翼が駆ける獣界譚

黒焔

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蒸気煙る歯車の森

怪盗スカイハートの予告状

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ガンヴェルク公国 監獄「アリジゴク」

「予告状って...筆もないのにどうするの?」
予告状を出す、というそもそものところへのツッコミを放棄した桃がスカイハートに疑問を投げるとスカイハートは指を鳴らし誰かと無線のような道具で通信を始める。
「カザネさん?私です。そろそろ...予告状を出してもらえます?
ん?はい、大丈夫です。ありがとうございます!」
カザネ、と呼んだ向こうの相手に予告状を出すよう指示をすると無言で親指をグッと立てる。
「協力者が居たのね。それにその装置、スカイハート...もしかして貴方、わざと囚われてるでしょ?」
「...流石、勘が鋭いな。そうだよ。
でも理由だけは悪いけど言えない。今はまだね。」
ピッキングをしながらそう言うとカチャッと音がして牢の扉が開く。
「さぁ行こう。脱獄なんて言わない、桃は何もしてないんだろうからね。」
「...ありがとう、スカイハート。とりあえず出口を目指して行く感じ?」

ん、と少し考えた後に桃の問いに答える。
「いや、出口は厳戒態勢だ。非常避難口というものがある、それを利用した方がいい。」
「確かにそうだね、此処、監獄だもんね。
...小刀ならある。もし看守が居てもある程度は戦えるよ!」
スカイハートは「素晴らしい!」と言うと小さくガッツポーズをする。
アリジゴクは地下へ六層に重なる監獄。
スカイハートの話によると現在収監されている階層は地下2階だが、脱出するには看守達の詰め所の前を通過せざるを得ない。
そしてその詰め所を管理している軍人...フラウ・サイスという隠密・諜報・暗殺の天才。
恐らくまだ2人が檻から出ている事は知られていない今が好機である。
「スカイハート、貴方も飛行能力はあったよね...一気に駆け抜ける、というのは?」
「それが出来たら何人も成功している。
不可能だから、私達は考えなくてはならないんだ。」
「はぁ、早いとこ刀を取り戻したいんだけどなぁ。」

桃がため息を吐く。
そしてカツ、カツ、と軍靴を踏み鳴らす足音が此方に向かってくる。
「ヤバい、看守...下手すりゃフラウかも知れない!」
と、スカイハートが桃に耳打ちすると足音は向かってくる途中のところで止まる。

「っ、つ、詰め所に入ったのかな?」

桃は壁から僅かに顔を覗かせ詰め所のある廊下を見遣るが誰1人居らず気配も感じない。

「大丈夫、誰も居ないみたいだよ。」
「...多分詰め所の中だろう。
ゆっくり進もうか。」
2人は深呼吸をしつつ足音を立てずにそのまま先を進むがスカイハートが辺りを見回し詰め所の静けさに安堵して小刀の間合いを考えた程度の距離を空けた後ろから付いてくるのを目視確認して頷き前を振り返ると不意に首を掴まれ目を向けると軍服が目に入る。

「やはり、脱出していたか。怪盗スカイハート、そして不運なお嬢さん?」
ふと柔らかに微笑みの視線を向けた軍服の女獣人はスカイハートの首を掴んだまま桃に向けて話し続ける。
「キミは安心してこの先に進んで欲しい。
罪を犯した者ではないキミを上からの命令だからと捕えるのは私の流儀にそぐわない。」 

「え、あ、あの...いいんですか?」

クスクス笑いながら軍服の女獣人は頷き「大丈夫だよ。」と答えた為、桃はもがき苦しむスカイハートを見ると再び口を開く。
「あの...その人を解放してもらえますか?」
しかしその言葉を聞いた軍服の女獣人は険しい顔になりスカイハートの顔を壁に押し付ける。

「我儘は感心しないな。此奴は軍から兵器を盗もうとした怪盗...逃したら大変な事になる。
このフラウ・サイスが捕らえた以上、脱獄などされては何を言われるか分からない。」

フラウ・サイス。
先程スカイハートが口にしたこの階層の管理者であり番人。
だとしたら、解放などするわけがない。
そんな中、壁に押し付けられながらもスカイハートはフラウに言葉を投じる。
「フラウさん、よ...桃は...海賊に奪われた刀を...取り戻したいだけだ...あの海竜海賊団から、な。」
それを聞いたフラウの表情に驚きの色が現れてスカイハートを掴む力が弱まる。
「何...?」
続けて桃が捕捉する。
「本当です。あの海賊団が奪ったのは昇陽の神宝です。
きっとあの海賊団はこの国にも来る、否...来ていてもおかしくありません!」
「しかしスカイハートを解放する理由にはならない。
桃、といったな。貴女はこのアリジゴクからの脱出を許そう。
成すべき事、在るべき場所に帰るといい。」
優しい声を桃に掛けた直後に捕らえたスカイハートを睨みながら冷徹な声で言いスカイハートの両腕を蜘蛛糸のような素材で出来た縄を巻き付けて捕縛する。
「貴様は更なる底へと幽閉させてもらう。
...アリジゴクは捕らえた罪人を逃しはしない。」
しかしスカイハートの眼は死んでおらず不敵に笑いながらその眼をフラウに向けて嗤う。
「ハハハ...私を二度も捕らえた、そんな油断をしているのかな?フラウ・サイス!」
「...どうしよう、スカイハートがおかしくなった。」
「なわけあるかい!ったく、カッコよく決めさせてくれ...」
どう考えても逆転は不可能と見える状況に桃が心配と呆れを溢しながらボソッと言うとスカイハートはすかさずにツッコミを入れる。
もういいか?
そんな顔をしながら下層へと続く廊下をフラウがスカイハートを連れながら歩き出そうとした時、不意にスカイハートの手に巻き付けられた糸縄がジュワリと溶けるような音が聞こえる。
「え?」
「痛っ!」
フラウがその音に気付いた時には遅くスカイハートはブツっと糸縄を自力で引きちぎりフラウと桃の肩を足蹴にしながらその場を脱する。
「ありがとう、カザネさん!」
「えっ!?援軍!?スカイハート、援軍呼ぶなんて聞いてないよ!」
「言ってないもーん!!」
脱出、援軍、逃走、この一瞬で変わり過ぎた事態にフラウも戸惑いを見せながら追いかけようとするが1人の獣人が立ち塞がる。
「フラウ・サイス...ガンヴェルク軍の中でも貴女なら話は通じるかと思ったが残念だよ。」
スカイハートがカザネ、と呼んだサソリの獣人である。
「成る程...痺毒のカザネ...数年前にガンヴェルク軍を抜けた貴様があの少年を怪盗とし、この国に反旗を翻すか。」
鎌のような形状をした双剣をカザネに向けて距離を詰める。
一方カザネはペストマスクをしており表情こそ読めないが長く結んだ髪の先を高質化させまるでサソリの毒針のようにして翡翠色をした刃を構える。
「反逆者、此処で命を散らすがいい!!」
まるで獲物を前に捕食者の顔を見せたカマキリが前脚を振るうかのように双剣で攻め入るとカザネはそれをいなし双剣を持つ手を目掛け毒髪針を突き刺そうとするが防がれてしまい翡翠刃での接近戦に持ち込む。
「フラウ、私が有利な事に変わりはない。
この国の為に今はスカイハートを捕えるのは諦めて貰うぞ。」
「ふざけるな!この国の為?法を蔑ろにする者達が吠えるな!!私は退かない。貴様らは私が捕える!」
「分からず屋め。そこで伏せていろ。」
「っ!?カザネ...!!」
双剣と翡翠刃による応酬は騙し討ちの如く背後まで伸ばした毒髪針がフラウの背を捉えその痛みと即効性の麻痺毒は瞬時にフラウの身を襲いその場に崩れ落ちる。
「...覚え...て...い...r...」
身体は動かず舌が回らず言葉が出ない。
麻痺毒をまともに受けたフラウはその場を後にするカザネの背を見ながら看守達に報告する術もなく桃、スカイハート、カザネを絶対の監獄であるアリジゴクからの脱出を許してしまった。


一方、脱出に成功した桃とスカイハートはカザネが乗ってきた飛空バイクを見つける。
「ちょっと!カザネさん居ないけどどうするの!?」
「大丈夫、大丈夫!私が運転は出来るさ!」
ハッハッハ、と笑いながら脱出を満面の笑みで喜ぶスカイハートに若干キレ気味で桃が返す。
「違うって!!カザネさんまだあのフラウって人と戦ってるじゃん!」
「え?今さっき倒して来たが?」
桃の背後から急にカザネの声がした。
「わぁぁぁ!?た、倒したんですか!?」
「まぁカザネさんなら大丈夫って信じてましたよ!!」
スカイハートが笑いながら近付くとカザネは呆れたような溜め息を吐く。
「無理はもうしないでくれ、私は君の協力者であってお守りではない。
さぁ、2人とも早いとこ乗ってくれ。2人ならギリギリ走れるからな。」
桃とスカイハートは頷き飛空バイクに乗りそれを確認するとカザネは手早くエンジンを入れてアリジゴクを後にする。

「向かう先はあるか?」
荒々しい音と蒸気が風を切り進む中、桃は決意を秘めたように口を開き行き先を告げる。
「港で。海賊船が着くような港!!
私は今すぐそこに行かなければならない!!」
流石だな、といったようにスカイハートは笑いカザネも静かに頷くとガンヴェルクの港の一つ、ナナホシの港へと向かうのだった。
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