翼が駆ける獣界譚

黒焔

文字の大きさ
23 / 28
王国護りし十三の角

騎士王顕現

しおりを挟む
港から暫く歩くと王都エクスカリバーの市街地へと繋がる門が現れエッカディエールの姿を見ると衛兵である騎士達が握った右手を左胸の前に持っていき跪く、という不思議な動作を見せる。
「この国の挨拶、みたいなものなのかな?」
「さぁな。俺、ああいう堅苦しいの無理だわ。」
桃の疑問に夜潮が欠伸混じりに答える。
しかし心底呆れているように見えつつもしっかりと一挙一動を観察していた。
「敬礼みたいなものじゃないかな?」
少し考えながらもスカイハートがボソッと言う。
「んー、確かに敬礼が近いものだと思いますよ。でも、それとは少し違いますが。」
エッカディエールがどこか困ったように答えながらも歩みを止める事なく進む。
市街地に入り聞こえてきたのは迎える民の歓声、その声は彼の後ろを歩く桃達にも向けられていた。
「エッカディエール卿の凱旋だ!」
「まさにマリアンの預言の勇者だ!勇者達に栄光あれ!」
「レオルド様が私達に言った通りね!」
「騎士王は、アルース王は神話の厄災を打ち砕く勇者を呼んだんだ!」
「アディン聖獣王国に光あれ!」
その様子はまさに祭事を彷彿とさせる光景だった。
それもその筈。彼らから見た姿、それは円卓の騎士が引き連れる勇者達なのだから。
「ハハハ...慣れない事でしょうが暫し我慢なされて下さい、彼らも悪気はなく寧ろ歓迎していますので...」
「だ、大丈夫ですよ!分かってますので、ちょっと慣れてなかったものだから...」
エッカディエールのフォローを受け入れつつも桃は群衆の視線にどこか照れ臭さを感じて袖で顔を隠す。
「全員の眼、潰しときましょうか?」
「いや、駄目に決まってンだろ。」
桃を助けようとしたのかスカイハートが催涙効果のある鱗粉を放とうとするが夜潮が呆れ顔で止めると「あ、はい...すいません」とスカイハートは肩を落として一言謝罪する。
「ったく、トフェニスも雷雅様も俺1人にツッコミ押し付けるなよな...まったく。」
「「....はい。」」
群衆の熱い視線にどうにも本調子が出ないのか何故かトフェニスと雷雅はポカーンとしていた。
「ちょ、なんか固まってる!?嘘でしょ!?
お二人、人前に出てもおかしくない人達じゃん!」
少し笑いながら桃が2人を指摘すると2人同時にジトーっと無言で桃を見つめる。
「あ、うん...反応返しづらいリアクションやめてよ....。」
そう返す中でも何故かトフェニスと雷雅は桃をジト目かつ無言で見ていた。

「エッカディエール卿、凱旋されたのですね!お疲れ様です!」

城の門前にて1人の若い女騎士がエッカディエールに声を掛けてくる。
そして後ろにいる一行に目を向けるとニッコリと微笑み自己紹介をする。
「初めまして、預言の勇者さん達。
私はピノ。円卓の騎士が1人...あなた方のお話は我が王より聞いております。」
その容姿は頭部に三本のツノを生やした黒髪に胸元が大きく開いた鎧を身に纏い槍を携えたワルキューレにも似たトリケラトプスの獣人。
彼女は手にした槍で地面を鳴らすとゆっくりと白く巨大な城門が開く。
どうやら魔術による施錠が施されピノが持つ槍を鍵としているというのだ。
「....夜潮、何処を見ているのだ?」
不意に雷雅が夜潮に問い掛ける。
「え?あ、べ、別に何処も見てねぇよ!?」
そのやりとりに頭に「?」を浮かべるピノではあるが夜潮は再び彼女を見ると小さく「こりゃすげぇ!」と呟き頷く。
「この鎧ですか?実はこれ、アルース王が特注で支給してくれた鎧なんですよ!!」
何故か目を輝かせながらピノが自信満々に言うと雷雅は深いため息を吐きトフェニスと桃は顔を見合わせ「え、騎士王ってそういう...?」といった顔をしておりスカイハートは見て見ぬふりとなっていた。
「我が王は...その...偶にとんでもないバカですので。」
なんとエッカディエールは堂々と「バカ」と口にし、それを聞いた夜潮は遂に我慢出来ず大笑いをしてしまう。
「ギャハハハハハ!!何それ!?超面白い奴じゃん、騎士王!!」
「トンデモ趣味の騎士王...なんだろ、タニュエレト女王みたいな威厳のある人だと思って損した気分...」
「あ、いえ、桃様!私も同意見ですよ?だって王務の時のアルース王は真面目な印象でしたからね!?」
「言われ放題じゃん、騎士王...。」

流石にこの点ばかりはフォローしきれないのか更に「え?何この状況?」と首を傾げてキョロキョロするピノに対してもため息を吐きながら「皆さん、それでは城に入り我らがバ...じゃなくて、王が座する謁見の間に案内しましょう。」
と淡々と言いながら引き続き案内を再開する。
先程と打って変わって和やかな雰囲気を取り戻した一行にピノが「また後程お会いしましょうね。」と手を振っていて桃が一礼を返した後に夜潮が満面の笑みで手を振り返した。

白魔石造りの城内に赤い絨毯、周囲には鎧や絵画が飾られていた。
異世界を写した特徴的な絵画が多く川獺の獣人のようなモノが炎の刀を構える絵、黒い衣服と氷雪を纏い刀を構えた絵、果てにはロアズ神話の神々を描いた絵がそこにはズラリと並べられていた。
「凄い...絵や鎧を見ているだけで不思議な気分になる...ゆっくり、見ていたいかも。」
桃が鎧に触れたり飾られた絵画を堪能するようにじっくり観ているとエッカディエールが申し訳無さそうに「王が待たれていますので。それに、ゆっくり観る時間はちゃんと確保されていますよ。」と言うとあと少し先にある謁見の間の扉を指差す。
「わ、分かりました!」
スタスタと付いて行くとエッカディエールがゆっくりと扉を開ける。

「我が王よ。昇陽の貴族・桃、そしてその一行を連れて参りました。」

厳かに、そして広間に響く声で先程の騎士達が見せたアディン独特の礼を見せる。
桃が謁見の間を除くと其処には玉座に座しながらも神代の威を放つ聖剣を手にした黒銀の鎧を纏った金髪の男の姿が目に入った。
頭には王冠と巨大なツノ、恐らくはヘラジカの獣人と思われるその男は穏やかな口調で口を開く。
「ご苦労、エッカディエール。
今は私に跪くよりも先に、貴卿自身...長旅の疲れを癒すといい。」
その言葉を聞くと跪いたまま「御意。」とだけ答えエッカディエールはその場を去る。
そして一行が改めて謁見の間を目にすると其処には他の円卓の騎士がズラリと並び各々の武器を携えながら一様に桃達を見つめていた。
その圧は凄まじくトフェニスも緊張した表情を浮かべ夜潮も額に汗を滲ませる。
圧を放つ静寂を先程の男が打ち砕く。

「すまないな、御客人。
無理は承知だがどうか気張らずに入るといい。
そして、よくぞ来た...このアルース・ブラックフレア・アディンが統べて円卓の騎士が護りし王国、アディン聖獣王国へ。
貴殿らを歓迎しよう!!」

暖かさを感じる優しい口調、そして向けられた笑みを見ると緊張はほどけて自然と謁見の間へと足が動く。
眼前に居る黒銀の鎧を纏った男こそがエッカディエールやピノの主にしてこの国の王、騎士王アルース。
アルースが放つ和やかな雰囲気に何処か安堵して桃は口を開く。
「アルース王、私は昇陽の桃。
...旅がしたい、私はそんな気持ちから旅に出た一介の貴族でしかありません。
そんな矢先にアメンルプト王国のタニュエレト女王よりアディン聖獣王国に向かいアルース王に会えとの言葉がありこの国へと参りました。

...アルース王も私の事を預言として存じていた、その事を詳しくお聞かせ願えますか?」

民が口にしていた預言、勇者、その言葉が桃なりにずっと気になっていたのだろう。
この場でならその答えが聞けるのだと信じて思い切ってアルースへと問いを投げつける。
そして夜潮、トフェニス、雷雅、スカイハートも跪きながらアルースからの返答を待っていたその時だった。

「おいガキ...民や他の騎士共が勇者っつってたろうが。
その自覚も無く兄貴にンな事聞いてるとか...ナメてんのか?才と運命に選ばれた者たるテメェの運命を!!!」
荒々しく投げられた言葉に驚き顔を上げた桃の目の前に居たのはアルースに似ていながらも不機嫌そうな表情を浮かべ騎士とは到底思えない荒々しさを感じさせる男だった。
その男は桃にまるで暴漢のように顔を近付け睨み付ける。
「え、な、何...を...?貴方は一体...?」
桃は混乱しながら男を睨む。
「モルドムース、貴様...!!」
その様子を見た眼帯をした騎士が慌ててアルースに似た男を止めに入ろうとするがアルースが強い口調で制する。
「モルドムース!
....退け。
さもなくば我が眼前より失せろ。
この者はまだ何も知らない、そしてその内に秘めた力もまだ分からない。
故に順を追っての説明を要する。
ヘリオス、モルドムースの判断に任せよう...でも、ありがとう。」

ヘリオスと呼ばれた騎士は一礼をして元の場所に戻り、それから暫くしてモルドムースと呼ばれた騎士は桃の胸ぐらを掴み小さく「ナメてんじゃねぇぞ、衆生を救う才能があるくせに。」と舌打ち混じりに言うと再びヘリオスの隣へと戻るのだった。


「我が弟が本当にすまないな、今すぐではないがこの非礼は必ず詫びるつもりだ。
その前に最優先事項があるので話そう。
キミが耳にした預言、そして勇者という言葉に纏わる話を。」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...