捨てられ聖女は、神獣様に溺愛される~もふもふな守護者と始める薬師スローライフ~

天音ねる(旧:えんとっぷ)

文字の大きさ
16 / 21

正しい奇跡の起こし方

しおりを挟む
そうだ。この力を使えば。
私の治癒の祈りをもってすれば、こんな酷い傷でさえ、一瞬で塞ぐことができる。
血を止め、痛みを取り除き、骨を繋ぎ、傷跡一つ残さずに、エマちゃんを元の元気な姿に戻してあげられる。

それは、抗いがたいほど甘美な誘惑だった。苦しむ幼い少女を前にして、何もしないなどという選択肢は、私の中にはなかった。

だが。
力を使おうと意識した瞬間、脳裏を凄まじい恐怖が駆け巡った。

ダメだ。
ダメだ、ダメだ、ダメだ!

この力を使えば、王都に居場所が知れてしまう。
聖女の力は、微量であっても、特殊な魔力感知のアーティファクトに反応する可能性があると、神官が言っていた。
もしそうなれば、この村にも追っ手がかかるだろう。
騎士たちが、土足でこの穏やかな村を踏み荒らすだろう。

私を守ろうとして、村の誰かが傷つくかもしれない。フェンだって、無事ではいられないかもしれない。
私のせいで、この大切な場所を、危険に晒すわけにはいかない。

恐怖が、氷の蔓のように私の心臓を締め上げる。
足が震え、呼吸が浅くなった。城で感じていた、あの息苦しさが蘇る。

どうすればいい?

力を使えば、エマは助かる。でも、村が危険になるかもしれない。
力を使わなければ、村は安全だ。
でも、エマは……このままでは、助からないかもしれない。
たとえ助かったとしても、足に癒えない障害が残ってしまうだろう。

どちらを選んでも、地獄。
私の心は、二つの選択肢の間で激しく引き裂かれた。


「リアさん……」

不意に、誰かが私の名前を呼んだ。
顔を上げると、村長のエルマーさんが、涙を堪えながら、縋るような目で私を見ていた。

「リアさん……あんたしか、おらんのじゃ。どうか、エマを……エマを助けてやってくれんか……!」

エルマーさんの声に、周りの村人たちも、次々と私に懇願の視線を向けた。

「頼む、リアさん!」

「俺たちのエマを、助けてくれ!」

その瞳に宿っていたのは、かつて私が向けられていた「聖女様」への狂信的な期待ではなかった。
それは、この村の仲間である「薬師のリア」に向けられた、必死の、そして心からの祈りだった。

彼らは私に、奇跡を求めているのではない。
薬師として、今できる最善を尽くしてほしいと、ただそれだけを願っているのだ。
そして、私は見た。
泣き崩れるサラさんの、母親としての絶望の顔を。
そして、痛みと恐怖に喘ぎながらも、私を見つめて「りあ、せんせ……」と、か細い声で助けを求める、エマちゃんの瞳を。

その瞬間、私の心の中の迷いは、霧が晴れるように消え去った。
恐怖を、強い意志の炎が焼き尽くす。
聖女の力に頼る前に、薬師としてやれることが、まだあるはずだ。
私が、リアとして、この子を助けるんだ!

「落ち着いてください!」

自分でも驚くほど、凛とした、力強い声が出た。
パニックに陥っていた村人たちが、はっとしたように私を見る。その視線が、一点に集中するのを感じながら、私は矢継ぎ早に叫んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

若返った老騎士の食道楽~英雄は銀狼と共に自由気ままな旅をする~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
あるところに、数百年周期で現れる魔王がいた。 人族から生まれ、闇に魅入られし者、妖魔を統べる魔王と呼ばれる存在。 度々現れては、人々を恐怖のどん底に貶めてきた。 此度、その魔王との戦いに終止符を打った男がいた。 名をシグルド卿といい、六十歳を迎えた老人の男だ。 元平民にも関わらず、爵位を得て史上初の将軍にまで上り詰めた英雄である。 しかし、魔王と一騎討ちの末に相打ちになった……と世間では言われていた。 当の本人は実は生きており、しかも若返っていた。 そして自分が生きていることが知られると、色々と面倒なことになると悟った。 それにどうせなら、自由の身になって世界を旅したいと。 これは役目を終えた英雄が旅をし、様々な人と出会い、美味い物を食べていく物語。

王太子殿下から逃げようとしたら、もふもふ誘拐罪で逮捕されて軟禁されました!!

屋月 トム伽
恋愛
ルティナス王国の王太子殿下ヴォルフラム・ルティナス王子。銀髪に、王族には珍しい緋色の瞳を持つ彼は、容姿端麗、魔法も使える誰もが結婚したいと思える殿下。 そのヴォルフラム殿下の婚約者は、聖女と決まっていた。そして、聖女であったセリア・ブランディア伯爵令嬢が、婚約者と決められた。 それなのに、数ヶ月前から、セリアの聖女の力が不安定になっていった。そして、妹のルチアに聖女の力が顕現し始めた。 その頃から、ヴォルフラム殿下がルチアに近づき始めた。そんなある日、セリアはルチアにバルコニーから突き落とされた。 突き落とされて目覚めた時には、セリアの身体に小さな狼がいた。毛並みの良さから、逃走資金に銀色の毛を売ろうと考えていると、ヴォルフラム殿下に見つかってしまい、もふもふ誘拐罪で捕まってしまった。 その時から、ヴォルフラム殿下の離宮に軟禁されて、もふもふ誘拐罪の償いとして、聖獣様のお世話をすることになるが……。

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

死にキャラに転生したけど、仲間たちに全力で守られて溺愛されています。

藤原遊
恋愛
「死ぬはずだった運命なんて、冒険者たちが全力で覆してくれる!」 街を守るために「死ぬ役目」を覚悟した私。 だけど、未来をやり直す彼らに溺愛されて、手放してくれません――!? 街を守り「死ぬ役目」に転生したスフィア。 彼女が覚悟を決めたその時――冒険者たちが全力で守り抜くと誓った! 未来を変えるため、スフィアを何度でも守る彼らの執着は止まらない!? 「君が笑っているだけでいい。それが、俺たちのすべてだ。」 運命に抗う冒険者たちが織り成す、異世界溺愛ファンタジー!

夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。 七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!! 初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。 2024年5月 書籍一巻発売 2025年7月 書籍二巻発売 2025年10月 コミカライズ連載開始

処理中です...