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007 王女訪問
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――ガドから第二王女の来訪を告げられてから、さらに二週間後の訪問当日。
第二王女シャルロット・フォン・フィナーレは少数の護衛を連れ、アルビオン家にやってくることになっていた。
俺の隣では、エドワードとシドワードがその時を今か今かと待ち望んでいる。
そもそも、どうしてシャルロットがアルビオン家に来ることになったのか。
数日前、父から突然その知らせを受けた時、俺は耳を疑ったものだ。
だが状況を聞けば聞くほど、その理由は明白になっていた。
事の発端としてまず、シャルロットはエルナから剣の指南を受けているらしい。それは俺たちと同じだ。
そしてエルナから、アルビオン家にも同世代の優秀な剣士がいると聞いたシャルロットは、直接その剣士と会ってみたいと考えた――ということらしい。
「まさか王女様から興味を持たれるとはな!」
「ああ、これはチャンスだぞ。気に入られたら王家に入るのも夢じゃない!」
二人は顔を見合わせ、この降って湧いた好機に心躍らせている。
対する俺は……内心穏やかではいられなかった。
というのもだ。
実のところ、俺はシャルロットのことをよく知っていた。
それもそのはず。なにせ彼女は『剣と魔法のシンフォニア』に登場するメインヒロインの一人なのだから。
そして物語の中盤、俺と敵対する因縁の相手でもあった。
つまるところ、俺からすれば歩く死亡フラグも同然だ。
(まさかこんな形で出会うことになるとはな……)
ゲームの中で、レストとシャルロットにこんな接点はなかったはず。
少なくとも、ゲーム内でそういったことを示すやり取りは存在しなかった。
となると考えられるのは、現時点で既にゲームのストーリーから分岐が始まっているのだろう。
その理由は、大方予想がつく。
この三か月に及ぶ鍛錬の結果、俺はかなりの実力を身に着けることができた。
恐らく一対一なら、兄二人とも互角以上に渡り合えるほどに。
そのことがエルナを通じてシャルロットに伝わってしまった結果、このようなことになってしまっていると考えるのが自然だ。
――つまり、シャルロットがエルナから聞いた同世代の剣士というのは、俺のことを指している可能性が高いのだ。
俺がエルナから指導を受けていることを知らないエドワードたちは、思い付きすらしないだろうけれど。
(そもそもゲームにはなかった展開が起きている時点で、イレギュラーな存在である俺が原因だろうしな)
だが、これはまずい。
非常にまずい。
物語が始まるまでは、できるだけ登場人物と関わりたくなかった。
シナリオが変わってしまえば、どこから新しい死亡フラグが湧き出てくるか分からなくなってしまうからだ。
正直、一刻も早くこの場を離れたいくらいだが、自分が目的だと言われた手前、そうするわけにはいかない。
(さて、どうしたものか……)
俺がそんな風に葛藤している最中だった。
兄二人が、突如として俺に冷たい視線を向けてくる。
「おい貴様、何をしている?」
「殿下が興味を持たれているのは俺たちだ。まさか自分も会えるなどと勘違いしてないだろうな?」
「お前がいたら王女様におもてなしもできないだろう。さっさと城から出ていけ!」
――――ナイスアシスト!
まさかの援護射撃に、俺は内心で雄叫びを上げていた。
これは想定もしていなかった神パスだ。
転生してから初めて、俺は兄たちの存在に感謝した。
さて、兄から直々に命令されたのでは仕方ない。
本当に、心から、ものすごく残念だが、ここは席を外させてもらうとしよう。
「……かしこまりました。それでは、先に失礼します」
そう言って、俺は兄たちの視線を背に部屋を後にした。
ルンルンスキップで一旦自室に戻った俺は、とりあえず木剣を手に取った。
命令に従い、城の外に出る必要がある。
とりあえずシャルロットが帰るまで剣でも振って時間を潰すとしよう。
ただ、問題はどこで過ごすかだ。
ここで不意に、俺の中にある考えが思い浮かんだ。
「そういえば、そろそろ魔物と戦ってみてもいい頃合いだよな……」
城の窓から見える、魔物の生息地『アルストの森』を視界に収めながら小さく呟く。
俺の【テイム】を最大限に生かすためには、魔物を倒して配下にしなくてはならない。
今の実力でも、低級魔物くらいは倒せるはずだ。
ただ一つ問題がある。
アルビオン家には、王立アカデミー入学までは『アルストの森』に入ってはいけないという決まりがあるのだ。
入口付近には基本的に弱い魔物しか存在しないが、たまに強力なはぐれ個体が紛れ込んでいるためだ。
実際、ゲームで『アルストの森』が登場した時にも同様の仕様は存在していた。
危険なことは間違いないだろう。
「……今、下手に目立つのも面倒だからな。やめておくか」
そう自分に言い聞かせ、俺は人通りの少ない場所で剣の素振りを始めるのだった。
◇◆◇
一方そのころ。
アルビオン家に到着したシャルロットは侯爵から丁重な歓迎を受けた後、エドワードとシドワードを交えてお茶会を催していた。
挨拶を交わし、しばらく歓談を楽しんだ後、シャルロットは二人の剣術を見せてもらうことにした。
案内された大修練場で、エドワードとシドワードは誇らしげに自らの剣さばきを披露する。
しかし、それを見たシャルロットの反応は芳しくなかった。
エルナの指導を受けているだけあって、二人の腕前は確かに悪くない。だが、シャルロットにとってはさほど驚くようなものではなかったのだ。
(……なんだか少し、拍子抜けですね。二人がスキルを授けられたのは半年以上前のようですし、これくらいでしたら特に驚くようなことはないと思いますが……)
そんなシャルロットの反応に気付いたのか、エドワードとシドワードは顔を見合わせ、こそこそと話し合い始める。
「どうする、反応が今一つだぞ」
「所詮は箱入り娘だ。型だけじゃ俺たちの凄さが分からないんだろう」
「なるほどな。だが、こんなことで興味を失われるのは勘弁だぞ……そうだ!」
何かを閃いたエドワードは、意を決してシャルロットに提案した。
「やはり型ではなく、実戦でお見せした方がよろしいかと」
「実戦、ですか?」
シャルロットが眉をひそめると、とエドワードは「ええ」と頷く。
そして屋敷のすぐ近くにある『アルストの森』にて、魔物相手に剣技を披露すると宣言した。
アカデミーに通っていない彼らはまだ魔物との戦闘を許可されていない。だが、王女からの好感度を上げよというのは父直々の命令だ。
王女の目に留まるためなら、多少のルール違反は許されるだろうとエドは結論づけた。
その提案に、シャルロットは驚きを隠せない。
「すでにもう、魔物と戦うほどの力をお持ちなのですか?」
「え、ええ。あの森は私たちにとっては庭のようなものです。何があってもシャルロット様をお守りいたしますので、ご安心ください」
エドワードは強がるが、シャルロットの不安は拭えない。
彼女は後ろに控える、使用人兼護衛役の青髪の少女エステルに視線を送る。
エステルはBランクに近い、Cランクの実力者となっている。
そんな彼女は少し悩むような素振りを見せた後、ゆっくりと頷いた。
それを見たシャルロットは、エドたちをまっすぐに見つめ返す。
「分かりました。それではぜひ、よろしくお願いいたします」
「ええ、お任せください」
こうして、エドワードとシドワード、シャルロット、そしてエステルの四人は森へ向かうことになったのだった。
第二王女シャルロット・フォン・フィナーレは少数の護衛を連れ、アルビオン家にやってくることになっていた。
俺の隣では、エドワードとシドワードがその時を今か今かと待ち望んでいる。
そもそも、どうしてシャルロットがアルビオン家に来ることになったのか。
数日前、父から突然その知らせを受けた時、俺は耳を疑ったものだ。
だが状況を聞けば聞くほど、その理由は明白になっていた。
事の発端としてまず、シャルロットはエルナから剣の指南を受けているらしい。それは俺たちと同じだ。
そしてエルナから、アルビオン家にも同世代の優秀な剣士がいると聞いたシャルロットは、直接その剣士と会ってみたいと考えた――ということらしい。
「まさか王女様から興味を持たれるとはな!」
「ああ、これはチャンスだぞ。気に入られたら王家に入るのも夢じゃない!」
二人は顔を見合わせ、この降って湧いた好機に心躍らせている。
対する俺は……内心穏やかではいられなかった。
というのもだ。
実のところ、俺はシャルロットのことをよく知っていた。
それもそのはず。なにせ彼女は『剣と魔法のシンフォニア』に登場するメインヒロインの一人なのだから。
そして物語の中盤、俺と敵対する因縁の相手でもあった。
つまるところ、俺からすれば歩く死亡フラグも同然だ。
(まさかこんな形で出会うことになるとはな……)
ゲームの中で、レストとシャルロットにこんな接点はなかったはず。
少なくとも、ゲーム内でそういったことを示すやり取りは存在しなかった。
となると考えられるのは、現時点で既にゲームのストーリーから分岐が始まっているのだろう。
その理由は、大方予想がつく。
この三か月に及ぶ鍛錬の結果、俺はかなりの実力を身に着けることができた。
恐らく一対一なら、兄二人とも互角以上に渡り合えるほどに。
そのことがエルナを通じてシャルロットに伝わってしまった結果、このようなことになってしまっていると考えるのが自然だ。
――つまり、シャルロットがエルナから聞いた同世代の剣士というのは、俺のことを指している可能性が高いのだ。
俺がエルナから指導を受けていることを知らないエドワードたちは、思い付きすらしないだろうけれど。
(そもそもゲームにはなかった展開が起きている時点で、イレギュラーな存在である俺が原因だろうしな)
だが、これはまずい。
非常にまずい。
物語が始まるまでは、できるだけ登場人物と関わりたくなかった。
シナリオが変わってしまえば、どこから新しい死亡フラグが湧き出てくるか分からなくなってしまうからだ。
正直、一刻も早くこの場を離れたいくらいだが、自分が目的だと言われた手前、そうするわけにはいかない。
(さて、どうしたものか……)
俺がそんな風に葛藤している最中だった。
兄二人が、突如として俺に冷たい視線を向けてくる。
「おい貴様、何をしている?」
「殿下が興味を持たれているのは俺たちだ。まさか自分も会えるなどと勘違いしてないだろうな?」
「お前がいたら王女様におもてなしもできないだろう。さっさと城から出ていけ!」
――――ナイスアシスト!
まさかの援護射撃に、俺は内心で雄叫びを上げていた。
これは想定もしていなかった神パスだ。
転生してから初めて、俺は兄たちの存在に感謝した。
さて、兄から直々に命令されたのでは仕方ない。
本当に、心から、ものすごく残念だが、ここは席を外させてもらうとしよう。
「……かしこまりました。それでは、先に失礼します」
そう言って、俺は兄たちの視線を背に部屋を後にした。
ルンルンスキップで一旦自室に戻った俺は、とりあえず木剣を手に取った。
命令に従い、城の外に出る必要がある。
とりあえずシャルロットが帰るまで剣でも振って時間を潰すとしよう。
ただ、問題はどこで過ごすかだ。
ここで不意に、俺の中にある考えが思い浮かんだ。
「そういえば、そろそろ魔物と戦ってみてもいい頃合いだよな……」
城の窓から見える、魔物の生息地『アルストの森』を視界に収めながら小さく呟く。
俺の【テイム】を最大限に生かすためには、魔物を倒して配下にしなくてはならない。
今の実力でも、低級魔物くらいは倒せるはずだ。
ただ一つ問題がある。
アルビオン家には、王立アカデミー入学までは『アルストの森』に入ってはいけないという決まりがあるのだ。
入口付近には基本的に弱い魔物しか存在しないが、たまに強力なはぐれ個体が紛れ込んでいるためだ。
実際、ゲームで『アルストの森』が登場した時にも同様の仕様は存在していた。
危険なことは間違いないだろう。
「……今、下手に目立つのも面倒だからな。やめておくか」
そう自分に言い聞かせ、俺は人通りの少ない場所で剣の素振りを始めるのだった。
◇◆◇
一方そのころ。
アルビオン家に到着したシャルロットは侯爵から丁重な歓迎を受けた後、エドワードとシドワードを交えてお茶会を催していた。
挨拶を交わし、しばらく歓談を楽しんだ後、シャルロットは二人の剣術を見せてもらうことにした。
案内された大修練場で、エドワードとシドワードは誇らしげに自らの剣さばきを披露する。
しかし、それを見たシャルロットの反応は芳しくなかった。
エルナの指導を受けているだけあって、二人の腕前は確かに悪くない。だが、シャルロットにとってはさほど驚くようなものではなかったのだ。
(……なんだか少し、拍子抜けですね。二人がスキルを授けられたのは半年以上前のようですし、これくらいでしたら特に驚くようなことはないと思いますが……)
そんなシャルロットの反応に気付いたのか、エドワードとシドワードは顔を見合わせ、こそこそと話し合い始める。
「どうする、反応が今一つだぞ」
「所詮は箱入り娘だ。型だけじゃ俺たちの凄さが分からないんだろう」
「なるほどな。だが、こんなことで興味を失われるのは勘弁だぞ……そうだ!」
何かを閃いたエドワードは、意を決してシャルロットに提案した。
「やはり型ではなく、実戦でお見せした方がよろしいかと」
「実戦、ですか?」
シャルロットが眉をひそめると、とエドワードは「ええ」と頷く。
そして屋敷のすぐ近くにある『アルストの森』にて、魔物相手に剣技を披露すると宣言した。
アカデミーに通っていない彼らはまだ魔物との戦闘を許可されていない。だが、王女からの好感度を上げよというのは父直々の命令だ。
王女の目に留まるためなら、多少のルール違反は許されるだろうとエドは結論づけた。
その提案に、シャルロットは驚きを隠せない。
「すでにもう、魔物と戦うほどの力をお持ちなのですか?」
「え、ええ。あの森は私たちにとっては庭のようなものです。何があってもシャルロット様をお守りいたしますので、ご安心ください」
エドワードは強がるが、シャルロットの不安は拭えない。
彼女は後ろに控える、使用人兼護衛役の青髪の少女エステルに視線を送る。
エステルはBランクに近い、Cランクの実力者となっている。
そんな彼女は少し悩むような素振りを見せた後、ゆっくりと頷いた。
それを見たシャルロットは、エドたちをまっすぐに見つめ返す。
「分かりました。それではぜひ、よろしくお願いいたします」
「ええ、お任せください」
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