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第6話 無価値の烙印
しおりを挟む古竜の巨体が横たわる広大な空洞は、先ほどまでの死闘が嘘のような静寂に包まれていた。残るは、溶岩の放つ熱気と、勝利に酔いしれる英雄たちの高揚感だけだ。
レインはパーティメンバーから距離を置き、黙々とドロップアイテムの回収作業を終えた。巨大な竜の鱗は一枚一枚が塔の盾ほどの大きさがあり、牙は鋭利な短剣として通用するだろう。そして、まだ微かに魔力の脈動を続ける心臓からは、最高純度の魔石が採取できた。Sランクパーティの報酬としては、文句のつけようがない戦果だった。
彼はそれらすべてを、パーティ共有の『素材用アイテムボックス』へと丁寧に収納していく。このボックスの管理もまた、戦闘に参加できない彼の重要な役割の一つだった。
「よし、終わったな! 行くぞ、お宝の時間だ!」
ガレスの野太い声が響き渡る。古竜が守っていたものの先――空洞の奥には、黒々とした巨大な岩盤をくり抜いて作られた、荘厳な扉が待ち構えていた。ダンジョンの最深部に存在する、伝説の宝物庫である。
アレクを先頭に、セシリア、ガレスが意気揚々とそちらへ向かう。その後ろを、レインは小さな家族たちを連れて、影のように静かについていった。
「どんな財宝が眠っているのかしら。王族が使うような魔法の装飾品があるといいわね」
「俺はもっとすげえ斧が欲しいぜ! この斧も悪くねえが、そろそろ俺の腕力に追いつけなくなってきたからな!」
「どちらも手に入るだろうさ。この俺たち『紅蓮の剣』の功績にふさわしい宝がな」
弾むような会話。彼らの間には、もはやレインが存在しないかのような空気が流れている。レインもまた、その輪に入ろうとは思わなかった。ただ、自分の足元で不安そうに歩くジェマの小さな背中を撫で、頭上のポルンが熱で参ってしまわないよう、時折水筒の水を染み込ませた布で冷やしてやることに意識を集中させた。
やがて一行は、圧倒的な存在感を放つ宝物庫の扉の前に到着した。古代のドワーフ族によって作られたであろうその扉には、解読不能なルーン文字と共に、侵入者を拒む強力な封印魔法が幾重にも施されている。
「ふん、面倒な仕掛けを。だが、俺の聖剣の前では無意味だ」
アレクはそう呟くと、『グランツェリオン』の切っ先を扉の中心に押し当てた。聖剣が持つ浄化の力で、封印を力ずくで破壊するつもりなのだろう。
誰もが、扉が開いた先にあるであろう輝かしい財宝に意識を奪われていた、その時だった。
「……レイン」
不意に、アレクが温度のない声で名を呼んだ。振り返った彼の金の瞳には、勝利の高揚感のかけらもなく、代わりに氷のように冷たい侮蔑の色が浮かんでいた。その視線は、まるで道端の汚物を見るかのように、真っ直ぐにレインへと向けられている。
「なんだい、アレク?」
レインは、予期せぬ呼びかけに少し驚きながらも、穏やかに問い返した。しかし、アレクの口から紡がれた言葉は、彼のささやかな平穏を木っ端微塵に打ち砕く、無慈悲な刃だった。
「お前のせいで、探索のテンポが悪い。ペットの世話だか何だか知らんが、正直に言って足手まといなんだよ」
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