アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)

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橘圭吾のダンスの練習



「…せん、ぱい…?」
「ああ、ただいま」
「…おかえり、なさい…」

圭吾は、夢現つのまま、ふわり、と笑った。
その笑顔は、ひどく幼くて、頼りなくて。俺は、たまらなくなって、彼の頭を優しく撫でた。

「寂しかったか?」

思わず、口からそんな言葉がこぼれていた。
圭吾は、こくり、と小さく頷くと、俺のジャージの裾を、ぎゅっと弱々しく握りしめた。

(ああ、もう)

こいつを、一人にしたくない。
俺が、そばにいてやらないと。
そう、強く思った。
それは、もう、家政婦としての義務感なんかではなかった。
ただ純粋に、目の前で寂しそうにしているこの男を、俺が守ってやりたい。温めてやりたい。
そんな、どうしようもない愛情が、胸の奥から溢れてきて、止まらなかった。

俺の中に芽生えたこの感情を、圭吾はまだ知らない。
俺自身も、まだ、この気持ちにどう向き合えばいいのか分からない。

だけど、俺たちの日常は、それでも続いていく。
手のかかる王子様の世話を焼き、彼の無防備さに振り回され、時折見せる寂しさに胸を痛める。そんな毎日。
それは、もしかしたら、今まで俺が経験したどんな日常よりも、幸せなものなのかもしれない。

そんなことを考えていた、数日後の夜だった。
夕食後、いつものように二人でリビングでくつろいでいると、圭吾がおずおずと、切り出してきた。

「あのぉ、桜井先輩…」
「ん?」
「今度、新曲のダンスの練習があるんですけど…」

圭吾は、どこか言いづらそうに、視線を彷徨わせている。

「よかったら…その、練習、見ててもらえませんか…?」

それは、俺にとって、全く予想もしていない申し出だった。
家でのポンコツな姿しか知らない俺に、プロとしての自分を見せる。
それは、彼が、俺に対して、また一つ、新しい心の扉を開こうとしている証拠なのかもしれない。

俺は、高鳴る心臓を抑えながら、まっすぐに彼の瞳を見つめ返した。

「…俺で、いいのか?」

俺の問いに、圭吾は、はにかむように、でも、はっきりと頷いた。

「先輩に、見ててほしいんです」

その瞬間、俺たちの日常が、また少し、特別なものに変わる予感がした。
まだ見ぬ彼の姿への期待と、踏み込んではいけない領域に足を踏み入れてしまうかもしれないという、ほんの少しの恐れ。
その二つの感情がないまぜになったまま、俺は、ただ、こくりと頷くことしかできなかった。
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