24 / 25
第24話:もう本部に行くしかない
しおりを挟む
補習の教室を出た瞬間、静馬は大きく伸びをした。
「……長すぎだろ、今日の補習」
夕日が差し込む廊下を歩きながら、心なしか足取りが重い。
教科書とノートで膨れた鞄が余計に肩へ圧し掛かる。
(それにしても……美琴、いなかったな)
淡々としたように見せかけて、どこかで少し期待していた。
夏休み明け、教室でふとした拍子に顔を合わせるくらいは、あるかもしれないと。
(本当に封霊機構の人間なのか確認したかったけど……それとも、俺を避けてるだけか?)
視線を落とす。自嘲気味な笑みが浮かぶ。
「振られた側が、なにを期待してんだか」
そのとき、不意に肩のあたりがひやりと冷えた。
すぐ近くに、誰の目にも映らない存在が張り付いている。
「……ラウラ、お前もずっと黙ってないで何か言えよ」
ラウラは幽体のまま、彼の隣で揺れる髪をなびかせた。
くぐもった声で、ふっとため息を吐くように呟く。
「聞かれたから言うけど……正直、面倒くさいのよね。恋愛ってやつは」
「いや、俺は恋愛相談してるんじゃなくて、今後どうするかって話を――」
「会いたいなら会えばって、私はずっと思ってるわよ。
さっさと答えをもらいにいけばいいじゃない。
今の問題はそれだけなんでしょ?」
静馬は立ち止まった。
街の風の音だけが、耳に響く。
「……それもそうだな」
ラウラが霊体のまま横に並び、声を落とす。
「だったらさ、もういっそのこと」
ラウラがふわりと前に回り込んで、指をつきつける。
「封霊機構に行ってみたらどう?本部に」
「……は?」
「彼女が本当に機構の人間なら、九尾が暴れてる今は本部にいるはずよ」
「いやいやいや、俺……そもそも機構に関わりたくないし」
「でも、もう十分関わってるじゃない。あの狩野悠雅という奴との戦闘だって完全に向こうにバレてるでしょうし。顔もバレてるんだし関わらないなんてもう無理よ」
静馬は言葉を失い、数歩だけ無言で歩いた。
「……たしかに、もう逃げられないかもしれないけど」
「それに、知りたいんでしょ?
彼女がなんで別れを告げたのか。
それって、彼女だけの問題じゃなかったんじゃないの?」
静馬は立ち止まり、空を見上げた。
マンションの明かりが点きはじめる。
遠くで犬の鳴き声がして、日常が広がっている。
でも、その日常の裏で確かに何かが蠢いている。
「……行ってやるよ、機構本部。
ただし、文句言われたら、ぜってぇ逃げるからな」
ラウラはくすっと笑った。
「ま、その時は私が何とかしてあげるわ。見えないけどね」
そして、静馬はひとつだけ決めた。
(会って、確かめる。全部)
「なあ、ラウラ。封霊機構の本部って……どこにあるんだ?」
静馬はぽつりと尋ねた。
霊体化したまま隣を歩いていたラウラが
ちらりとこちらを見て呆れたように肩をすくめる。
「は? そんなの私が知ってるわけないでしょ」
「お前、機構のこと知ってただろ。接点があったじゃないのか?」
「確かに奴らとは接触したことはあるけど、どこから来たかまでは知らないわよ。
だいたい、封霊機構なんてのは普通の組織と違って地下に潜ってるもんでしょう?
表に看板立てて『こちら本部です』なんて言ってるわけないじゃない」
静馬は頭をかきながらぼやいた。
「……言われてみればそうだな。あの狩野って奴に吐かせればよかったな。失敗したぜ」
「たぶん、構成員には専用の転移術式とかがあるんじゃない?
それこそ結界と結界をつないで、外からは一切感知できないようにしてるとか。
高度な封印術にはよくある手口よ」
「そんなの、一般人の俺が入り込めるわけないじゃねぇか」
「だったら、いっそのこと九尾の使徒と戦ってみたら?」
「……は?」
静馬は思わず聞き返す。
冗談かと思ったが、ラウラの顔はいつになく真剣だった。
「確実よ。今の機構は九尾の殲滅で手いっぱい。もしその眷属と交戦すれば、間違いなく本部から接触が来るわ」
「九尾の使徒とやり合うって……言うけどさ」
静馬は歩道橋の上で立ち止まり、街を見下ろしながら呟いた。
「そんな奴、今どこにいるかもわからねえし、いきなり襲ってきてくれるわけでもないだろ?」
「……それがね、実は意外と出没してるのよ」
ラウラが霊体のまま腕を組み、真面目な顔で言った。
「最近この界隈、氣の流れが不安定なの。何かが人知れず動いてる。
たぶん……九尾の使徒の誰かが、九尾復活の氣を集めるため獲物を探して
うろついてるんじゃない?」
「それって……狙われる側になれって話じゃねえか」
「ふふ、それが一番手っ取り早いのよ。
それに、機構側だって今ごろ焦ってるはず。
あれだけ危険な存在が街に現れて、何も反応してないなんてこと、ありえないわ」
静馬はふと疑問を口にした。
「またあの狩野が襲ってくるんじゃないか?」
「さあ? そのへんは、私も知らないわよ。
あの調子なら、また懲りずにちょっかい出してくるかもね」
「……今は放っといてほしいぜ。俺は美琴のことを知りたいだけなのに」
言いかけて、静馬は口をつぐむ。
ラウラは微笑んだ。
「分かってる。だからこそ必要な衝突は避けられないって話よ」
「……わかったよ。来るなら来い。
九尾だろうが機構だろうが、全部まとめて……受けて立つ」
「……長すぎだろ、今日の補習」
夕日が差し込む廊下を歩きながら、心なしか足取りが重い。
教科書とノートで膨れた鞄が余計に肩へ圧し掛かる。
(それにしても……美琴、いなかったな)
淡々としたように見せかけて、どこかで少し期待していた。
夏休み明け、教室でふとした拍子に顔を合わせるくらいは、あるかもしれないと。
(本当に封霊機構の人間なのか確認したかったけど……それとも、俺を避けてるだけか?)
視線を落とす。自嘲気味な笑みが浮かぶ。
「振られた側が、なにを期待してんだか」
そのとき、不意に肩のあたりがひやりと冷えた。
すぐ近くに、誰の目にも映らない存在が張り付いている。
「……ラウラ、お前もずっと黙ってないで何か言えよ」
ラウラは幽体のまま、彼の隣で揺れる髪をなびかせた。
くぐもった声で、ふっとため息を吐くように呟く。
「聞かれたから言うけど……正直、面倒くさいのよね。恋愛ってやつは」
「いや、俺は恋愛相談してるんじゃなくて、今後どうするかって話を――」
「会いたいなら会えばって、私はずっと思ってるわよ。
さっさと答えをもらいにいけばいいじゃない。
今の問題はそれだけなんでしょ?」
静馬は立ち止まった。
街の風の音だけが、耳に響く。
「……それもそうだな」
ラウラが霊体のまま横に並び、声を落とす。
「だったらさ、もういっそのこと」
ラウラがふわりと前に回り込んで、指をつきつける。
「封霊機構に行ってみたらどう?本部に」
「……は?」
「彼女が本当に機構の人間なら、九尾が暴れてる今は本部にいるはずよ」
「いやいやいや、俺……そもそも機構に関わりたくないし」
「でも、もう十分関わってるじゃない。あの狩野悠雅という奴との戦闘だって完全に向こうにバレてるでしょうし。顔もバレてるんだし関わらないなんてもう無理よ」
静馬は言葉を失い、数歩だけ無言で歩いた。
「……たしかに、もう逃げられないかもしれないけど」
「それに、知りたいんでしょ?
彼女がなんで別れを告げたのか。
それって、彼女だけの問題じゃなかったんじゃないの?」
静馬は立ち止まり、空を見上げた。
マンションの明かりが点きはじめる。
遠くで犬の鳴き声がして、日常が広がっている。
でも、その日常の裏で確かに何かが蠢いている。
「……行ってやるよ、機構本部。
ただし、文句言われたら、ぜってぇ逃げるからな」
ラウラはくすっと笑った。
「ま、その時は私が何とかしてあげるわ。見えないけどね」
そして、静馬はひとつだけ決めた。
(会って、確かめる。全部)
「なあ、ラウラ。封霊機構の本部って……どこにあるんだ?」
静馬はぽつりと尋ねた。
霊体化したまま隣を歩いていたラウラが
ちらりとこちらを見て呆れたように肩をすくめる。
「は? そんなの私が知ってるわけないでしょ」
「お前、機構のこと知ってただろ。接点があったじゃないのか?」
「確かに奴らとは接触したことはあるけど、どこから来たかまでは知らないわよ。
だいたい、封霊機構なんてのは普通の組織と違って地下に潜ってるもんでしょう?
表に看板立てて『こちら本部です』なんて言ってるわけないじゃない」
静馬は頭をかきながらぼやいた。
「……言われてみればそうだな。あの狩野って奴に吐かせればよかったな。失敗したぜ」
「たぶん、構成員には専用の転移術式とかがあるんじゃない?
それこそ結界と結界をつないで、外からは一切感知できないようにしてるとか。
高度な封印術にはよくある手口よ」
「そんなの、一般人の俺が入り込めるわけないじゃねぇか」
「だったら、いっそのこと九尾の使徒と戦ってみたら?」
「……は?」
静馬は思わず聞き返す。
冗談かと思ったが、ラウラの顔はいつになく真剣だった。
「確実よ。今の機構は九尾の殲滅で手いっぱい。もしその眷属と交戦すれば、間違いなく本部から接触が来るわ」
「九尾の使徒とやり合うって……言うけどさ」
静馬は歩道橋の上で立ち止まり、街を見下ろしながら呟いた。
「そんな奴、今どこにいるかもわからねえし、いきなり襲ってきてくれるわけでもないだろ?」
「……それがね、実は意外と出没してるのよ」
ラウラが霊体のまま腕を組み、真面目な顔で言った。
「最近この界隈、氣の流れが不安定なの。何かが人知れず動いてる。
たぶん……九尾の使徒の誰かが、九尾復活の氣を集めるため獲物を探して
うろついてるんじゃない?」
「それって……狙われる側になれって話じゃねえか」
「ふふ、それが一番手っ取り早いのよ。
それに、機構側だって今ごろ焦ってるはず。
あれだけ危険な存在が街に現れて、何も反応してないなんてこと、ありえないわ」
静馬はふと疑問を口にした。
「またあの狩野が襲ってくるんじゃないか?」
「さあ? そのへんは、私も知らないわよ。
あの調子なら、また懲りずにちょっかい出してくるかもね」
「……今は放っといてほしいぜ。俺は美琴のことを知りたいだけなのに」
言いかけて、静馬は口をつぐむ。
ラウラは微笑んだ。
「分かってる。だからこそ必要な衝突は避けられないって話よ」
「……わかったよ。来るなら来い。
九尾だろうが機構だろうが、全部まとめて……受けて立つ」
1
あなたにおすすめの小説
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
学生学園長の悪役貴族に転生したので破滅フラグ回避がてらに好き勝手に学校を魔改造にしまくったら生徒たちから好かれまくった
竜頭蛇
ファンタジー
俺はある日、何の予兆もなくゲームの悪役貴族──マウント・ボンボンに転生した。
やがて主人公に成敗されて死ぬ破滅エンドになることを思い出した俺は破滅を避けるために自分の学園長兼学生という立場をフル活用することを決意する。
それからやりたい放題しつつ、主人公のヘイトを避けているといつ間にかヒロインと学生たちからの好感度が上がり、グレートティーチャーと化していた。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
追放された俺の木工スキルが実は最強だった件 ~森で拾ったエルフ姉妹のために、今日も快適な家具を作ります~
☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺は、異世界の伯爵家の三男・ルークとして生を受けた。
しかし、五歳で授かったスキルは「創造(木工)」。戦闘にも魔法にも役立たない外れスキルだと蔑まれ、俺はあっさりと家を追い出されてしまう。
前世でDIYが趣味だった俺にとっては、むしろ願ってもない展開だ。
貴族のしがらみから解放され、自由な職人ライフを送ろうと決意した矢先、大森林の中で衰弱しきった幼いエルフの姉妹を発見し、保護することに。
言葉もおぼつかない二人、リリアとルナのために、俺はスキルを駆使して一夜で快適なログハウスを建て、温かいベッドと楽しいおもちゃを作り与える。
これは、不遇スキルとされた木工技術で最強の職人になった俺が、可愛すぎる義理の娘たちとのんびり暮らす、ほのぼの異世界ライフ。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる