を乗せた船旅 遥かな海路に希望は必ずある♪

♪星の灯が今宵も照らす 暗海の船乗りを慈しむ為
波の音で安らかに眠る 彼方の光に辿り着くように
数多の物語を語る船旅 遥かな海路に希望は必ずある♪」

かつて仲間たちと旅をした賑やかな海賊船に思いを馳せて、桃とトフェニスに優しく聴かせるように。

「いい歌だね...海賊ってこういう歌を聴きながらお酒飲んだり料理食べたりするのかなぁ。
それはそ」
「星灯(ほしあかり)...私が聞いた知識では海の神、カノン神の加護が宿る歌だと聞いた事があるが...あの粗野な連中には似つかわしくないな。」
見張り台から顔をひょっこり覗かせた夜潮が笑いながら応える。
「いい歌だろ?トフェニスが紹介した通り、カノン神の加護が宿ってるんだよ。
あと今は俺が歌ったが本来は船付の歌姫が歌ったりして、それを聴きながらドンチャン騒ぎするんだぜ!」
「えー、何か嫌だなぁ。それ、ちゃんと聴いてたりするの?絶対聞いて無さそう!」
「それが居るんだよな...わざわざ歌姫の近くに来る船長も、居たりするんだぜ?」

穏やかな会話をしていたが不意にトフェニスの表情が険しくなる。
どうやら前方の異変に気付いたらしく声を震わせながら桃と夜潮に声を掛ける。

「大変だ...前方、船影あり...そんな...あの竜の頭を象った髑髏の旗、間違いない!よりにもよって..."海竜"のジークヴァルド!!海竜海賊団、通称ジーヴァ海賊団の船、竜王の雫号(ドラゴンロード・ティアドロップ)だ!!!」
「噂をすれば、か。
トフェニス将軍!回避しよう!キャプテンに目を付けられたら間違いなく碌な目に合わない!早く!!
"歌姫"に捕捉されたらアウトだぞ!」
そんな事は分かっている、と言わんばかりに舵を切り竜王の雫号から距離を取ろうととするが既にそれが無駄な行為だと思い知る。

「♪空行く者よ 教えておくれ
果てしない海の向こうに何が待つのか

輝く星よ 導いておくれ
荒れ狂う波の向こうにこの歌届けて

時には彷徨い 時には傷付き
過酷な旅が待つだろう
それでもまだ見ぬ希望を求めて
蒼い世界を旅する♪」

思わず聴き入るような美しくも力強い歌声...
距離があり波の音もある為、本来ならば決して耳に届く事はない歌声...
それは即ち、もう既に彼らは"歌姫(セイレーン)"に発見され....海竜海賊団に捕捉されたという事になる。
「ダメだ!桃殿、夜潮、追い付かれてしまう!!」

「トフェニスさん、大丈夫!あなたは操縦にだけ集中して!!
私...海賊を追い払います!それにあの旗...あの船には私個人としても因縁があるので。

...私を撃った奴、1発殴ってやりたい気分。」

そんな息を巻いて刀を抜こうとする桃の隣に見張り台から降りてきた夜潮が優しい語りかける。
「お嬢、そう慌てなさるなよ。
大丈夫...海賊の対処法なんて十分知ってるから。
海賊ってのはな、無法者なりに破ってはならない絶対の掟ってのがあるんだぜ?
まぁ、任せとけよな!!」
元海賊である夜潮が放った自信に満ち溢れた言葉に桃は笑みを見せ強く頷く。
「そう、だよね!あの海賊達は元は夜潮の仲間...きっと話を聞いてくれるだけの度量は持ち合わせて...」
「無いよ?ジークヴァルド・プレジオス..."海竜"のジーヴァと呼ばれるリネ四大海賊の1人...強欲ではないが貪欲な男...欲しい物は絶対諦めない、絶対妥協しない、海の悪竜だ。」
敢えてトフェニスは船を止める。
そしてどんどん竜王の雫号が接近して遂には隣に並び、止まった。
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